事件解決早くない?
金曜日。
あのクラブ活動の日からユノが少しおとなしくなった。
元気がなさそうな顔をしていた。
クラスメイトに声をかけられても、「ごめん、今ちょっと具合悪くて」と言っていた。
ざまぁみろと思ってしまう私はひどいだろうか。
「えーっと……確か、四年二組だったよね?こっちかな?あれ、どっちだ?」
「あ、サキさん!じゃなくて、サキ!」
あれ、あそこにいるの、もしかしてアスカ⁉
「あれ、アスカ⁉アスカも、道に迷ったの?ていうかアスカ、さん付けたいならさん付けてもいいよ」
「ありがとうございます、サキさん!」
敬語は変わらないんだ。
「そう言えば、アスカってさ」
「はい、何でしょうか?」
「同級生には敬語使ってるよね」
最近ちょっと気になってた。
「まぁ、ヒカリ以外には敬語ですね」
「同級生には敬語をやめてもいいんだよ?」
「敬語が一番落ち着くんです。だから大丈夫ですよ」
敬語が落ち着く、って初めて聞いた。
「まあ喋り方とか個人の自由だし別にいいけどね」
「別にいいんかい」
アスカのツッコミは今日もばっちりだ。
って、ここって四年二組?
「あ、適当に歩いてたら来ちゃったみたいだね」
「ですね」
四年二組には誰もいなかった。5年生はみんな大体教室で本を読んでいるから珍しい。まぁ、そりゃそうだよね。なんてったって4年生!みんな、遊びたいはず。ていうか、ヒカリとセンパイは?もしかして、まだ来てないのかな?
「あ、サキさん。あそこの生徒に話しかけている二人組ってセンパイとヒカリじゃないですか?」
「あ、確かに」
「教室の中に入りましょう!」
「そうだね」
「失礼します」
あ、二人とも、こっちに気付いたみたい!
「あ、アスカとサキ!こっちだし!」
「今、佐野から話を聞いてるんだよ」
「ふーん、そうなんだー。って、ヒロト⁉てっきり、同性同名かと思ってたのに!」
「え、早紀さん⁉も、も、もしかして早紀さん、こんな胡散臭いクラブに入ったんですかっ⁉っていうか、同性同名なんて普通そんなにいませんけどっ!?脳みそどうなってんですか!?」
ヒロト……毒舌なのは治ってないんだ。
「胡散臭い言うな。これでも普通のクラブやぞ。あとお前、なかなかの毒舌だな。正直言って何か怖いぞ。ってか、お前ら二人は知り合いなん?」
出た、センパイのマシンガントーク!あ、でも私たちは知り合いとかじゃないし……
「知り合い?いや、友達だよ?」
私とヒロトの声が重なった。でも、友達なのは本当だ。少なくとも、ユノよりは友達。でも、説明するのはめんどくさいな。
ヒロトに丸投げしようかな。
「説明頼んだ」
「ええええ!?ええ……」
「うっせーな。えええええ!?とか言ってるヒマがあるなら、はよ説明したがましだろーが。って、全員ドン引きすんな!」
センパイのマシンガントーク、すご……
「えっ!?僕、そこまでは言ってませんけど。てかマシンガントークすごいな、おい」
「あ、ツッコミとかは別にいいんで」
「あ、はい。で、ボクとサキさんは近所に住んでて、昔通ってた塾も同じで、親同士も仲良くて、友達なんです」
「へぇ、そーだったんだしー!」
「で、それはいいとして!さっきの話ですっ!何で、ボクが、有栖川さんのことが好きだって分かって…」
へえ、センパイとヒカリはそんなことを聞き込みしてたんだ。って、ん?何かおかしくない?
「ごめん、今何て?」
ヒロト、赤面。いや、でもそれどころじゃなくて!信じられない、ヒロトが優芽ちゃんのことを好きだって!恋とかしそうにないのに……!
「だ、だから、何で僕が有栖川さんのことを……」
「もうそれ以上は言わなくていい。お前も言うの恥ずかしいだろうし、事情を一番わかっているのは、このオレだからな」
「パイセン、感じ悪っ」
「パイセン言うな。ヤマシタよりはマシだけど。でも、だからって『パイセン』じゃダメだ。『センパイ』って言うんだ。って、これ何回繰り返せばいいんだよ」
「ぷぷ」
ヒロト、よくわかる。センパイのマシンガントークは面白いもんね、よくわかる。
「そこのヒロタ!何か文句あんのか?」
「あ、いえ、何でもありません」
センパイ、ヒロタじゃなくてヒロトです。
「で、今からオレの推理を話すからな。しっかり聞けよ」
「はーい」
「で、オレの推理だと、佐野は有栖川のことが好きで、有栖川と仲良くなるために、無理してイラストクラブに入ったって訳だ。それで、こいつと仲がよかったドウが、佐野が自分の気持ちを変えちゃうのが心配だったから『佐野』で『陸上に戻ってこい!自分の気持ちにフタをするな』っていう気持ちを表したんじゃないのか?っていう感じだ」
「すごい!」
「別にすごかねーよ。普通の小六ならこれくらい誰でも解けるし」
「小六ってそんなすごいんだし?」
「いや…多分違うと思うけど…」
「だよね、アスカの言う通り。小六ってみんながみんな、こんなに冴えてるわけじゃないよね」
「そ、そんなに褒めてもお礼なんて出さないからな!?」
「あ、パイセンが照れたし!」
「照れてねえ」
「照れた、照れた、照れたでしょ?照れたよね!」
「うるせー!照れてなんかねー!」
照れたって何だっけ……
これがぞくに言う「ゲシュタルト崩壊」か。
「センパイって嘘つくの下手なんですね」
「いいから行くぞ」
あれ、どこに行くんだろう。
「センパイ、どこに行くんですか?」
「ドウの所だよ。多分、今は空き教室で竹刀ぶんぶんしてるみたいだし」
「え、ええーっ」
あの小学生ヤンキーの所に行くって言うの?こわい!
