夏休み目前!……だけどまたお悩み解決?
夏休みの前々日。
今日はなぜか早く起きてしまった。
夏休みが楽しみだからではなく、胸騒ぎのような、嫌な予感がしていたからだ。
いつも通り準備を終え、余った時間を朝のニュースで潰したが、まだ胸騒ぎは消えないので、いつもより少し早い時間に学校に行った。
教室についても特に何もなかった。
さっきの胸騒ぎは単なる勘違いだろうか?
と思った瞬間、ユノに声をかけられた。
「ねえサキ、」
ユノは悲しそうな顔をしていた。
最近具合が悪いみたいだったし、風邪でもひいたのだろうか?
「私のこと、友達って思ってる?」
「…………え?」
なにそれ。何その質問。なにそれ。なにそれ。
ユノの顔は真面目だし、冗談ではないだろう。
でも冗談じゃないってことはどういうこと?
私がユノのこと友達って思ってないのがバレたの?だとしたら何で?どうして?
いつ、どこで、何で、バレたの?
深い海に頭から沈んでいくような感覚だった。
頭からゆっくりと破壊されていくようだった。
頭の回転が速くなって、視界が揺らぐ。
どうして?何で?どういうこと?
私はどう答えればいいの?
友達じゃないって言ったらどうなるの?
友達だよって言ったらどうなるの?
どうすればいいの?
同じようなことをぐるぐる考えながらどんどん海の底に沈んでいく。
そこで私の意識は途切れた。
気が付くと知らないベットの上にいた。横を向くとカーテンが敷いてある。
ここはどこかを考える前にとりあえず体を起こした。
すると、カーテンの向こうで誰かが動く音がした。
「おはよう。体調はどう?具合悪いとことかない?」
「あ、特にはないです」
とりあえず答える。よく見るとこの人は保健の先生のような服を着ている。
「覚えてる?朝、急に倒れて……それからずっと寝てたのよ」
そうか。ユノに意味不明な質問をされて……
それからは覚えてないけど、ずっとここで寝てたのか。
「今、何時間目ですか?」
気になったのでとりあえず聞いておいた。
「今は5時間目の終わりくらいだけど……この後はどうする?早退する?」
「いえ、大丈夫です」
「そう。じゃあ給食の時間になるまで休んでなさい」
「はい」
給食の時間まであと15分ほどある。それまで横になっていよう。
こんこんこん。
保健室のドアがノックされた。
「入っていいよー」
保健の先生が声をかけると、保健室に誰かが入って来た。
カーテン越しなので影しか見えないが、身長は五、六年生くらいに見える。
「転んで膝擦りむいちゃって」
「凄いけがね、大丈夫?」
「大丈夫じゃないから来たんだし」
「ごめん、ちょっと待っててね」
特に何がある訳でもないが、ずっと寝ているのも暇なので二人の影をじっと見つめる。
「はい、終わったよ」
「ありがとうございますし」
「ちょっと休憩していった方がいいんじゃない?そこのカーテンの向こうにイスがあるから、給食まで座っておけば?」
「そうですね」
この語尾、もしかして…
「サキ!?」
「ヒカリ!?」
「喋り方が似てるとは思ってたけど、まさか本当にヒカリだったなんて…!」
「サキが朝に倒れたって噂、本当だったんだ!」
あ、ウワサになっていたのか。
「まあ、とりあえず座るし」
ヒカリは、ベットの横に二つ置いてある小さなイスに座った。
「で、サキはどうするのし?そのまま早退するのし?」
「いや、今日はそのまま過ごす」
「そうなのし」
「で、クラブは来るのし?」
「ああ、うん。それは絶対行くから」
なんなら私が早退しなかった理由ってクラブ活動に行きたかったからだし。
「先生。そろそろ教室に戻りますね」
「大丈夫なの?もう少し休んでいってもいいのよ?」
「いえ、もう回復したので」
「そう。具合悪くなったりしたらまた来てもいいからね」
「はい」
「じゃあまたし」
「またね」
少し早足で教室に戻った。
給食は味がしないように感じたが、頑張って全部食べた。
昼休みはすることがないので、クラブ活動時間の前だけど部室でみんなを待っておくことにした。
「失礼し……誰もいないし挨拶はしなくていいか」
「失礼島‼……す」
「うわ!?」
隣からセンパイが島の名前を叫んで突撃してきた。
あんなに慌てるなんて何があったんだ。
「間に合った!部長…いやクラブ長たるもの、一番最初に部屋に入っていないなど許されないことだ!」
めちゃくちゃしょうもないことだった。
「ていうかお前今日早くないか?」
「いや、別に」
ユノのこととかを話そうとも思ったけど、そんなのセンパイに言ったってどうにもならない。
「そうか、てっきりお前に何か重大な悩みがあるんじゃないかと思った」
「センパイはすぐに悩み悩みって決めつけて…。ゲームじゃないんですから、そんなことありませんよ」
「ん?ゲーム?」
「何ですか、ゲームしたくなってきましたか?」
「いや、ちょっと思い出せない何かがある!」
「そうですか。ちなみに私は今とてつもなくゲームしたいです」
「知らねぇよ!……あ、思い出した!」
「何ですか?」
「オレが今作ってるゲーム、完成したら今度の祭りで宣伝しようと思うんだ!そしたらオレのゲームをいろんな人が見てくれるだろう!」
「祭りってあれですか、『なつふゆ大まつり』ですか」
「そうそう!」
「でもお金入んないのに宣伝して意味あります?」
収入がない仕事はやめたほうがいいんじゃないだろうか。
「ふっふっふ。そこでだ!これを使う!」
センパイは一枚のチラシを取り出した。そこには「天才小学生集まれ!すごいぞ選手権!」と大きな字で書いてある。楽しそうな顔をした子供の写真も数枚乗っていた。下の方には日時と場所が書いてある。日時はなつふゆ大まつりと同じで、場所はなつふゆ大まつりが開催される場所の隣だった。
センパイは「これで楽して宣伝できる」という顔だ。
「なんです、これ?」
「これは、夏冬市に住んでいる小学生たちが自分の作った工作やら小説やらを発表して、大人たちが一番すごいと思った子供に票を入れて、票が一番多かった子供が特典を獲得できるって言うシステムでな、『かっこいいで賞』とか『努力家で賞』とかいろいろ賞があるんだが、賞によって特典が違ってな、オレはこの『最優秀賞』もしくは『優秀賞』を狙う!最優秀の特典は『市のラジオで宣伝、チラシを作成して夏冬市の全小学校に配布、遊園地家族旅行券』で、優秀賞は『ラジオで宣伝、最新のゲーム機プレゼント、一万円ギフト券』だからな。宣伝に使えそうだ」
説明がややこしい。
「簡単に説明してくださいよ!」
「結構簡単に言ったんだが?」
「わかんないです!」
「うーん、スーパー簡単に言うと、子どもたちが『オレ天才だろ?』って言って、大人たちに『すごいな!』って言われる集まり」
「わかりやす」
「だろ?」
「と、そんなことはどうでもよくて…」
「何か言いたいことがあるんですね」
「いや、言いたくないことなんだがな」
言いたくない事なんだ。
「じゃあ言わなくてもいいじゃないですか」
「いや、いつかは話そうと思ってたことだしな。…それに、悩みがないお悩み解決クラブなんて、お悩み解決クラブじゃな―」
「失礼島です」
「失礼島だし!」
あ、ヒカリとアスカ。
「お前らも来るの早くね?」
「なんかヒマだったから来たんだし!」
「みなさん早いですね」
「オレはいつも一番早く来るように心がけてるからな」
「私は気分で」
みんなにもあのことは秘密にしておこう。
