また大切な話。と、最後の解散

冬休み後も何事もなかったかのように学校が始まったが、祭りのことについて誰からも話しかけられなかった。期待はしていなかったけど、少しショックだった……かもしれない。

なんて、六時間目の眠気にのっかって考えごとをしていると、先生のいつもの厳しい声が聞こえてきた。

「卒業する六年生に向けてメッセージを書こうと思います。今から紙を配るので、クラブの六年生にメッセージを書いてください。書ききれなかったときは宿題になります」

 クラブの六年生ってことはセンパイか。

なんて書けばいいかな?


結局何も書けずに授業が終わってしまった。

「サキ」

 突然、今まで何の進展もなかったユノが話しかけてきた。

「私のことが嫌いなの?友達じゃないの?どうすればいいの?」

 ユノはずっと悩んでいたみたいだった。

「ユノ」

 自分の声が少し震えていることにおどろいたが、私は最後まで言い切った。

「幸せなのが一番大切なことだよ」

「だから、私は、」

「大切なのは『友達であるか』とか、『嫌いって思われているか』とかじゃない」

 センパイがあの日言いかけた「誘い方とか言い方とかじゃなくて」の続きの言葉、今ならわかる。

「今の自分が楽しいか楽しくないかっていうことなんだよ」

「……?」

 ユノが不思議そうな顔をした。

「別に、『友達』とか『仲良し』とか、はっきりした関係じゃなくてもいいんだよ。ただ、私がユノといて、ユノが私といて楽しければそれでいいの」

「でも、サキは私といて楽しくなかったんでしょ?」

 すごく難しい質問……

「楽しい時もあったよ。でも本当に親友だとは言い切れない」

「そしたら、どうすればいいの?」

 ユノは、わけがわからないという様子で聞いてきた。

「私も、次からは楽しくない時に『楽しくない』ってちゃんと言えるように努力するからさ」

「だから、嘘みたいな親友ごっこはもうやめにしようよ。共通の趣味を少し話すくらいの仲でいいじゃん」

「……」

 ユノは何も言わずにふらふらと歩いて行った。

親友ではないとわかっていてもやっぱりショックではあったんだろう。

「急いで準備してくださーい、もう帰りますよー」

 クラスのまとめ役の女子がみんなに声をかけていた。

ていうかセンパイへのメッセージって何を書こう?


 家に帰ってからもセンパイへのメッセージにはずいぶん困った。

「とても楽しかったです」かな?「ありがとうございます」かな?

 それだとなんか面白みがないよね。

と思っていると、家のインターホンが鳴った。それも何度も。

「はいはーい、今行きますよーっと」

「ちわーす、だし」

「こんにちは」

 ドアを開けると、アスカとヒカリが立っていた。

「宿題しに図書館行こうだしー」

「あ、いいよ」

 そういえばメッセージに夢中で宿題はしていなかった。

「なんか、夏休みみたいですね」

 突然アスカがそう言った。

「確かに、思い出すしー」

「まあなんとなくわかるよ」


そうこう言っているうちに図書館に着いていた。

「あ、メッセージのやつってしたし?」

「私はまだしてないかな」

「僕もです」

「じゃあ三人で、びっくりするような手紙を書いちゃわないし?」

 びっくりするような手紙?それってまさに私が求めてたものじゃん!

「センパイは頭いいし、そうそうびっくりしないと思いますよ」

「それが、いい作があるんだし……」

 ヒカリの方法は確かに面白くて、三人で文を考えているとあっという間に完成した。

「ていうかこれっていつ送るの?」

「クラブ活動は今週で終わりだから、その時に送るらしいし」

「へぇ、楽しみだね」

「センパイ、どんな顔するでしょうね」

 きっとおどろくだろうなぁ。


そして当日。

「センパイ、これ読むし!」

 部室に入った途端、ヒカリがセンパイにそう言った。

「んん?あ、六年生に手紙を渡すやつか」

 センパイはしばらく黙って読んでいたが、急ににやにやした顔になって話しだした。

「これ、縦読みで『いつもありがとうたのしかった』になってないか?」

 うそ!?もうバレちゃった!

「一瞬でバレたし」

 ヒカリがすんごい真顔で言っていて、なんか面白かった。

「文がおかしいところが何か所かあったからな」

「センパイ、やっぱ頭いいですね」

「それはおいといて、じゃあ今日もカードゲームとかしようぜ」

「僕、センパイが作ったゲームしたいです!」

 でも学校のパソコンではできないんじゃない?

という考えを読み取ったかのように、センパイがこう言った。

「学校のパソコンにこっそり入れておいたからいつでもできるぞ」

「いつの間に入れたんですか!?」

「なんか面白いかなーと思って先週入れておいた」

 先生にバレたらどうなるか……

「じゃあ起動してっと。さっそく始めよう」

「ちょっとだけさせてほしいし」

「僕も」

「私も」

 センパイが作ったゲームは、探偵ごっこをしていた子供が本物の事件に巻き込まれる、といういたってシンプルなストーリー。

だけど、ストーリー以上に面白いしかけや面白いゲームで、小六が作ったとは思えないクオリティだった。

「これ、とっても面白いんだし」

「だろ?」

 センパイとヒカリがそう言った瞬間、チャイムが鳴った。

「……これでお別れですか」

 アスカの目はうるんでいる。

「お前が泣きそうになるのって珍しいな」

「僕、意外と泣き虫なんですよ」

 今にも涙がこぼれ落ちそうなアスカを見ていると、こっちももらい泣きしそうになってきた。

「ていうかさ、来年もまた夏に図書館集まればいいだろ」

 あ。

「そ、そんな手があったんだし……!」

「じゃあまたな」

 センパイはそう言うと、すたすたと帰って行ってしまった。

「そっけない別れだったけど、また会えるし?」

 ヒカリの不安そうな顔を見るのは初めてで、少し面白かった。

いつも元気なヒカリでも、不安になるときってあるんだ。

「会えるよ。きっと」

「どうしてだし?」

「だってセンパイ、『さよなら』じゃなくて『またな』って言ってたでしょ」

 そう言うと、本当に会えるような気がしてきた。

「また、来年」

 アスカがぼそりとつぶやいたのが聞こえてきて、ふふっと笑ってしまった。


 来年は、私がリーダーになって新しいメンバーを連れてきますね、センパイ。

「あ、もうこんな時間!急いで帰りましょう、みんな」

 アスカの声でぶわっと意識が戻された。確かに結構時間がない。

「それじゃあみんなもまたね。今年か来年、話す機会があったら」

「また今度し」

「また今度」

 お悩み解決クラブ、最後の解散。

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