第9話 新居と旅の疲れ

翌朝、東京駅に着いたKは電車を乗り継ぎ、小田急線の町田駅のひとつ手前の駅で降りた。ここは駅の近くに大学があるが、麻雀屋や居酒屋などの学生街によくある店はなく、スーパーが数軒あるだけだ。落ち着いた雰囲気をKは気にいった。


Kは新居の築50年の2階建てアパートに向けてひたすら歩いた。本来ならバスに乗る距離のところだが、いろいろ見て歩きたかったので、徒歩に決めた。


この前見たときと違い、今度は実際に生活するという立場から見てみたかったのだ。駅から10分程歩くと、畑の広がるのどかな風景が開けてきた。空気もうまい。


のんびりした気分でしばらく進むと、新居に到着した。この前は気付かなかったが、物置のような外観だ。近くには薄っぺらい黒板らしき板が、捨てられたようなかたちで放置されていた。おそらく、以前は学校の先生が住んでいたのだろう。


予定通りに引っ越し業者が来て、荷物を運び込んでくれた。荷物が少ないのですぐに終わり、Kはアパート前に広がる草原に腰をおろした。見渡す限りの草原で、近隣の住居まで1キロ以上はあるだろう。


Kは今までの疲れとのどかさを堪能したことで、睡魔に襲われた。そして草原で大の字に横たわり、そのまま死んでしまったかのように寝てしまった。


おそらく5、6時間は経過したであろうか。昼下がりにKは見知らぬ男の声で目が覚めた。


「大丈夫ですか?」

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マーブルとのかけがえのない日々 マーブル @marblep

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