第03話 目覚め


 薄暗い中、目が覚める。

ああ、そうだ、知らない天井だ。周りも知らない壁だ。


 かなり大きいベッドの上、周囲を確認する。

天井じゃなく豪勢な天蓋だった。やたらと派手だ。

手を見る。ぷくぷくして小さい。

子供の手だ。


「夢じゃなかったのかあ、本当に転生している。」


 俺の説明をしよう。

目が覚める前は、日本の平均的サラリーマンの30才、男、独身、だった。


今は通称「プププ」乙女ゲームの、亡命する王子の弟役。

王子の弟だから、俺も王子さまになったわけだw


ゲームのメイン国、イーチオーシ王国。その隣国、ネクスード帝国。

帝王の側室の子で第二王子。

王位継承順位二位の冷酷王子と呼ばれる、セッカード・ア・ネクスードが名前。

セッカード様、爆誕です。


 セッカードは、非攻略キャラクター。

15歳の冬に、帝国の第一王子を亡き者にしようと画策し、帝王を幽閉する簒奪者。

だが第一王子を逃がしてしまい、イーチオーシ王国に亡命させるきっかけになる。


その後第一王子は、亡命先のイーチオーシ王国の学園に編入する。

そして、第一王子はゲームストーリーに組込まれ、攻略されるキャラクターとして加入される。


それが、隣国の王子の弟セッカードの役目。


 ベッドから降り、毛足の長い豪華な絨毯を踏みしめる。

そんな冷酷第二王子と呼ばれ、白銀の髪に冷たく蒼い目の痩身のサディストと…。


少しゆがんだ作りの悪い鏡には、銀髪のぽっちゃりさん(推定10歳)が映っている。


「んんー?あれー?」



 んんーーん?

キャスティングミス?

いや、セッカード第二王子の記憶がある。


そんな風に、とつとつと考えながら歩く。

食事の時間との事で、ビクビクと震え案内する若いメイドの後をついていく。


 無駄に派手で大きな扉が開く。

食堂だろう、中央の大きいテーブルの上に、肉肉肉のまた肉の9割肉料理の圧巻。

それを手づかみで毟り食う人達。

朝というか、もう昼近くだろう。朝食から肉かよ。

精神年齢30才男、朝はあまり食欲がない。


テーブルの一番奥の上座の椅子に、帝王(推定150キロ)が口と手を肉の油でテカラして喚く。


「セッカード、余がすべて食べつくしてしまうところだったぞー。」


がっははは、って意味わからん。

赤髪で茶目、巨大な腹を震わせる帝王。

手には赤いワインの様なものと、また肉を手掴みし豪快に頬張る。


テーブルの配置的に、帝王の右横に座っているのが王妃だろう。

おや、痩せてらっしゃる。

美貌の赤髪の王妃。視線を向けてくるが、冷たい虫を見るような眼差し。


そこから、少し離れて側室二人にその子供の王女に王子達はふっくらさん。

で、帝王の左横が、王位継承権一位の王子メイガード・ア・ネクスード。

攻略可能なキャラクター。

今は、帝王と同じく、肉を毟りとっては食いまくっている。


 赤髪に薄い茶の目、きりっとした貴公子然とした痩身の王子。

だが口と手は、みんなと同じに肉の油でテカテカだ。

やせの大食いというよりは、女神の強制力のおかげかもしれない。


 空いている席に着く。第一王子の隣か。

ナイフとかフォークがない。上流階級でも基本手づかみだ。

肉を手で一つまみ。あー体が欲しているようだ。

それゆえのぽっちゃりさんか。



 ネクスード帝国は、畜産が活発だ。

大きい豚の様な魔獣を飼育して、外貨も稼いでいる。


岩塩が産出するが、王国産の精製した塩には勝てない。

農業は土が悪いのか、農作物は8割方輸入に頼っている。


近くにダンジョンがあり、魔道具なども多く発掘されている。

その為、国力はなんとか高めだ。


前帝王はかなり野心家で、領土拡大の為に国力をためていた。

だが諸外国に侵略戦争を仕掛ける前に急死した。

そして、現帝王は…うって変わって食道楽で財政を圧迫していた。


 食った食ったと椅子を横にし、帝王は昼寝モードだ。

第一王子も王女も他の王子達も同じだ。

なんか、古代ローマとかで似たような寝ながら食べるのがあったな。

それがえらいとか貴いからだとか。


王妃が離席したので、ついでにお暇し同じく部屋に戻ろうと思う。

けぷっ、失礼。

これ以上食べるのはまずい。

近くにあるワインではなく、酒精の無いエールを飲み干した。



水はなかった。水のまずいお国柄なのかねぇ。


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