第4話 再愛
「彩羽」
琥太朗は、ペスカトーレを私より素早く食べ終わると、ナプキンで口を拭きながら、ぶっきら棒に、私をお前ではなく、彩羽と呼んだ。
「何?」
私はまた、少し緊張していた。それを悟られないように、パスタに目と口を集中させ、琥太朗よりぶっきら棒に返事をした。
「俺、片想いしてるやつがいるんだ」
「…!」
(恋の相談!?)
私の顔はきっと青ざめているだろう。
「そ…そうなんだ。誰?私の知ってる人?」
「よく知ってると思うけど」
「へー…」
一気に口に運ぶパスタが少なくなる。
「彩羽に聞いてほしいんだけど」
「うん。まぁ、私が協力できるなら、してあげてもいいよ」
心と裏腹な言葉を言わなければならないこの状況で、私は、パスタをくるくるするだけだ。もう、冷静ではいられなかった。きっと、口調もさっきと比べてきつくなっているだろう。
「そいつさ、結構可愛くて、女の子女の子してて、何するも一生懸命でさ」
「ふ~ん。そうなんだ」
ふてくされるように、協力的、とはお世辞にも言えない言い方で、それでも、辛うじて、私は相槌を打つ。
「んでぇ、つい最近再会したんだけど、結構美人になっててさ。びっくりしたんだ」
「んー…、それはライバルが多そうだね」
冷たくあしらう。
「多分な。確かにこれから、ライバル増えると思うんだ。それまでに何とか振り向かせたいんだけど、相手が、どう思ってるか、彩羽、わかる?」
「えー…?私がその子のこと知らないのに、わかる訳ないじゃ…。あ、でも、さっき私がよく知ってる子だって言ってたね」
知らんぷりも出来ないと、もう腹をくくった私は、自分の気持ちを何とか静め、スプーンとフォークをお皿に置くと、真面目な顔をして、琥太朗に尋ねた。
「うん。そいつのことは、彩羽が一番詳しいと思うんだけど」
(あぁあ…そんな近しい人を応援しなきゃいけないのか…)
「彩羽!?」
「へ?」
突然、琥太朗が大声で私の名前を呼んだ。なんで?と私は思ったけれど、すぐ、自分の異変に気が付いた。
私は、泣いていた。
「あ、あはは。あはははは!ごめんごめん!何でもない!何でもない!!」
慌てて頬の涙を手の平で叩くように拭った。
「彩羽も…もしかして、すきなやつ、いんの?」
「え?あ、え、と…」
言葉に詰まる。ここで言えたら、楽だろう。ずーっと想って来たんだ。言ったら、気が楽になるのかな?応援できない、って言ったら、苦しまずに済むかな?これ以上、恋しい人の恋の相談なんかに乗らなくて良いかな?
そんなことを思っていたら、止まるどころか、涙がどんどん溢れて来た。
「彩羽?大丈夫か?」
心配そうに、琥太朗が私の顔を覗き込む。もう琥太朗の機嫌をうかがっている余裕はなかった。
「私…私…琥太朗がすきなの…。ずっと、ずっと、すきだったの…」
…言えた。言ってしまった。琥太朗は困るだろうな…。せっかく再会できたのに、その当日に失恋するなんて…。ずーっと想って来た琥太朗を、もう失うなんて…。同じ大学で、これから一緒にいられると思ってた。
彼女にはなれなくても、友達でいられれば…、こんな風に、すぐ手放さなくても良かったじゃない。笑って友達として琥太朗が幸せなら、その幸せを応援してあげれば良かったじゃない。どうして、こんなに急いでしまったの?どうして、抑えられなかったの?どうして…どうして…どうして…。
「お前、馬鹿なの?」
「ふえ?」
情けない声が出てしまった。
「なんで、気付かないかな?鈍いって、お前のこと言うんだな」
「え?」
声が少し正気を取り戻す。
「俺がすきなのは、彩羽、お前だよ」
「…?」
「ばーか!じゃなきゃ、手紙書くなんて約束するか?それを守って手紙書くか?入学式当日に逢うか?」
「琥…太朗…」
「ばーーーーーーーーーーーーーか!!」
琥太朗は、大笑いすると、ピンッ!と、私に痛くも痒くもないデコピンをした。
「琥太朗に…触れても良いの?」
「はぁ?なんだよ、それ。俺の心の中に入って来いよ!って、もうとっくにずかずか上がられてるけどな!」
「琥太朗…」
あっけ、とは、この顔だ。
『幸せになろう』
2人の声が重なった。
これは、長い長い片想いの果てにあった、2人の、2人だけの、秘密―――…。
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