「ベンキョウスルカラカエルシ」
「ヨウジガアッタノデカエリマスネ」
「わかった」
すっごい棒読み……
私もこっそり帰ろうかな?
「私もちょっと用事があったので帰ります」
「オレ一人じゃ意味がないだろ。ていうかお前の理由はウソだろ」
「ええっ、あの二人だって嘘――」
「いいから行くぞ。教室はあそこだし」
センパイがそう言って指さしたのは、となりのとなりの教室だった。
「えっ、そこ――」
「誰だお前ぇっ!」
「ひゃぁ!」
「……」
それから私がかくかくしかじか説明後。
「へー?じゃあ、こいつは山下くんの知り合いか」
「山下くんって……」
「いいから黙って聞いとけ」
私がボソッと文句を言うと、センパイも文句?を返す。
その間にも百目鬼クンの話は続いていた。あれ、百目鬼クンって意外と話長い?
しばらくすると話は終わりに近づいていた。
「で、そこのお前はなんたらクラブのメンバーか。で、俺の佐野へのメッセージを解読して、佐野にいろいろ聞きに行って、俺を説得しに来たってことか」
「……」
「あれっ、山下くん?」
「むにゃむにゃ」
「寝てる!?」
「もう食べられな……まだまだたくさん食べられます!牛丼の大盛を二杯ください!」
とんでもない夢だな。
「山下くんって一度寝たらもう起きないタイプか。これは放課後くらいに大声出して起こすか」
「……」
竹刀でぶったたいて起こすってどんな起こし方だよ!と思ったけど、二人にはとっても厚い絆ってやつがあるらしい。二人の言動を見ててよくわかる。
「じゃあ、えーっと、お前って名前何だっけ?」
顔がこわい!何これ、面接?
「えっと、野中早紀です」
「何で敬語?面白いな」
笑われちゃった……
「野中って五年生だろ?敬語とかは使わなくてもいいだろ」
「あ、うん」
いや、それよりもまず……さん付けは?
「それで野中。さっきの説明で本当にあってるのか!?」
「ひっ!」
そこまでこわい顔をしなくてもいい気がするんだけど……!
「あってるよていうか事情はもうわかってるでしょ?」
緊張して句読点を忘れてしまった。それくらい百目鬼クンのオーラがすごい。
「まぁな。でもなんかさ、あいつが自分を抑えてまで好きな人のためにいろいろするのはなんかイヤなんだよ」
「へぇ」
なるほどね。これも一種の嫉妬みたいなもんか!
「君って恋とかしたことある?」
「はぁ!?俺が恋をするとでも!?」
「だよね」
やっぱりそうか。こんなに毎日ケンカざんまいの小四が恋なんてするはずないか。
「でもまぁ、恋『もどき』くらいなら」
「おおっ?」
意外だな、恋なんて。あ、「恋もどき」か。
「教えてよ!」
「えっと、その子は家が隣で、幼稚園からの幼なじみで……」
百目鬼クンの顔は真っ赤だった。
「ふむふむ」
幼なじみ!告白されたら確実にきゅんてするやつだ!
「って、誰がよくわかんない小五とコイバナなんてするかよ!」
照れた。
「てかお前、オレが本当のことを話してるとでも思ってるのか?」
「え?」
「気づいてなかったか」
「じゃあこれって……」
「俺の作り話だよ。どうせ最初から気づいてなかったんだろ」
「うそ、喋り方が本物みたいだったのに!まるで俳優!」
一応小説を書いてる私としては参考にしたいような言い方だった。
顔も真っ赤だったし。
「……は?」
「まさか、最初から気づいてたのかよ!」
「え?」
百目鬼クンは急に顔を真っ赤にさせた。それはさっきの恥ずかしさじゃなくて、怒りでできているみたいだった。
「騙したな、このお腹野郎!」
百目鬼クンは竹刀を振り上げようとしている。……ってちょっと待って!
これってヤバイ状況じゃない!?
