事態は急速に休息

 土曜日。必死に脚本の起承転結を考えたが全く浮かばなかった。


 日曜日。この日も起承転結を考えた。

少し思いついたが内容はまだ誰にも言わない。


 月曜日。ストーリーの半分がぼんやーりと浮かんできた。

ユノは少し元気になったのか、私に話しかけてきた。

でも無理しているのがバレバレだった。いかにもきつそうな顔をしていた。

廊下でセンパイとすれ違うと、

「今日の昼休みに一回部室来てくれ」

 と言われた。多分昨日のことだろう。


 昼休み、教室に来ても誰もいないので校長室も確認しようとしたけど、校長の気配がしたのでやめておいた。

昼休みの半分が終わったくらいの時、やっとセンパイが部室に入ってきた。

「あ、センパイ。遅かったですね」

「ああ、ごめんな。佐野と話してた」

 まだ話していたのか。

「それで、そのことだが、佐野はやっぱり陸上クラブに変更するってよ。ちょうど陸上クラブで転校したやつがいたからピッタリらしい」

「おお、よかったですね」

 事態は急速に休息に収まったようだ。

……なんてね。

「ああ、よかった。っていうかお前、ドウのとこの劇団の脚本を書くんだって?この前ドウが教えてくれたけど」

「はい」

私にあのテーマ書けるかわかんないけどね…

「秋だろ?場所、オレの家からは遠いけど絶対見に行くから」

「あ、ありがとうございます」

 センパイ、本当は優しい…?

「嘘だよ。オレは学校以外では外に出ないんだ。土日祝はずっと家でダラダラしてる」

 前言撤回。やっぱりひどい嘘つきだ。

「うわぁ。てかダラダラって基本的に何してるんですか?」

「ん?まあプログラム書いたりとか」

「プログラムってあの学校でしたやつですか?」

 あの作業をずっとしてるだけ!?ヒマジンってこういう人のことを言うのか。

「スクラッチなんてしねーよ」

「すくらっち?」

 宝くじ?

「オレがやってんのは本物のプログラミングだよ。コードを書くの」

「コード?何をしてるんですか?」

 充電コードが何の役に立つの?

「ゲーム作ってる」

 すごい。小学生でそんなのできるんだ!

「どんなゲームですか?どんなゲームですか!?」

「今まで作ったものだと、音ゲーとかシューティングゲームとかアスレチックとか脱出ゲームとか」

「今作ってるのはどんなのですか!」

「お前さてはゲーム好きだろ」

「そうですそうです!何を作ってるんですか‼」

「ミステリーものだよ」

「どういうことですか!」

「お前さては一種類のジャンルしか遊ばないタイプだろ!」

「私は色んなジャンルのゲームをしていますよ!シューティングゲームとかシューティングゲームとかシューティングゲームとかシューティングゲームとか」

「いや全部シューティングゲームじゃねーか!」

 シューティングゲーム大好きで何が悪い!

「じゃあ説明するけど、主人公は探偵で、事件を解決したり、犯人に閉じ込められた部屋から脱出したり、時には犯人と戦ったり、いろんな要素を詰め込んだものなんだ」

「画質は!」

「ただのドット絵だよ」

「じゃあそれってつまり私がすごい好みのゲームじゃないと思いません!?」

「知らねぇよ!」

「あ、そろそろ昼休み終わるので帰りますね!」

「早く帰れ」

「じゃあまた水曜日!ゲームできたら遊ばせてください!」

「わかった」

 私とセンパイは逆の方向に向かった。五年生と六年生は教室の方向が違うんだ。


 それからはクラブへの悩み相談がなく、あっさりと夏を迎えた。

まあ悩みは少ない方がいいし、小学生なんてそんなものだろう。


……後で考えてみれば、あれは嵐の前の静けさだったのかもしれない。

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