第2話 現状と新生活の葛藤
占いのゲームでテレポート、すなわち引っ越しを勧められたからといってすぐに引っ越しするわけではない。Kは今まで新生活を始めて心機一転したいとずっと考えていたのだ。
Kはもともとは今いるスーパーの近所、東京東部の出身だ。その後、数か所に移り住み、現在は大阪にある天神橋筋商店街の近くに住んでいる。大阪は去年の3月に住み始めたので、まる1年住んだことになる。
仕事は小学校の事務補助で、教員の給金の管理や保護者宛の印刷物の作成、来客対応など様々だ。事務職員はもうひとり主任の30歳の女性がいるが、彼女からはあまり好かれていないようだ。
「あんた、今まで何してきたの?」
「この仕事を始めたときから、まったく進歩がないね」
などと小言を言われるのは日常茶飯事だ。
Kは仕事自体は嫌ではなく、かつては教員を目指していたので児童と話すのも楽しみにしている。教員や校長とも冗談を言い合う仲だが、事務主任だけはどうも馬が合わない。
この仕事は大学時代の恩師が、この学校の校長と知り合いで事務職員を探しているということで引き受けた。この話があったとき、Kは神戸に住んでいたので、
「大阪なら近い」
と思い、引き受けたのだ。
ただ学校は大阪市より南にある堺市なので、神戸から通うのは大変なので大阪に引っ越すことにした。大阪の中でも日本一長い天神橋筋商店街の近くに住みたいと思い、今住んでいるマンションに決めた。通勤も30分くらいでちょうどいい。
住んでいる場所も学校も仕事も、主任の小言以外は嫌なことがないが、任期は3学期の終業式、つまりちょうど10日後だ。来年度はKの替わりにベテランの事務職員が来ることになっている。
Kの次の仕事は決まっていない。このまま大阪で仕事を探そうか、それとも違う場所で働こうか悩んでいる。これまで大学中退後は1年単位で転居していたので、引っ越しは慣れているが、大阪も気に入っている。今年に入ってからずっと悩んでいたのだ。
大阪での生活は楽しい。しかし、一箇所に腰を据えて生計を立てたいという考えもずっとあった。いずれは住み慣れた東京に戻ろうとも考えていた。そんなとき、偶然見つけた占いゲームで引っ越しを勧められた。
「これは運命かもしれない」
自分が生まれ育った地にあるスーパーで、ミステリアスな占いマシーンにテレポートを勧められた。最初は面白半分で適当に考えていたが、
「今の先の見えない人生から開放されるかもしれない」
と、だんだんと信じるようになってきた。そして、覚悟をきめた。
「これが最後のテレポートになりますように」
折しも季節は春、新しい生活を始めるのにちょうどいい。フットワークは軽い方ではないが、現状を変えたいと思っている。そんなことを考えながらゲームコーナーをあとにした。どんな出会いがあるのだろう、そんな希望とともに・・・
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