エピローグ ブンボーグ王になりそこねた王女
心地よい風が頬を撫でた。
まぶたを差す陽光が眩しくて、思わず手をかざす。
朝日を背に、薄汚れたドレスの少女は言う。
「ごきげんよう。R.B.ブッコローさん。そんなに急いで、どこに行くのかしら」
「キミは――」
――オレはまだ、少女の名前を知らない。
「私はザキ。ザキ・オ・カー・ヒロコ・ブンボーグ」
「ブンボーグ?」
「ブンボーグは、今あなたがいるこの世界、この国の名よ」
「……ということは、お嬢さんは王族ってこと?」
「王族、だった者ね。玉座を追われた今となっては、ただの逃亡者に過ぎないわ」
「逃亡者」
「一年前、私の父、前ブンボーグ王が崩御した。次期国王として玉座につくはずだった私は、敵対する隣国と通じていた大臣のクーデターによって、城を追われたの」
「つまり――」
「そう。私はブンボーグ王になり損ねた女ってワケ――」
勝ち気な瞳が、わずかに憂いを帯びる。
しかし、決して諦めてはいないのだろう。そのために、彼女はここで、オレを待っていた。
「ブンボーグは間もなく隣国に統合される。そうなれば我が国民は奴隷にされてしまうわ。だから、私の玉座奪還に、協力して欲しい」
「嫌どすえ」
「これが取引の条件」
ザキは、一枚の紙切れを見せた。
それはかつて、オレが最も愛した紙切れ――。
「バケン……」
「そう、バケン。これと、これにまつわるアナタの記憶を、取り戻してあげる」
「そんなことができるのか?」
「王家に伝わる家宝、魔硝光筆〈ガラスペン〉なら、できるわ」
それは、オレに名前を思い出させてくれた魔法のペン。
確かに、バケンを取り戻さずに、現世に帰るわけにはいかない。
答えはもう、決まっていた。
振り返ると、皿洗いマニタ、黒革のイク、シスター・マサヨが控えていた。
「彼らは有隣道(ユーリンドー)。民の隣に有り、道を説く修験者。私と、あなたと、彼らで、ブンボーグ城を奪還します。覚悟はいいですね?」
こうして、オレ、異世界にイケメン魔術師として転生したミミズク、ブッコローの冒険は始まった。
それは遙かなる心の旅路。
薄汚いドレスを着た、美しいガラスペンの少女が、ブンボーグ王になるまでの物語。
転生ブッコローしか知らない世界 ~競走馬に踏み潰されたミミズクがイメケン魔術師に転生して亡国の王女ザキをブンボーグ王にする話(序章)~ NIWATCH @Dir_NIWATCH
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