第2話 再会
【彩羽、元気か?琥太朗です。】
その手紙は、3月15日に私の家に送られてきた。男の子らしい、歪で、お世辞にもうまいとはいいがたい文字だった。でも、不思議と乱暴ではない。ということは伝わってくる。あぁ…多分、何回か、書き直してくれたんだろうな…、と思った。琥太朗はそういう奴だ。いつもはへらへらしているが、真面目にしなければらない時は、真剣に取り組んでいた。
【彩羽が、東京の大学に通うって、
「ひっどー!」
1番最初にその手紙を読んだ時、私は、顔を膨らませた。腹立たしい想いと、この後、琥太朗の手紙にはどんなことが書いてあるのか、期待と緊張が走る。
【彩羽、逢ったら、俺に気付くか?俺は気付く自信がある。俺は、彩羽より記憶力が良いからな】
「いちいち人をけなすな!」
また、私は頬を膨らませる。琥太朗の手紙を、突っ込みなしで読むのは、結構大変だった。でも、その言葉を紡いでいる琥太朗を想うと、胸が弾ける。高鳴る。踊る。確かな秘密がその中にあって、誰かが触れたら、壊れそうな気がした。
2人の、2人だけの、秘密にしたかった。
でも、不安があった。この気持ちが、残っているのは、まだ、引きずっているのは、私だけじゃないだろうか…と。だって、この約束は、小学6年生の時の約束だ。これを守ってくれただけで、ありがたい、と思わなくてはならないのだろう…。しかし、私は、それ以上を望んでしまっていた。
【彩羽、とりあえず、朝8時、校門の前で待ってる。楽しみにしてる。】
「…」
もう何度読んだだろう。そのたびに、私は涙を流す。この日を、息を殺して待っていた。
そして、入学式の朝。私は、念入りにメイクをした。前日まで、スマホで、メイクの動画を数週間前から検索し、色々なブランドのアイシャドーや、リップを買いそろえ、チップではなく、筆でやると自然に仕上がる、とも載っていたので、何本も入手した。練習もいっぱいした。まぁ、最初は酷かった。宝塚もいいところだ。なんの踊りを踊るのだ?と自分で真っ赤になった顔を、メイクをしては落とし、メイクをしては落とし、そして、この朝までに、何とかみられる顔にした。
時刻は6時半。少し早いか…とは思ったが、遅刻するよりましだ…と思い、大学へ急いだ。
「!」
私は、遠くから、校門で、ポケットに両手を入れ、足を交差させ、まだ少し冷たい4月の風に少し長めの髪の毛をさらさらなびかせる、背の高い男の人を見つけた。間違いない。琥太朗だ。あんなに、あんなに、恰好…良くなったんだ…。私は、思わず、声をかけるか迷った。いきなり、恥ずかしくなった。
と、躊躇していたら…、琥太朗と思われる、いや、琥太朗が、視線を私に向けた。そして、こっちに向かって小走りで歩み寄ってきた。
「よ!彩羽!」
「…う…うん。久しぶり、琥太朗」
「元気だったか?」
「まぁね」
「変わんねぇな、彩羽」
「何?普通奇麗になったとか言わない?」
「なった」
「!」
頬が熱くなるのが解った。そんなこと、琥太朗は言うやつじゃなかった。いつだって、からかってから、何となく流す。それが、琥太朗。なのに…。
「彩羽、メイクしてる?」
「してるよ?もう大人なんだから。(昨日まで悪戦苦闘してたけど…)」
「へぇ…彩羽も女になったんだな。なんか変な感じ」
「えー…、それはこっちのセリフ。全然琥太朗っぽくない。昔はもっとダサかった」
「あ?ダサいってなんだよ!お前、本当に失礼極まりないな」
「どっちが」
『…ふふふふ』
2人は、ようやく緊張が溶け、あの頃に戻ったように並んで大学の門をくぐった。
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