第5話 ブッコローとシスターのワクワクトラップ対決
自らが作った黒縄の鳥籠に足を踏み入れたシスター・マサヨは、まず、暗闇の中で発光する12体の人影を見た。
どうやら、さっき自分を足止めした魔術の蝋と同じもので作った、等身大の蝋人形だ。魔術の燐粉で発光させているが、その中に1体だけ、蛍光塗料が付着したイケメン魔術師が紛れていることは明白だった。
全方位に警戒しながら、シスターは鳥籠の中を進む。1体、1体、魔術師と蝋人形を見分けながら。そこへ――、
――清拭魔術〈キムワイプ〉
一瞬の閃光と共に、11体の人影が消える。魔術の効力が切れ、分身が消えたのか? シスターの視線は、自然と鳥籠の一番奥に残った最後の1体に釘付けになった。
「そこかい!」
投げ縄で、その人影を掴み、ブンッ!と強引に引き寄せる。
しかし、自分の眼前まで飛んできたところで、その最後の一体も偽物だったということにシスターは気づいた。
「チィッ!」
体当たりしそうな大きな蝋人形を、ギリギリのところで避ける。そのバランスを崩した瞬間を見計らって、闇に紛れて潜んでいたイケメン魔術師、つまりオレが、シスターの背後に現れた。
まずはランプを蹴飛ばし――、
――封印魔蝋〈シーリングワックス〉
シスターの身体を投げ縄ごと蝋で固めて封印する!
シスターは自分に何が起きたのか理解ができず、目を丸くしていた。
「オレの勝ちだ、シスター」
身動きが取れなくなったシスターは観念したように微笑んだ。
「ワクワクさせるじゃないか。蛍光塗料はすでに落としていたってわけかい」
そう。暗闇に潜むために、すでに清拭魔術〈キムワイプ〉で拭き取っていたのだ。(役に立たないって言ってゴメンよぅ!)
12体のダミー蝋人形は、11体が蓄光魔燐〈チッコウパウダー〉を表面にまぶした封印魔蝋〈シーリングワックス〉製。そして、1体だけが蝋自体が発光する蓄光魔蝋〈チッコウワックス〉製。清拭魔術〈キムワイプ〉で11体の蓄光魔燐〈チッコウパウダー〉を消し去ることで、11体が瞬時に消えたように錯覚させ、最後の1体に視線を釘付けにすることに成功した。実際には、11体の蝋人形は今も同じ場所に立っている。
あとは完全なる意識の外から不意打ちを食らわせるだけである。なんというイケメン策士。
「ねえねえ。オレ今めっちゃ天才魔術師っぽくなかった?」
作戦が成功した興奮で、思わずした友達みたいに話しかけてしまったが、シスターは笑ってこう聞き返した。
「ワクワクしたかい?」
「いや、めっっっちゃワクワクした!!!」
笑い合うふたりに、なにか、友情のようなものが芽生えた気がした。
夜が明ければ、村の者がシスターを保護するだろう。
オレは、シスターをその場に残して進んだ。
どうやら、もうすぐ森を抜けられそうだ。
そして、最後の追跡者がオレの前に現れた。
「さすがブッコローさん。驚キュべき魔術です」
それは、決めどころで驚くべき噛み方をする男――、マニタであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます