第2話 コンビニで怒る人・Ⅱ
◆漫画原作の形式で書いています◆
◆◇◆◇◆◇
マネ 「申し訳ございません。
こちら側のミスでした」
深く頭を下げるマネージャーが、両手の平に乗せた3円を差し出す。
その横には、レジカウンターから出てきた店員が、不満と不安で、顔を強張らせている。
耕平 「オレが3円で、
怒ってんのとちゃうことは分かるよな」
耕平はその3円をつまみ取る。
マネ 「は、それはもう、もちろんです。
社員教育がなっていませんでした」
マネージャーが冷や汗を拭きながら言う。
耕平はマネージャーを見ながら、レジにある募金箱へ、チャリッと3枚の一円玉を入れている。
耕平 「自分のミスを確かめもせんと、
客に責任をなすりつけよって、
しかも、その態度の酷いこと……」
耕平は店員を見た。
店員 「そんなつもりは無かったです。
釣銭間違いはしましたけどォ、
ちゃんと謝ってお返ししました」
拗ねた子供の様に返す店員。
塔子 「謝らなかったじゃないの!」
店員 「謝りました!」
マネ 「お前は、黙ってろ!」
マネージャーが、塔子に言い返す店員を怒鳴りつける。
耕平 「……しゃあないの、
このアホンダラは、イッコも反省してへんようやから
こっちも対応を変えさせてもらうわ」
耕平は、マネージャーに顔を向けた。
耕平 「これは、ただのミスと違って
計画的な詐欺行為、つまり犯罪や。な」
店員 「そ、そんな大袈裟な」
店員が、強がった薄笑いを浮かべる。
耕平 「おい、兄ちゃん、
この店員と知り合いやな」
耕平は店員を無視し、店員の友人に怖い目を向けた。
友人 「え、オ、オレは、その……」
不意に問われて、突っ立っていた友人の目が泳ぐ。
耕平 「まあ、ビデオを見たら
このアホが仕事もせんと
こいつと話ししとったんも映っとったやろ」
耕平がマネージャーに向かって言う。
耕平 「マネージャーさん、
あんた、こっちの兄ちゃんが、
釣銭はきちんと払ろたと
デタラメ抜かしたことは聞いたな」
マネ 「……はい」
マネが固い表情で頷く。
店員も友人も血の気を失い、顔が引きつり始める。
耕平 「つまり、
仕事中に知り合いと共謀して
客から金銭を騙し取ろうとしたと言うことやな」
耕平 「おう、こら」
耕平が首を少し傾げ、怒りの形相になる。
耕平 「これのどこが、釣銭間違いやねん。
意図的な詐欺やないかい」
店員 「い、いや、ボクは
勘違いしただけで、その……」
耕平 「もう、おのれは黙っとかんかい」
耕平はハエで払うように手を振り、マネージャーに視線を戻す。
耕平 「仕事中に社員が
客に対して詐欺行為を働いたと言うこっちゃな。
これはマネージャークラスが謝罪して、
どうこう済ます話やないやろ。
違うか?」
耕平 「それとも、強引にしゃしゃり出て、
あんたも、このボケと心中すんのか?」
マネ 「あ、いえ……。
そんなことは、あの、はい……」
耕平に視線を合わせられないマネージャー。
耕平が店員の友人に顔を向ける
耕平 「おい、兄ちゃん、
おのれも他人事ちゃうで。
ことが大ゴトになったら、
おのれの会社にも連絡が行くからな」
耕平 「嫁さんが侮辱されたんや。
わしは徹底的にやるからな。
おのれら、覚悟せいよ」
友人 「あ、でも
オレはそんなつもりじゃなくて……」
泣き出しそうな顔になる友人。
店員 「す、すいませんでした!」
友人 「勘弁してください!」
二人が頭を下げる。
マネ 「お客さまのおっしゃる通りです。
本人には厳しく指導しますので
なにとぞ、穏便にお願いいたします」
マネージャーも再び頭をさげる。
塔子 「あなた、もういいじゃないの」
塔子が耕平の腕を引っ張る。
耕平 「どんな指導や?
