クラブ活動が始まる!
今日はなぜかユノがちょっかいをかけてこなかった。多分クラブのことが楽しみだったんだろう。
キーン、コーン、カーン、コーン…
みんな、チャイムの音のことを「キーンコーンカーンコーン」って言うけど、私はそのいい方はちょっと違うと思う。私には「キーン、コーン、カーン、コーン」と、一つ一つ区切っているように聞こえる。
私がそんなことを考えていると、ナイフみたいに鋭くて厳しい声がした。先生の声だ。
「ハイ、皆さん。昨日、クラブを決めましたよね?今日は、そのクラブの部屋にいって内容説明を聞いたり、お手本をみたり、実際にクラブ活動をやってみたりします。ということで、今黒板に書いてあるクラブの部屋の一覧を見て、それぞれの部屋に行ってください!」
私は、あのクラブに入りたくて入った訳じゃないから活動に興味はないけど、ちょっとだけわくわくする。
「では、移動を始めてください」
あ、もう移動か。えーっと、「お悩み解決クラブ」は、「北校舎2階の空き教室1」か。ヨシ、行くぞ!えっと、私が今いる所は「南校舎3階」だから、えっと…
「やっほう!サキ!サキのとこ『北校舎2階の空き教室1』でしょ?サキ、私の親友だし、場所教えてあげる!」
親友…
「えーと、まず2階行かなきゃね。で、北校舎に行って…。よおし!シュミレーションはカンペキ!」
ていうかユノは私を案内してたら遅れるはずじゃないか!そこまでして案内したいの?
「ユノのクラブの教室どこ?案内してたら、ユノが遅れちゃうじゃん。」
ユノは、最初はキョトンとした顔だったけど、急に笑い出した。
「あっはっは!もー、サキったら!私の部室、ユノのとこの隣の教室!私『北校舎2階空き教室2』だもん!」
「なーんだ、そういう事だったんだ。全然知らなかったよ!」
「あはは。親友のクラブの場所くらい見といてよ!」
「親友……」
「ん?どうした?」
「い、いや。何でもないよ」
「そっか、ならいいけど」
親友……か。
「着いたよ」
「わっ!何⁉」
私は、突然の一言にびっくりした。
「だ・か・ら!目的地に着いたの!」
「あ、ああ、そうなんだ。えっと…じゃあ、また」
「うん。あ、クラブ終わったら一緒に教室まで帰ろうよ!」
「え、っと、それは…ちょっと、」
「え、何?私と一緒に教室まで行くのが嫌なの?」
ユノの目が鋭く光った。
「いや、別に…」
「じゃあ、一緒に帰ろうね!」
「うん…」
言えなかった。
「なあ、お前もしかしてクラブの新メンバーか?」
え⁉な、何⁉
「え…誰、ですか?」
「ん?ああ、オレ?オレは、ヤマシタヤマト。6年だよ。お前らのために、クラブの説明に来てやった。あ、ヤマシタヤマトは、山下に、大きい和って書いて山下大和。センパイって呼べ。で、お前は?」
「あ、えっと、私は、オナカ…じゃなくてノナカ…野中早紀です。えっと、五年二組です」
「ふぅん。『オナカじゃなくてノナカ』か。なかなかのキャッチコピーだな」
「え、そうですか?」
え、この人顔は怖いけど、意外と優しいじゃん。
「ていうのはウソに決まってんだろそこ座れ」
え、ウソだったの⁉さっき喜んで損した。この人…あ、センパイ、顔と同じくらい性格ひどいよ!
「で、君…オナカ…じゃなくて、ノナカ?だっけ?」
もう名前忘れてるし!記憶力までひどいの⁉
もしやこの人、頭悪い……?
