ウソでしょ!?っていう結果発表!と、大切な話
「会場は公園の横の公民館だったよね」
そう、私は結局『すごいぞ選手権』に演劇の脚本を出すことにしたのだ。
百目鬼クンに言って劇団の人に聞いてもらったら、それくらいなら大丈夫らしい。
もし偶然賞がもらえたらラッキーだし。
会場内には子供が少しだけ集まっていて、順番に大人が待っている部屋に案内されていった。
私が出した作品は小説だから、印刷して持って来た小説を大人たちに配っただけで終わった。
どうなるかはわからないけど、落ちても受かっても別にどっちでもいい。
そんな強いこだわりがあるわけでもないし。
そして、選手権が終わった後、百目鬼クンたちの劇が始まった。
「それでは始めます。『親友はエナジーバンパイア』」
物語の内容は、主人公と嘘の親友「エナジーバンパイア」の話。
そう、これは私の話。
劇もいよいよ終盤になってきたみたいだ。
途中はずっとぼーっとしてたけど。
「では、これで劇を終わります」
あ、もう終わってた。
「脚本は野中早紀さんでした」
みんなの前で言われるとちょっと恥ずかしいな……
と思ったけど、みんなは立ち上がってどこかに歩いて行っていた。
まあ普通は脚本書いた人の名前なんて聞かないよね。
「サキ」
え。ここに私の名前を知ってる人なんていないはず――
「ユノ!?」
ユノもこの祭りに来てたんだ。
「さっきのって……」
「私が脚本を書いた」
ユノは信じられないという表情をした。
「……サキって私のこと友達と思ってるの?」
またそれ。
でも今なら、胸を張って言える。
「思ってないよ」
「……そっか」
「うん」
「……じゃあまたね」
ユノはずっと下を向いていたからどんな顔をしていたかわからなかったけど、きっとすごく辛かっただろう。
でもいい。私は私の思ったことを言う!
自分で作った劇を見たばっかりだったからか、今の私は何でもできそうな気がする。
「ていうかせっかくだし何か買おうかな」
公園内には屋台がたくさん並んでいて、すっかりお祭りムードだ。
「って、お前野中か!?」
「この子が話してた後輩ちゃーん?」
「センパイ!?」
センパイの横にはかわいい女子がいた。
天然と言うのか、なんだかふわふわした雰囲気だ。
もしかしてこの人が不登校の人?
「野中、もし選手権に出たならもうすぐ結果発表始まるぞ」
「結果発表?」
「知らないのか?あのステージ上で賞を発表するんだよ」
センパイは、さっき百目鬼クンたちが劇をしていたステージを指さして言った。
たしかにステージ上では大人たちがいろいろ準備をしている。
「そうなんですか」
「あと十五分だってさー」
「じゃあ行くか」
「あ、じゃあ私も」
あ、屋台で何か買うのを忘れてた。
「あ、後輩ちゃん何も食べてないのー?このわたがしあげるー」
「あ、ありがとうございます」
インターホンからの怒鳴り声しか聞いたことなかったけど、意外と優しい人なのかも。
と、わたがしをもぐもぐしながらいろいろ考えているうちに、結果発表が始まった。
「えー、それでは結果発表を始めます!」
……それだけ?
てっきり校長先生くらい長い話が最初にあるのかと思ってたけど。
「子供たちは早く結果が聞きたいようですし、さっそく最優秀賞から発表したいと思います!」
急に緊張してきた……
ていうか開始から発表までがスムーズすぎて緊張が追い付かないよ!
「それでは、最優秀賞は……」
どきどきどきどき。
「野中早紀さんの小説、『親友はエナジーバンパイア』です!」
えっ!?
「野中さん、ステージ上へどうぞ」
「はい」
いきなりでびっくりしちゃった。ていうか今も緊張してるし。
「それでは、プレゼントの遊園地家族旅行券です」
「ありがとうございます」
「そして、明日の2時にラジオで宣伝が入りますので『夏冬ラジオ局』に合わせてお聞きください。それから、来年の『なつふゆ大祭り』でチラシを作成して配布させて頂きます」
「は、はい」
びっくりするくらい大がかりだ……
「続いて優秀賞に入ります」
あ、すぐ終わっちゃった。
もう少し余韻に浸りたかったけど、次が待ってるもんね。
「優秀賞は……」
誰かな?何かな?
「山下大和さんのゲーム、『探偵ごっこ』です!」
山下大和……センパイ!?
じゃあ「探偵ごっこ」っていうのは、センパイが作ったゲームのこと!?
「山下さん、ステージ上へどうぞ」
「はい」
センパイが、人の波の中から出てきた。
「こちら、プレゼントのゲーム機、一万円ギフト券です」
「ありがとうございます」
「そして明日、2時に野中さんと一緒に説明させていただくので、『夏冬ラジオ局』に合わせてお聞きください」
「はい」
「ということで次、努力賞です」
あ、センパイの番もすぐに終わった。
「……なんか、現実味がないな」
「ですね」
なんだか私のことじゃないみたいだ。
「最優秀賞はお前に取られたけど、なんかもうどうでもいいや」
「どういうことですか?」
「オレが間違ってたんだ。あいつは行きたくないから休んだのに、オレの願いだけで行かせようとしてた」
「……」
「だから、大切なのは誘い方とか言い方とかじゃなくて――」
センパイがそこまで言ったとき、センパイの友達が振り返った。
「なんかすごいね、二人とも」
少しびっくりしたような顔だったけど、言い終わるころには普通の顔に戻っていた。
「ていうか、後輩ちゃんの名前って何?」
「野中早紀です」
そういえばこの人の名前も聞いてなかったな。
「ふーん」
あれ……?名前、教えてくれないの?
「あの」
「私の名前が知りたいの?ひみつだよー」
ええ……?
「それはおいといとさ、なんか食べ物買って三人でわけようぜ」
「どうせならたくさん買おうよー」
あれ、なんで三人一緒に行動する前提なの?
……でも楽しいからいっか!
「二人とも何食べたい?」
「オレはやきそば」
「私は……」
こうして、なつふゆ大祭りは私にとって最高の思い出になった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます