山下大和のひこうき雲

「で、みんなの前ではかっこつけて泣かなかったわけ?」

「ちがう、かっこつけとかじゃない」

「じゃあ家に帰って泣いたの?」

「泣いてない」

 今年一番の暑さと言われる今日、クーラーが効いていてとても涼しい図書館内で、オレは幼なじみのからかいに必死にたえていた。

実際には泣いた。あの日泣いた。家に帰って泣いた。

けどそんな恥ずかしいことなんて言えない。

「あ、センパイたち!」

「おう、サキ」

「あれ、センパイって昔は名前呼び捨てじゃなかったし?」

 語尾に「し」をつけたりするくせに細かいところまで気づくやつだ。

「いいだろ。もう中学生だし」

「センパイ、去年はいろいろありがとうございました」

「別に何もしてないけど」

「そう言われればそうかも……」

 うそだ。本当はしている。だが問題解決のために何かしたわけではない。オレは、サキの小説が最優秀賞なみのものだとドウから聞いて、才能を伸ばせるであろう「すごいぞ選手権」に応募すればいい、と言っただけだ。

「でもあの日楽しかったですし、『すごいぞ選手権』にも誘ってくれてありがとうございました」

「別に」

 これは、昔廊下でヒカリとすれ違った時に聞いた話だが、三枝は春にサキとヒカリが「友達じゃない」とか話しているのを聞いてしまい、それから長い間苦しんでいたようだ。

 そして、サキから話された後も、会えばあいさつをしたりしているようだが、それくらいだそうだ。

まあ自分のことを「友達じゃない」と言ったやつとは自然とはなれていくよな。

 でも、オレはあの日、サキが「友達じゃない」としっかり言えたことはすごいと思う。オレだったらそんなの言えない。

「ていうかヒカリちゃんの後ろに立ってる二人だれ?」

「あ、新しいメンバーです」

「そっか。私は前のリーダー、ヤマトの友達。ヤマトって言うのはこの男子ね」

「よろしくな」

 新メンバーは、緊張しているのか「は、はい」とつぶやくと、ぎこちない動作でイスに座った。

「じゃあ君たちも名前を教えてあげ――」

 オレはアスカの口を手でふさいだ。

緊張してる時に自己紹介をするのはイヤだろう。こんな時はとっておきの一言だ。

「夏休みの宿題、わからない問題あるか?」

 オレがそう言うと、宿題を広げかけていた二人はぽかんとした顔になる。

「えっと、ここがわからなくて……」

「見せてみろ、教えてやる」

 オレがそうつぶやくと、外から飛行機の「ゴー」という音がした。

後で空を見てみよう。今日はきっとひこうき雲だ。

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