「え、あ、はい。野中ですけど?」
「で、野中。今からこのクラブの説明をしようと思うんだが、」
「何でしょう?」
「あと二人」
「何がですか?」
「メンバー。新しいメンバーがあと二人いるはずなんだが」
「え?それ、何年何組の誰ですか?」
「えっと、この紙によると……」
センパイはA4の紙を、机の中から取り出した。
「5-1の『アスカアスカ』と同じく5-1の『アトノコウ』だそうだ」
「アスカアスカ?え、なかなか不思議な名前。で、アトノコウ…さんは、男の子かな?」
「さあな。本人が来たら聞きゃあいいだろ」
「まあ、そうですね」
とか言っていたら、部室の扉が開いた。
「あ、来たみたいだな!」
「ですねー」
「お、遅れてすみませんっ!こいつがずっと動かないから遅れちゃって…」
「は⁉ヒカリは悪くないしー。アスカがずっと本読んでたのが悪いんだしー!」
「はぁ⁉ずっと待ってるヒカリだって悪いだろ⁉一人でさっさと行っとけばよかったのに!」
「何言ってんのアスカー。ヒカリは良心で待っててあげてたのにー。そのいい方はないでしょー」
「あの…喧嘩中すまないんだが…」
「あ、ハイ?」
「自己紹介頼む。あ、オレは山下大和。山下に大きい和で山下大和。センパイって呼べ」
「わ、私は野中です。野中早紀です。サキって呼んでください」
「あ、ヒカリはヒカリだしー。ヒカリって呼んでしー。ちゃん付けは気持ち悪いからやだしー」
気持ち悪いからって…なかなかの毒舌だな。
「コラ、ヒカリ!適当な説明をするな!あ、僕は阿須賀飛鳥です。えと、『アスガ』に『アスカ』で、阿須賀飛鳥。アスカって呼んでください。で、こいつは後野光。『ゴノ』に『ヒカリ』で後野光です」
アスカさん…じゃなかった、アスカも雑な説明だと思うけど…
っていうかセンパイが言ってた名前の呼び方と全然違ったじゃん。
「センパイ?『アトノコウ』と『アスカアスカ』じゃなかったですけど?」
「えっと、それは、えっと、ほら、その、なんというか…ね?」
「はぁ、まったくもぉ」
「じゃ、全員集まったことだし、このクラブ、『お悩み解決クラブ』の説明をしよう。本当なら!この『お悩み解決クラブ』は!生徒たちの悩みを解決するクラブだった!だがしかし!普通にするのもイヤだから!オレは、部長として!独自のルールを作った!それが、これだ!」
センパイは、壁一面と同じくらいのサイズの紙をどこからか取り出した。それには、とっても可愛い字で、こう書いてある。
「お悩み解決クラブ 三つのルール」
1 普通の悩みは受け付けない
普通のお悩みは、相談されてもお断り!ウラがあるような重大な問題じゃないと解決に向けて活動しません。
2 お悩みは、月に三回までしか聞かない
いくらお悩み解決クラブのメンバーだとしても、一つのお悩み相談で体力はけっこう消費する。だから、お悩みは月に三回までしか聞けません!
3 相手が誰であろうと、相談者の話を聞く
相手がどんな人でも、相手が相談をしてきた以上、絶対に話を聞きます
「というルールを決めた。各自、このルールを守るように!」
「あ、はい」
あれ、1と3が矛盾してる気がするんだけど……?
「で、オレから言うことはもうないんだけど…まだ時間あるし、適当にゲームでもするか」
センパイはそう言って、大量のボードゲームと、大量のカードゲームを、そばにあった教卓から取り出した。
「ヤマシタ?何でここにそんなのが置いてあるのし?ここ、相談のトコでしょ?」
「ん?ああ。これはね、相談しに来たはいいが何も言わずにずーっと黙ってるような人がいる時に、リラックスさせて話させるようにするためにそういうのを置いてるんだよ。あとヤマシタ呼びやめろ。センパイって呼べ」
「はーい。ていうかすごいじゃん、ヤマシ……センパイ。口を割らせるためにそんなの置いてるとは。さすが、ヤマシ……センパイ!プロフェッショナルだし!」
「だろ?あと、オレは『ヤマシセンパイ』じゃないからな?」
「はいはいだしー」
「で?何すんの?」
「もちろん、人狼ですよ!」
アスカ、人狼好きなのかな?何か妙に張り切ってる…
その後人狼を何回もして、全部山下センパイのストレート負けだった。
「くぅっ!悔しい!こうなりゃ次こそ絶対勝って…」
キーン、コーン、カーン、コーン…
「あ!」
もうチャイムが鳴った。楽しい時間はあっという間ってこういうことか。
「ということで、残念ながら今日はここまでだ!次回の活動は、来週の水曜日の六時間目。あ、そうそう。この部室の前に「お悩みポスト」という、お悩みを書いて入れるポストを設置してある。諸君、忘れずにチェックしておいてくれ」
「はーい」
「じゃあまた、次回!」
「また次回!」
「また次回です!」
「また次回だしー!」
さ、外に出て…って、ユノ⁉部室の前に仁王立ち!ヤバイ…
「さ、一緒帰ろ」
ああ、やっぱりこうなるか…
「え、あ、うん」
と、その時。
「ねえ、そこの人。邪魔なんだしー。早くどけしー!」
「ヒ、ヒカリ‼」
「え、何?私、サキと一緒に帰ろうとしてただけなんだけど!本当、そういうの、止めてもらっていいすかぁ?」
ユノ……らしい、すごい煽り。ヒカリ、絶対ケンカ買うだろうなぁ……。私は、ヒカリが、フリマアプリで中古のケンカを三百円で買う様子を思い浮かべる。あはは、ヒカリらしい。
「は?一緒に帰ろうとしてたから何?それ、全然理由になってないんですけど!てか、いい加減どけしー」
ヒカリ、まさかの反撃!私は、今度は、ヒカリがイラつきながら、「このケンカ、壊れてるし!返品するしー!」とか言って、ケンカを返品する姿を思い浮かべる。ぷぷぷっ、面白い。(でも返品とはちょっと違うかな?)
と、そこに、一人の男子が。
「ちょ、ちょっとヒカリ!ダメだよ、そんなキツく言っちゃ!」
げげっ!アスカまで!
「はぁ?ヒカリは、こいつが変なこと言うから、間違いを正してやろうとしただけで…」
「その人も迷惑がってるし、やめた方がいいよ、そういう事」
「ぐ、ぐぬーっ!」
「さ、ヒカリ、早く帰らないと…」
アスカぁ、邪魔はよくないってばぁ!
「…ああもう!うるさいんだし!確かにさっきのケンカをふっかけたのはヒカリだったし、ヒカリが悪いって認めるし。でもサキは、ヒカリと帰るんだし!」
「えっ…?そんなの聞いてな…」
「いいから行くし!」
もしかして、助けてくれた?
「あ、うん!」
「あ、ちょっと待ってよ、サキ!」
「えっと、今日はやっぱりヒカリと帰るからー!」
後ろからユノの声が聞こえるけど、待たない。ユノと一緒にクラスまで帰るより、ヒカリと一緒に帰った方が100万倍くらい楽しい。だから、待たない。
それから一週間が経った。
ユノとの進展もクラブの進展も特に無かった。
強いて言うなら私は新しい短編小説を書き始めた。
とか考えていたら部室に着いていた。今日はなんだか部室が騒がしいな…
「失礼しま…⁉」
「あ、野中さ…サキ。入ってどうぞ」
「あれ?サキ、今『失礼島』って言ったし?そんな島ないんだしー」
「ふむふむ。明日の昼休みか…。あ、野中。今『お悩みポスト』に入ってた手紙をみんなで読んでるところだ。野中も一回読んでみてくれ」
お悩み解決クラブ、まだ活動二回目なのに…もう手紙が!
「はい、サキ。これ」
センパイから渡された手紙には、こう書いてあった。
私には、悩みと言えるか分かりませんが、悩みがあります。お悩み解決クラブの皆さん、どうか私の悩みを解決してください。お願いします。解決してくれるのなら、木曜日の昼休みに、四年二組の教室の隣の空き教室に来てください。
四年二組 有栖川優芽
「有栖川、優芽…ちゃん?」
「そう。そうなんだよ。その子からの手紙なんだよ。」
「だから、明日の昼休みに、」
「その教室に行くんだしー」
「なるほど!」
「うん。そういう事。で、」
「もうやることがないから、ババ抜きでもしようか。ってことになったんですよ」
「ふーん。じゃあ、やろうか!」
「よし‼今日こそ勝ってやる!」
「失礼します」
突然聞こえた真面目そうな声に、私たちは驚いた。
「ちょっと野中、確認してきて」
「はーい」
誰だろ?クラブ時間中に。あ、もしかして、先生とか⁉
「あの、お悩みクラブの人ですか?」
そこには可愛らしいふわふわワンピースを着た四年生くらいの可愛い子がいた。
つまりとてもかわいい下級生ということだ。
「あ、えっと、お悩み解決クラブのメンバーではあるんだけど…君、ダレ?」
「あ、えっと、私は…」
「もしかして、有栖川か?悩みを依頼した」
あれ?センパイ、いつからいたの?
「は、はぎぃ!そ、そうですぅるっ!」
優芽ちゃん、何か喋り方がおかしい…多分センパイがコワすぎて緊張してるんだろうなぁ。私も最初は緊張したよ…
「あーもう、ヤマシ…」
「センパイって呼べ」
「センパイは、下級生の扱い方が雑なんだしー。怖がられてるしょ?」
「す、すまんな」
「ヒカリ、言い過ぎ。……大丈夫?優芽ちゃん。というか、優芽ちゃんは何でわざわざ部室に来たの?何かあったの?」
「はっひょっふ!ぎゃうぁ!」
ちょ、アスカ!いきなり優芽ちゃん呼びはヤバイってば!しかもアスカ、イケメンだし!ほら、優芽ちゃん物凄く赤くなってるよ…!
「えと、アスカ、いきなり優芽ちゃん呼びはちょっと…」
「え、別によくない?」
「……」
アスカ…。いくらなんでも、鈍感すぎじゃない…?
「どうでもいいけどさ、今クラブの時間だぜ?戻らなくて大丈夫なのか?有栖川」
「それは…」
優芽ちゃん、なんか言いにくそう…
あれ、もしかして、悩みってそのこと…?例えば、優芽ちゃんがクラブ内でいじめを受けているとか…
「もしかして、悩みってそのクラブのこと?」
「…はい」
「ちょっと詳しく話を聞かせてくれない?別室で」
そして別室に移動した。移動する意味は無かったと思うけど、センパイが
「プライベートなことを教師に聞かれたらマズイだろ」
って。確かにこの部屋は職員室の隣だ。うちの学校の壁は薄いから、少しでも声を大きくしたら先生たちに筒抜けだろう。
「あの…大丈夫なんですか?ここ使っちゃって」
「大丈夫だ、有栖川。今の校長ですらこの部屋の存在は知らないからな」
「だといいですけど……」
で、私たちが今いる部屋はどこかと言うと、隠し部屋!そう、男女問わず小さいころに一度は憧れる、隠し部屋!でも、この隠し部屋、ちょっとすごい所にあって……
「にしても、なんでこんな所に、隠し部屋が?」
「オレも最初はそう思った。校長室の本棚の裏に、隠し部屋なんて不思議だよな。でも、初代の校長はずいぶんとパズル好きだったってうちの担任が言ってたからな。これもパズルの一つじゃないか?」
そう、ここは校長室の中!
初代校長から受け継がれている、めちゃくちゃ重くて古〜い本棚を全力でどかすと、その裏にドアがある。そのドアからこの狭い部屋に入れるのだ。
ちなみに部屋の中には、小さなテーブルと座布団、ミニキッチンがあり、一応コンセントもある。
上のコンセント穴はお湯を沸かす電気ポット(正式名称はわからない)に繋がっているがもう一個のコンセント穴は何も繋がっていない。スマホと充電ケーブルを持ち込めばスマホをいじれそうだ。
これはいらない情報だが、ミニキッチンにはガスコンロと蛇口がある。あと数枚のふきん。
「ていうか、ヤ……」
ヒカリが、「ヤマシタ」って呼ぼうとすると、センパイが光の速さで反応する。
「何度も言ってるけど、センパイって呼べ」
「はーい‼」
「んぐ……」
このやり取り、面白すぎる。
「センパイ、何でこの部屋の存在を知ってるのしー?」
「それはな、つい何週間か前、掃除当番で校長室の掃除に来た時に見つけたんだ」
「あれ、校長室の掃除当番一人なんですか?」
「その日はもう一人の当番が、その、休んでたんだよ!」
「ふーん。ていうか、本題である、優芽ちゃんのお悩み相談はどうなったのしー?」
「ああ、そっか。忘れてた」
「で、どういう悩み?」
「さっきおきた出来事なんですけど、私のクラブ、イラストクラブで……」
「うんうん。それで?」
「そしたら急に『どうめきごん』っていう人が来て、その人が来た瞬間にみんながびっくりして、教室から逃げ出して……」
「ごめん、もう一回言って?」
「どうめきごんっていう人が来て……」
「ごめん、名前、漢字で紙に書いてくれる?」
優芽ちゃんはそこに、「百目鬼魂」と書いた。
「百目鬼魂ってあの!?」
思わず叫んでしまった。
「あの、百目鬼魂しっ?」
「百目鬼って、あの百目鬼さんなんですか……?」
「あいつ、何があったんだ?」
みんな、なぜこんなにも「百目鬼魂」に怯えたり驚いたりしているかというと…
百目鬼魂は、超、スーパー、めちゃくちゃ、乱暴だから!百目鬼魂は、成績はいいし絵も上手いし運動神経も超抜群だけど、すごい乱暴なんだ。で、みんなからは「恐怖の百目鬼」とか「小学生ヤンキー」とか言われてる。荷物は全部学校に置いていて、自分を注意した教師や生徒にパンチしたり(手加減はしているそうだ)空き教室の中に立てこもって、どこからか持って来た竹刀を振り回したり、授業中に急に「オレ帰る」とか言って帰り出したり。
彼は今までに何件もの……いや、何十件もの事件を起こしている、大の問題児なんだ。だから、「百目鬼」と聞いて怖がらない者はいないはず……なんだけど、センパイだけ考え込んでる。何でだろう?
「あ、言い忘れてたけどオレ、百目鬼の幼馴染だから」
…え?
「い、今何と言いましたか?」
私たちの代わりに(震える声で)センパイに質問してくれたのは、アスカ。
「だから!俺、百目鬼の幼馴染なの!」
センパイが、あの百目鬼の、幼なじみ?
「えっ」
「あの、話を戻したいんですけど」
「あ、すまんな」
「で、その百目鬼さんが急にイラストクラブの部屋に入ってきて」
「それで?」
「『佐野』って言い残して去っていったんです」
「な、なんだそれぇ!」
お悩み解決クラブ全員で叫ぶ。でも、本当にどういうこと?「佐野」って、何のこと?
「もしかして、イラストクラブに佐野って人いないし?」
「はい。佐野って人は、確かにいるんです。四年二組の佐野敬人くん」
佐野、敬人?佐野敬人?ヒロト?
