第13話 いつもの風景


 ネクスード帝国、対魔族領域の絶対境界線。

魔族領域である黒い大森林。

大森林の東端が帝国に接している。

山地に造られた頑強な石の砦。

全域はカバーできていない。-◎-こんな感じの壁が作られた前線基地。


大森林から、いつもの様に魔族の先兵であるゴブリン達が数体出てくる。


「撃てぇい!」


ダンッ!ダンッ!ダンッ!

砦の外壁に設置された数機のバリスタから、矢が放たれる。

再度、放たれる。

ダンッ!ダンッ!ダンッ!


「ゴブリン、全滅。」

「当番兵、回収処理。」


外壁上に欠伸をしながら、のそりと中年太りの派手な金髪男が昇ってくる。


「まったく、たまには余も働きたいものだなあ。隊長よ。」


「そうでありますな。ですが、閣下の雷魔法は最強でございます。」

「下手に撃つと、兵士の仕事がなくなってしまいますので、ええ。」

「ゴブリン如きに、閣下の魔法は強すぎて、勿体のうございますから。」

「閣下は秘密の切り札でございますので、ごゆるりいただいければと、ささっ。」

「細事は、兵士どもに任せて、こちらへ。」


「そうよのう。」


砦に交代で常駐させられる貴族達。

期間毎の兵役、貴族の義務として、魔法攻撃力として各砦に配置されている。


「チッ。」

「ばか、やめろよ。」

「…わあっているよ。」

「おっ、終わったようだ。」


「鉄矢すべて回収終わりました。」

「報告ご苦労。ゴブリンの死体はいつも通り後方に廃棄しておけ。」

「はっ。」


いつもの、どこにでもある風景。



 ネクスード帝国、魔獣放牧地。

帝国には、大陸一のカルデラ盆地がある。

首都から馬で半日の距離、そこが魔獣の天然の放牧地になっている。

外輪山の一部が開けていて、そこを塞ぐように2重の門壁を構築。

そこから、中央付近の内輪山まで数キロを石壁でつないでいる。


 そして、盆地の中に放牧されている魔獣が、黒長牙フィーアオーク。

牙の生えた黒い猪の様な生き物。

成体になると平均が全高が5メートルと巨大で、ゾウ程度の大きさになる。

最大で10メートルにもなる個体も記録されている。


群れを成し、雑食性。

多産で、一度に十頭程生む。

そして一か月程度で、全高2メートル位まで急成長する。


一週間程度の授乳期間があり、豚の様に横になって授乳する。

その為、豚乳は搾乳しにくく、しかも血生臭く飲用に向かない。


だが、肉は帝国の食をまかなっている。

脂からは獣油を絞り、皮や牙などは装飾に使われている。


また、魔獣に与えるエサは雑食なので、首都で発生する生ゴミ、飼料用の雑穀。

冒険者ギルドで、不要なゴブリンや魔獣の廃棄肉等の処分にも利用されている。


 魔獣へのエサやり。

内輪山にエサが集積され、麓に投げ捨てる。


 魔獣狩りとしては、外輪山の門近くで狩ると運搬が格段に楽になる。

その方法として、餌場の内輪山から外輪山の前まで、囮が誘導する。

一番簡単な方法。

奴隷や囚人に、5回成功すれば恩赦が出ると大変人道的報酬をエサに行われる。


5キロメートル全力疾走レースだ。

外輪山外門内壁には巨大なスパイクが何本も取付けられている。

壁下には、人間が通りぬけられる穴が数か所ある。


暴走する魔獣はすぐ止まれない。

スパイクで大ダメージ、その後追撃で倒す。

昔からの猟法。


壁が壊れた事はない。


いつもの、どこにでもある風景。



 ネクスード帝国、首都城下町。

城下町と言ってもかなり広い。

王城を中心にだいたい十字に四分割。

川が近い方向に、南と東側が少し膨らんでいて住民が多い。


西側は、大量の魔獣肉が卸される場所がある。

その関係で、卸売市場や仲卸店が多数集まっている。

小売や屋台もあるので、いつも賑わっている。


 よっと、お忍びの傲慢王子セッカード様だ。


「なんだと!?」


肉を焼いたものだけかと思ったら、唐揚げがあった。

確かに、帝国では油が豊富にある。

魔獣から搾った獣油を使った揚げ物がそこにはあった。


「王国で大流行の唐揚げだよ。早くしないと売り切れるよ。」

「おやじ、肉串と唐揚げ、1本づつだ!」

「あいよ、ちょっとまってな。」

「はいよ。」


料金を払って受け取る。

いつもの魔獣の肉串と、待望の唐揚げ棒だ。

三個、串にささっている。


王国のやつが、レシピチートしやがった。よくやった。

まあ、ご相伴にあずかろう。


噛んだ瞬間、プシュッとうまい肉汁がぁ………。

いつもの魔獣肉じゃないか。

しかも、衣が油を大量に纏って獣油の味が、ケモノ臭が、…チッ。


ふと、少し離れた陰にガキが二人佇んでいる。

座り込んだ小さいガキの方が、じーっと見ている。


「俺の高貴な舌には合わんな。ふん。」

「薄汚いお前らのようなヤツに、お似合いだ。」


小さいガキに、肉串と唐揚げ棒を投げ捨てぶつける。

フイっと、もう用はないと離れる。

やはり植物油が必要か、いや鶏肉か、とブツブツ小さく呟きながら。


いつもの、どこにでもある風景。


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女神様は異世界で乙女ゲーを楽しみたい「あー、俺は討伐されそうなんですが!?」 ドンヨリ @siro_gane

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