マーブルとのかけがえのない日々

マーブル

第1話 テレポート

桜の花びらが風に運ばれて舞っている。そういえば昨日、開花が発表されたことを思い出す。暖かい風、菜の花の香り・・・昔から春の陽気は好きだ。


そんな春の静けさと共に時は流れ、ここにひとり。


Kは平日の午後、東京都内のスーパー「忠実屋」の屋上にあるゲームコーナーで物思いに耽っていた。


たまたま用があったので、実家近くをぶらぶらあるいていたら、昔と変わらないスーパーに行き着いた。


「よくがんばったな」


1回20円と彫られた形跡がおぼろげな、息を吹き返す術のないであろう、わたがし製造機を見つめていた。


ゲームコーナーと言っても、今は放置されて廃墟のような状態だ。ほとんどのゲームが作動しないだろう。


子どもの頃、ここでよく遊んだ。どのゲームも1回10円くらいでできるので、子どもたちに人気があった。


その中でも、当時好きだったオバQの乗り物が特にお気に入りだった。探してみたら、古めかしい毛が3本のオバQが隅の方で佇んでいた。その表情がどことなく印象的だったが・・・



古いものから新しいものへ目を移すまで、どれくらいの時間が経ったのだろう。



廃墟と化したゲームコーナーの中で唯一電源が入っているのを見付けた。思わず足を止め、流れてくるBGMに耳を傾ける。宇宙を思わせる神秘的な曲に心惹かれて、そのゲーム機をよく見てみると、占いのゲームのようだ。



「あなたは風に吹かれて不思議な体験したいと思いませんか?あなたを占います。」


そうゲーム機の上部に書いてある。画面を目にすると怪しい占い師が映っている。画面の中の占い師も同じセリフを口にしている。


いまにも倒れそうな睡魔で衰弱した両耳が、その異様なキャッチフレーズを捉え、思わず魅入ってしまった。


気が付けば、Kは10円玉を入れてスタートボタンを押していた。普段は占いに興味がなく、朝の情報番組でも天秤座が1位の時しか気にしていなかった。


しかしなぜだろうか、目の前の占い機に吸い込まれそうになっている。そして、ここ数年は感じなかったドキドキやワクワクといった感情が渦を巻いているような気がしてきた。


生年月日を入力した後、心理テストのような質問が始まった。答えやすいものから答えにくいものまで様々で、すべて4択だ。


「大金を手にしたら何をしますか?」という質問もあれば、「無人島に行くとしたら何を持って行きますか?」など、考えさせられる質問もあって、なかなか楽しい。


10問ほど質問を受けた後、占い結果の紙が出てきた。



「あなたの前世は画家、未来を変えるにはテレポートが吉、方角は西。」



テレポート?なじみのない言葉が紙から飛び出してくるように感じた。超能力のことかと少しの間ぼう然としたが、移動、つまり引っ越しのことかと納得した。印刷された1枚の預言書をまじまじと見つめ、


「確かに引っ越しも悪くないな」


そんなことを思ったが、そう考えたのには理由がある。実はKには今、悩んでいることがあった。

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