いや、まさか。同姓同名なだけだよね。世界は広いし。
「で、まとめると?悩みって何?」
と、アスカ。確かに、優芽ちゃんの言う「悩み」って何だろう?今のところ、悩みなんてないように聞こえるけどなぁ。
「まとめると、私の悩みは、百目鬼さんが心配なんです」
「どういうことだし?」
「百目鬼さん、急に部屋の中に入ってきて、急に『佐野』って。百目鬼さん、おかしくなってるんじゃないんですか?それが、少し心配で」
「なるほどな。で、その佐野は、言われてどんな反応だったか?」
「えっと…ハッとしたような顔になって、うつむいて、それからしばらくは、悲しそうな顔して、絵を描いていました」
「佐野ってやつは、イラストが好きなのか?」
「佐野くんは、イラストはそこまで好きじゃないみたいでしたよ?昼休みの時も、ずっと運動場でサッカーやってましたし。地元の陸上部に入っていましたし。そう考えると、佐野くんは、何でイラストクラブに入ったんでしょう?てっきり陸上クラブだと思っていたのに」
「やっぱりそうか…じゃあ、その佐野ってやつ、ドウ……あ、百目鬼のことだ。と、仲が良かったんじゃないか?それと、ドウは、陸上クラブじゃないのか?」
「え、はい。佐野くんは、百目鬼さんと仲が良かったし、クラスが違うので詳しくは知りませんが、みんなが百目鬼さんは陸上だって言ってましたけど、なんでわかるんですか?」
「ちょっと分かった気がする」
「え?」
センパイの言う事についていけないよ……
「予想だが、おそらくドウはまたどこかのタイミングで『佐野』を言うだろうな」
「何でそうだとわかるんですか?」
「それは、何とも言いにくいんだが……いや、言うのはよくないよな」
「さっきから何を言ってるんですか、センパイ」
アスカの冷静な声が隠し部屋にひびく。
「今週の金曜の昼休み、お悩み解決クラブのメンバーだけで調査に行く。4-2の前で集合だ。あと、有栖川。真実は佐野の口から聞いてくれ」
「な、何で真実は佐野くんが知っているみたいな言い方なんですか、センパイ」
アスカがちょっとびっくりしている。
「そのままだ」
「そのままってことは?」
「佐野が、この件のことを一番知ってるから。あと、自分の気持ちは、自分で伝えなきゃいけないからだよ」
「え?」
センパイ、さっきから何を言っているんだ?
「さ、今日はもうこれで終わり。早くしなきゃ校長が来て、出るに出られなくなってしまうかもしれないし」
確かに、急がないと校長が来るかも。
「じゃあ、また金曜日しー!」
「また金曜な」
「また金曜日に会いましょう!」
「また金曜に!」
「私は金曜日は委員会でいませんけど、また会えたら」
「じゃあ解散だ!」
さ、帰ろう。あ、そういえば先生、帰りの準備が出来た順に帰っていいって言ってたっけ。ユノに見つからないうちに帰らなきゃ。
「サキ!」
後ろから声をかけられた。
まさか、ユノ?と思って振り返ると……
「一緒に帰ろうし!」
「あ、ヒカリか。ふう、怖かったぁ」
「あ、サキ、地区ヒカリと一緒しょー?」
「え、何で知ってるの?」
「だって、帰ってるときにサキが見えるんだしー」
「へぇ。じゃあ行こうか」
「おっけーしー」
そして私たちは、色々な話をして、あっという間に靴箱に来た。私が靴を出した時、ふと思い出したようにヒカリが言った。
「サキは、ユノを親友だと思ってるのし?」
「……は」
とっさに出た言葉は、「……は」だった。私にとって、「……は」以上でも、「……は」以下でもない。多分。
「もしかして失礼だったし?ごめんし」
「でも、正直言って、ユノは……親友じゃない」
言えた。今まで誰にも言えなかったことを、言えた。
けど、ヒカリは何で私がユノのことを親友と思ってないことがわかったんだろう?
「ヒカリ、なんでわかったの?」
「それは、サキは、いつもお悩み解決クラブの時とか、とっても楽しそうな顔をするんし。サキ本人は、気付いてないみたいだけどし。でも、ユノといる時だけは、寂しい顔をするんだし。だから、本当は楽しくないのかし?って思って」
「ヒカリ、探偵みたい!すごいね」
「えへへ」
その日はヒカリと二人で帰った。いつもは、ユノに無理やり一緒に帰らされてるけど、ヒカリと一緒に帰るときは、無理やり感がなかったし、いつもの帰り道の100倍くらい楽しかった。
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