「でもこんな早い時間にみんな揃うなんて珍しいし!」
「前から思ってたけど、お前のその変な語尾なんなんだよ」
「可愛いくないし?」
「はっきり言って変だ」
「ええ!?」
「ヒカリは昔からアニメとかマンガに影響されやすいんですよ」
「そういうキャラが何かのアニメとかにいんのか?」
「そうだし!結構みんな知らないアニメなんだけど、最近、人気を集めてて……」
「それってなんていうアニメなんだ?」
「題名は忘れたし」
「記憶力無さすぎじゃね?」
「ヒカリは面倒なことは忘れる主義なんですよ」
なんかヒカリらしいな
「で、さっき言ってたセンパイの悩みってどういうことですか?」
「ああ、最近悩み0件だったからずっとカードゲームしてるだけでヒマだっただろ?」
「ヒマっていうか楽しかったし」
「毎回センパイが負けるのでまあまあヒマだったかもしれないですね」
「一言余計だ、阿須賀」
「で、ここ最近物足りなかったからな、オレの悩みを解決してもらう」
悩みって言ってももうすぐ夏休みだけどね…
「もうすぐ夏休みになるんだし後でいいんじゃないですか?」
「よくない。夏休み中はどうやったらこの悩みが解決するかを考えてくれ」
「ていうかそれどんな悩みなんだし?」
「それはな」
センパイのややこしい話をまとめると、センパイと昔とても仲が良かった子が最近不登校になってしまって、センパイが何度も何度もその子の家に押しかけて、学校に行こう学校に行こうと繰り返すと、その子はセンパイが家に行っても会ってくれなくなってしまった。
ということらしい。
「で、お前らには、あいつを学校に行かせるために何かしてほしいんだ、頼む!」
「人の気持ちを考えずにしつこく訪問するヤマシタが悪いで決定だし」
「それは本気で反省してるよ、オレもあいつの立場だったら嫌だっただろうなって思ってるし」
センパイ、ヒカリが「ヤマシタ」って言ってるのに何も言わないくらい反省してる……
「今更反省しても意味なしだし。早めに謝りに行くのが一番いい解決策だし」
「それでもあいつ学校来ないだろ」
「来る来ないとか損得考えるからそうなるんだし!まず早く謝るし!てかそれ以前に、圧倒的にヤマシタが悪い悩みとか解決できないし!」
「うっ」
「僕はセンパイの悩み解決、助けてもいいなって思ったんですけど」
「だよな!だよな!」
「センパイがとった行動はいいことだとは思えませんけど」
「そこは本当に反省してるからさ」
こんなへこへこしてるセンパイ、初めて見た…
「で、野中はどうなんだ?」
「え?あ、えっと」
確かに最近ヒマだったし、ここで断るのも何か気が引けるし……
「私も、悩み解決を手伝います」
「ありがとな!」
「みんなが言うなら、ヒカリも手伝ってみようかし?」
「本当か!?ありがとな!」
センパイの「ありがとう」が聞ける日が来るなんて思ってなかった。
ちゃんとお礼とか言えるんだ……
「ていうか悩み解決を手伝うって言っても何をすればいいんだし?」
「ほら、ドウの事件の時みたいにさ」
「じゃあ放課後にみんなでその不登校の人の家に行ってみません?」
「確かに、それでヤマシ……センパイが謝ればすぐ解決するかもしれないし!」
お、自分から「センパイ」って言えてえらい!
「じゃあ放課後に校門に集まろーぜ」
「で、残りの時間はいつものヒマつぶしをするんですか?」
「センパイが負けるための時間だし!」
「それは言わなくていい」
そこからはずっとカードゲームをした。
いつも通りセンパイが全部負けた。
そして放課後。
「全員来たか?」
「来たと思います」
「来たしー」
「全員来てます」
来てるね、多分。
「じゃあ行くか」
「行きましょう」
その不登校の人の家って遠いのかな?