「いや私何にも気づいてないしなんなら今でも百目鬼クンが何を察したかもわかんないし私結構頭悪いからあんま察したりできないから何も分かんないから竹刀やめてぇ!」
センパイを超えるマシンガントークで解説すると、百目鬼クンはびっくりしたような表情になった。
「うそだろ!?……でもまあ、ここまで言ってしまったなら説明するよ」
「へ?」
説明?何の?
「俺は昔から大俳優に憧れてて、今でも地区の小さな劇団に入ってるんだ」
「なんか意外だね」
そして、百目鬼クンは話してくれた。
三年生の時、劇団の公演で偶然百目鬼クンのクラスメイトが来たそうだ。
その子はクラスカーストのトップの子だったそうで、一日経てばあっという間に百目鬼クンの噂は学校を駆け巡った。
百目鬼クンはそれを全否定して、その子の見間違いということで事態は収まったが、それからというもの、百目鬼クンの問題児レベルは右肩上がりになっていった。
「それからは観客の目を気にするようになって、全然芝居ができなくなっていったんだ」
そんな百目鬼クンを助けてくれたのがヒロトだったそうだ。
「あいつに『人の目を気にせずに楽しく演技するのが役者じゃないか』って言われて初めて気づいたんだ」
意外といいこと言うな。
「だから、オレの恩人のあいつにはやりたいクラブをやってほしいんだ」
「まぁ、クラブが始まって一ヶ月はクラブ変更ができるしな」
「そんな制度があったの!?」
先生からはそんな説明はなかったし、去年もそんなのはなかったけど……
「三、四年だけだけどな。これは中学年しか使えない制度なんだ」
なにその謎制度。
「うん、じゃあ私からもヒロトと話してみるよ」
「わかった」
一件落着!
「あ、話は変わるけど――」
「ふわぁ、よく寝たな。今何時だ?」
「山下くん絶対寝たふりだったでしょ」
「え、いや、何で分かったんだ!?」
いくらなんでも大根役者すぎるからね。どこかの誰かさんとは全く違って。
「じゃあ俺らは佐野に話しに行ってくるから」
「百目鬼クン、また今度」
「お腹やろ……野中さん!」
お、初めてさん付けで呼ばれた。
「演劇部の脚本、書いてくれませんか?」
「へ?」
きゃくほん、きゃく本……脚本?
「じゃあ俺、先に話しに行ってくるから。お前ら二人で喋っとけよ」
「あ、はい」
で、きゃくほんっていうのは……
「うちの劇団、冬の『なつふゆ大まつり』で、30分くらいの劇をやる予定なんだけど、いい脚本がなくてさ」
「なつふゆ大まつり」は毎年冬に大きな公園であるお祭りのこと。
ちなみに「なつふゆ」は、私たちが住んでいる市の地名だ。
つまり、「なつふゆ大まつり」は「夏と冬にある祭り」という意味ではない。
「そんなの、適当に童話とかにすればいいじゃん」
劇なら大体の劇団は童話とかにするはずだ。
私は劇を見たことがないからわからないけど。
「いや、まつりのテーマに合わせたくてさ」
「今回の大まつりのテーマって何だっけ?」
「確か『友達』と『親愛』だった」
「友達いない人は来るなっていう皮肉に聞こえる」
「だよな。それで、テーマに合っててハッピーエンドで短くてみんな知ってるような童話なんて一つもないわけ。で、脚本なくて困ってるんだよ」
確かに『友達』と『親愛』は難しそうだ。
でもそれ以前にまず聞きたい問題がある。
「てかもしかして私が小説書いてるって知ってるの?何で?」
「さん、さん……さんえだとかいうやつから聞いた」
「『さえぐさ』ね。ユノが言ってたのか」
「なんか昼休み中にお腹やろ……野中サンがいない隙にハデな女子に言ってたから。……ていうか図書室でそういうことを大声で話されんの迷惑なんだが」
私はユノのそういうところが嫌いなんだよな……
すぐ約束を破るし、「あのヒミツ、言っていいでしょ?いいでしょ?」みたいなことばっかり言うし。
「まあそれはともかく、書くのか書かないのか言ってくれよ!」
「あ、えっと……」
どうしよう、私にそんな小説書けるかな?
でも可愛い(かもしれない)後輩からの頼みだし……
「いいよ」
「いいのか?じゃあ少なくとも二学期が始まるまでに書きあげてくれ!出来るだけ早く!」
今は四月。結構時間はあるけど油断は禁物だ。
家に帰ったら早速ストーリーを練ろう。
「あ、でもさ」
「なんだよ?」
「私、そんな小説書けないよ?」
「別にテーマにぴったりのキレイごとじゃなくてもいいだろ。親愛も友達もいりませんっていうバットエンドでも別によくね?」
「うーん、まあ一理あるね」
とその時。
きーん、こーん、かーん、こーん、チャイムが鳴った。
「もうこんな時間!また今度ね!」
「またな」
それから後は、眠気と必死に戦いつつ六時間目の授業を受けた。
が、結局途中で寝てしまった。
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