人の嫁さんタカリ扱いして
『次から気ィつけよ』で済ますんかい?」
マネ 「いえ、決してそのような……」
顔が引きつるマネージャー。
塔子 「あなた、もういいから。
コウタも手伝って」
塔子が耕平の腕を引っ張りながらコウタを呼ぶ。
耕平 「この店はフランチャイズか?
それとも直営店か?」
「オーエスなのよ」と引っ張るヒナ、押すコウタも含め、三人がかりで、外へ出されようとする耕平。
マネ 「直営店です」
耕平 「それやったら、月イチで、
店長会議があるやろ。
このアホを出席させて、
この詐欺行為を議題に出せ」
ズルズルと外に押されていく耕平。
マネ 「わ、分かりました……」
耕平 「エエか。絶対やぞ……」
ピロリロリ~~ンと、間の抜けたチャイムが鳴り、引っ張られる耕平の姿が店外へと消える。
耕平が消えると、店員と友人がヘタヘタと膝をついた。
ピロリロリ~~ン。
と、再びチャイムが鳴った。
耕平が、塔子たちを引きずりながら店内へと戻ってきた。
耕平 「口約束だけで済ますつもりはあらへんぞ!
証拠に、その会議の議事録のコピーをもってこい!
分かったな!」
店員 「ひい!」
真似 「は、はい!」
凄まじい迫力で怒鳴る耕平に、マネージャー、店員、友人は身を硬直させて答える。
◆◇◆◇◆◇
帰路。車中の四人。
塔子 「やり過ぎ」
後部座席の塔子は、怒った顔で窓の外を見ている。
チャイルドシートに座ったヒナも、「やりすぎなのよ~~」と怒った顔をする。
耕平 「す、すまん。
せっかくの外食だったのに、
我慢できずに、つい……」
申し訳なさそうな顔でハンドルを握る耕平。
コウタ 「でもさ」
助手席のコウタが、上半身を捻じって、後部座席をみながら仲裁に入る。
コウタ 「あの店員さん、これに懲りて、
二度といい加減な接客をしなくなるでしょ」
コウタ 「つまり、これから先、
お母さんみたいに、嫌な目に遭うお客さんは、
いなくなるってことじゃん。
これは、いいことでしょ」
塔子は窓からを向いたまま。
ヒナが「いいことなのよ~~」と賛同する。
コウタ 「店員さんだって、これから、
一線を超えた、不真面目な態度は、
取らなくなるだろうしさ。
今以上の大事になる前に、
更生する機会と巡り会えたんだよ」
耕平 「はあ~~、
コウタは、小学生のくせに
しっかりした考え方をしてるんだな」
耕平が感心した顔で言う。
コウタ 「いや、ほら、
お父さんも、そこまで考えて、
厳しく注意したんでしょ。
ね、ね」
慌ててまとめに入ろうとするコウタ。
耕平 「いや」
耕平は、気楽な顔で否定する。
耕平 「父さんは、
大好きな母さんに、
ふざけた態度を取られたことがムカついて、
我慢できなかっただけだよ」
「店員の更生とか、どうでもいいから」と付け加える。
ヒナ 「大変なのよ~~。
ママ、顔が赤くなっているなのよ~~。
お熱なのよ~~」
塔子 「ちょ、ちょっと、ヒナちゃん!」
後から騒ぐ声が聞こえる。
塔子が上半身を起こし、運転席のヘッドレストに後ろから顔を近づける。
怒った表情を作っているが、やや、顔が赤くなっている塔子。
塔子 「ありがとう。嬉しいわ。
でもね、こんなこと繰り返したら
いけるお店が、どんどん無くなっちゃうからね」
耕平 「いや、もちろん、反省してるよ。
うん、二度と、怒らないから……」
コウタは苦笑しながら、反省する耕平の言葉を聞いている。
次回・傘ドロボウに怒る
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