作戦会議……は秒で終わった

「ちょっと早く来すぎちゃったかな」

 水曜日、私は図書館内のテーブルに夏休みの宿題を開いた。

と、その瞬間に図書館のドアが開く音がした。本棚越しなので誰かはわからないが、多分ヒカリとアスカだろう。

 この図書館は人気がないから、よっぽどの本好きでなければここには誰もこない。

「あ、サキ。やっほーだし」

「こんにちは、サキさん」

「あ、ヒカリとアスカ。今日は二人で来たんだ。めずらしいね」

「家が近いので、たまには二人で来ようかと」

 なるほどね。

「サキ、宿題どこまで進んだし?」

「作文と工作は終わって、今はテキストやってる」

「はやっ、それ反則だし!」

「反則とかないし、ヒカリも早く宿題した方がいいよ」

 アスカが冷静に言った。

「アスカこそ、宿題持ってきてないくせにだし」

「僕は一日目で全部終わらせたから」

「はやっ」

 さすがアスカ。

「じゃあ、ヤマシセンパイが来る前に宿題を始め――」

「『ヤマシタ』のギリギリ攻めんな。センパイって言え」

「いつの間に来てたし!」

 センパイはいつでもどこでもツッコミが冴えわたっているみたいだ。

「じゃあ作戦考えますか」

「そうだな」

「ていうか作戦って言ってもどうするのし?」

「じゃあとりあえずその人について教えてください、センパイ」

 さすがアスカ、司会役だ。

「この前と同じことだけど一応言うぞ。ゲーム好きで、騒がしいのが好きなんだってさ」

「で、前回センパイはゲームをさせてあげるって言って惨敗したわけだし」

「それはそれ」

 センパイは幼なじみとゲームに絶対負ける呪いにでもかかってるの?

「じゃあ『ゲームあげるから来て』じゃなくて、『ゲームあげる』でよくないし?」

「でも……」

「最初はぐだぐだ言わずにやっといた方がいいし」

「……確かに」

 小六が小五に論破されてる……

「じゃあそうするか」

「作戦会議、秒で終わりましたね」

「……」

「じゃあ宿題をするし」

 ヒカリがテキストを取り出した。

「じゃあ私も」

「オレも」

 それからはみんな黙って宿題をしていたが、ヒマになったのか、アスカが声を上げた。

「あの」

「何だ?」

「不登校の人の家、毎週行ってるじゃないですか」

 確かに、言われてみればそうだった。

「だから、夏休み最終日まで行かないようにすれば、相手もびっくりするんじゃないかし?」

 確かに。

「それ、恋愛とかでよくあるテクニックだね」

 アスカが余計なことを言った。

「れれれ恋愛!?」

「半分冗談ですよ」

「どんな冗談なんだしー」

「それはともかく、私はヒカリの意見いいと思うよ」

 間を開けておいたらおどろきそうだし。

「じゃあ夏休みの最後の日、みんなで――」

 みんな……?

「センパイ」

「なんだ?」

「それはセンパイ一人で行った方がいいですよ」

「なんでだよ」

「大事なことは、自分の手で解決するんですよ」

「……わかった」

 そう言ったセンパイの目は、とても純粋だった。

それからはずっと宿題をしたり本を読んだりして過ごした。

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