と思ったのもつかの間。
「ちょっと待ってろ、もうすぐ着くから」
「えっ、早くないですか?」
「あいつの家は学校から結構近いんだよ」
「そうなのかしー」
二分くらい歩いていると、なんでもないただの住宅街が見えてきた。
「ここ」
センパイは、なんでもないただの家を指さした。
「なんか、普通って感じの家だしー」
「ちょっとヒカリ、それは失礼だよ」
「じゃあお前らインターホン押してきてくれよ」
え、そこは普通センパイが行くところでしょ。
という私の考えを読んだかのようにセンパイが言った。
「オレは何回もここに来すぎてるからさ、あいつの家族から警戒されてるかもしれないんだよ」
「じゃあ僕が行きますよ」
アスカが控えめに声を出した。
それから少し考えて付け加えた。
「ヒカリが行ったら失礼なこと言いそうだし、センパイは警戒されてるかもしれないし、サキさんは、その……」
「地味だから?」
「あ、その、えっと……」
アスカが途端に口ごもった。
「遠慮しないでいいのに」
「え、いや、その、行ってきます!」
行っちゃった。
悪いことしちゃったかな……?
「てかセンパイ、アスカと一緒にインターホンに出た方が絶対いいし」
「なんでだよ」
気づくと横で二人が話していた。
「だって、このままだと絶対『後輩に悪かったって謝らせて自分は反省せずに外で待ってるやつ』って思われて終わりだし」
「確かに、オレも謝りに行かないといけないかもしれないな…」
「早く行った方がいいし」
「おう」
センパイはアスカの方に駆けて行き、インターホンにへこへこしていた。
と、次の瞬間。
「うるさい!もう帰ってよ!謝られても困るの!」
インターホンから耳が破れそうなくらいの大声が発せられた。
センパイは、今にも泣きだしそうな顔をしながらこっちに歩いてきた。
「無理でした」
「そりゃ一回で済むわけないし、ずっと押しかけるのもしつこいと思われますよ。だから、相手が喜ぶような誘い方にすればいいんじゃないですか?」
「さすが、このクラブ唯一の賢いやつ!」
「そんなことないですよ」
謙遜しなくていいのに。
「じゃあ夏休み中はそういう誘い方とかを考えようかな」
「それがいいんじゃないですか?」
「じゃあ次会うのは夏休みが終わった後し?」
「そういうことになるな」
結構遠いんだ…寂しいな…
とか思ってたら、アスカがみんなに声をかけた。
「夏休み中もみんなでここに来ませんか?」
「え、お前が言うのってなんか意外だな」
「嫌だったらいいですけど」
「いや、むしろいいよ。けど、阿須賀ってそういうのしなさそうだなって思っててさ」
確かにアスカはそういうことを言わなさそうなイメージがある。
「ただ単に、夏休み中僕がみんなと会いたいだけですけどね」
「もっと以外」
私がそう言うと、ヒカリはちょっとドヤ顔でこう言った。
「私はアスカの幼なじみだから知ってたけどね」
「幼なじみだったんだね」
言われてみれば、アスカがヒカリ以外には敬語なのも、ヒカリはアスカに妙になれなれしいのも、二人が幼なじみだと言われると説明がつく。
少し考えるとわかりそうなことだったな、と今更ながらに思った。
「じゃあ来週、みんなの予定が合う時にまたここに集まらないし?」
「予定も何も、僕はずっとヒマだよ」
「オレもヒマだな」
「私も」
「ヒカリも何もないし」
誘える人がいたとしたら遊びに行きたい、という理想が膨らむだけの夏休みなので、予定なんて一つもない。
「じゃあ明日とかどうだ?」
「センパイ、二日連続で来るとさすがに相手も嫌がるんじゃないですか?」
「そうか、なら来週の水曜日とかどうだ?」
「十二時くらいに、学校の目の前の公園に集まりませんか?」
うちの学校の目の前には大きな公園があるから、多分そのことを言っているのだろう。
「じゃあそうするか」
「ということで、解散だし!」
ヒカリはテンションが上がっていた。
「また来週な」
「また来週だし!」
「また来週会いましょう」
「また来週に」
みんなバラバラの方向に歩いていった。
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