第2話 戦場痕

 タケさんの手紙を渡し終えたら、留置所に向かう。



 タケさんには妻と二人の子供がいた。子供は3歳と6歳の子だ。よく、『子供の成長が早い』だとか『これからかかる養育費や学費を稼がないとな』とか言っていた。

 俺自身家族がいなかった為、少し羨ましいと感じた事がある。そんな俺にも、食事によく誘ってくれたり、特殊部隊に配属された時も相談に乗ってくれた。優しい人だった。

 手紙を渡す時、声が震えてしまった。一番辛いのは家族の方々なのに。まだ、人生これからの人だったのに。

 土下座をした。

 言葉には出していなかったが、節々から『何でタケさんではなく、俺が帰ってきた。』と感じられた。死んで欲しいとも思っているかもしれない。これからの資金の援助や生活保護などは出来るだろう。だが、死ぬのは無理だ。タケさんとの約束だから。



 留置所に着くと牢屋まで案内された。

 てっきり手錠でも付けられると思っていたのだがな。


 「明日、自衛隊の方から弁護士が送られてくる。」

 「はいはい。了解です。」


 牢屋の鍵が閉まる。


 「暇だな・・・寝よ。」



次の日


 「どうも、弁護士を担当させてもらう重谷しげたにです。」


 なんか胡散臭そうな奴が来た。へらへらへらへら気持ち悪い奴。


 「さて、今回の事案は少々取り扱いに困る物でしてねぇ。何故かあんな事件を起こしたのにも関わらず、外国の特に、戦地となったアフガニスタン周辺の国からは『英雄』として崇められているとか。どうなんです?」

 「別に俺が英雄って広めたわけじゃないし。そもそも『事件を起こした』とか言われても、戦場でただ一人になったから生き残る為に戦っただけなんだが?も使われたしな。」

 「そうそれです!!あなたが言う生物兵器。情報には『死体が蘇り《よみがえ》人間を襲うとか。しかも、噛まれたら身体が腐っていき、最終的に死体の仲間入りになるとのことで、映画の話でもしているんですか?」

 「なんだ、情報に無いのか。何処の国が開発したのか分からないが、確実な証拠が出ている筈だ。資料にも載っているだろ?俺らが任務を遂行していた時、急に生物兵器に感染したと思われる奴らが襲ってきた。その後、テロリストどもの空襲爆撃で俺らがいた場所が爆撃され、散り散りになった。」

 「ええ、ええ。分かっていますとも!ただ、そんな中あなただけ生き残るのは難し過ぎやしませんか?例えば、どこかに避難でもしていない限り。それに、あなたが現地住民を銃で射殺している映像が流れてきているんですよー。」


 なんなんだこいつは?俺を煽っているのか?


 「生き残ったのは運としか言えないな。実際、生き残る事に精一杯だったからな。後、『現地住民を射殺』と言っているが、正確には『生物兵器に感染した現地住民の射殺』な?駆除とも言うが。イラン軍の兵士と作戦に当たっていたんだ。あちらの方から協力を申し出されてな。俺自身、日本に戻るには時間がかかるからと思い、その間の衣食住と交換で手伝ったんだ。何か問題でも?」

 「そりゃあ問題ですよ!本当に感染した人だったのか証拠がありませんし、何より、人殺しですよ!人殺し!感染を治せるかもしれないのにも関わらず、独断での任務遂行。大問題です!!これは残念ながら覆りませんよ?」


 大げさに体で表現しながらそう説明された。

 はっきり言って殴りたい。

 こいつは、現場がどうなっていたか分からないからこんな事が言えるんだ。

 親を失い、行き場を失った子供たち。建物の崩壊に巻き込まれ怪我負い、そんな中あの化け物どもから逃げなければいけない恐怖。

 戦う力が無い者にとって地獄の日々だった。

 それを知らない癖に、こいつは。殺してやろうか。



 内心、怒りに打ち震えていると、ドアがノックされた。


 「コンッ。コンッ。すみません、ちょっと時間いいですか?」

 「大丈夫ですよ?丁度、こっちも話がひと段落しそうだったので。」


 こいつは何勝手に話を終わらせようとしてたんだ?

 軽く睨みつけながら思う。


 「実は、先ほどイランやパキスタン、トルクメニスタン等、計15ヵ国の国々から情報の提示がありまして。海堂 勝さんの件については、政府側のミスと言うことで話がまとまったので、釈放という形になるそうです。」

 「なっ!!何故ですか!!今まで、まとまった証拠自体出てきて無かったじゃないですか!!」


 おいおい、こいつ弁護するために来たんだよな?

 とうとう化けの皮が剝がれたか。


 「了解!じゃあ、もう帰っていいんだな?」

 「はい!こちらこそすみませんでした。」

 「・・・・・・チッ!分かりました。私も失礼します!」


 荷物をまとめ、急いで出ていこうとしていたので腕を掴む。


 「おい。袖のしたにある物出しな!あんたも手伝え!」


 こいつは話している最中、しきりに右側の袖を気にしていた。


 「なっ!!触るな!!暴行罪で訴えるぞ!!」


 しっかりと体を抑え、袖を探る。すると、中からボイスレコーダーが出てきた。


 「おざなりな盗聴だな。こいつ、逮捕だよなぁ?」

 「はっはい!おい!何人か人をよこしてくれ!!」


 おそらくマスコミ等から雇われたのだろう。

 弁護士にしては批判的な意見に共感を持っていたようだからな。自衛隊の奴ら、管理がおざなりじゃあねえか?


 数人の警官に連れていかれるのを横目で見ながら、出口に向かう。


 「あー疲れた。家に帰ってからどうするかなぁ。取り敢えず自衛隊は辞めようかな、流石にキツイわ。」


 出口で、政府から支給されたスマホと数万円ほど入った財布を受け取る。


 「にしても助かったぜ!他国からの情報が無かったら今頃は。」

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