第14話:白黒
メストン王国暦385年5月26日:王都闘技場
「私じゃない、私は悪くない!
全部ダンテ王子がやった事よ。
シルキン宮中伯が無理やりやらせたの」
最初にコクラン男爵家のヴィオラが引き出されてきました。
処刑される順番は、身分の低い者からになります。
好きではないのですが、処刑は民の娯楽です。
今回は特に、民に真実を徹底させなければいけません。
私や父上が悪いのではなく、ダンテ王子を始めとした王家が悪かったと、王都に住むアンゼルモ王家の民に知らしめなければいけません。
「じゃかましいわ!」
「売女、お前のせいで王家が凋落したんだ!」
「お前のせいで、王都が領都になっちまった!」
王侯貴族の処刑見たさに集まった者達が、好き勝って言っています。
中には王都が領都になるという間違った事を言う者もいます。
ここが王都でなくなるわけではありません。
属国に成り下がったとは言え、王都です。
住む貴族が激減してしまい、景気が極端に悪化するでしょうが王都は王都です。
ただ、流れは私や父上に向いています。
アンゼルモ王家の民なのに、王家に依怙贔屓した考えをしていません。
それだけこれまでのコクラン男爵やヴィオラの言動が悪かったのでしょう。
「ゆるして、たすけて、お願い、全部ダンテが悪いの、私じゃないの」
泣き落としに変えてきましたが、何を言われても許す気はありません。
ここで許してしまったら、同じ事をしても殺される事はないと、多くの貴族士族が図に乗りますから。
「やりなさい」
「いや、いや、いや、死にたくない。
恨んでやる、呪ってやる、末代までマリーニ侯爵家を祟ってやる!」
ギュン!
剣風のうなりと共にヴィオラの首が地に落ちます。
まだ心臓が動いているので、切り口から断続的に血が噴き出します。
戦場往来を日常とする本当の王侯貴族なら、慣れなければいけません。
「次」
私の指示で次の処刑者がでてきます。
「離せ卑怯者!
逆臣に仕える騎士は貴族の対する礼儀もないのか?!
王家の騎士よ、このままでいいのか?!
父上の申されていたように、王家が侯爵家に叛乱されたのだぞ!
立って王家のために戦え!」
「馬鹿野郎が、お前達の所為で王家と侯爵家が争ったのだ!」
「お前らが余計な事をしなければ、王家と侯爵家は手を携えられたのだ!」
「逆賊とはお前の事だ!」
ルイージが王家に仕える貴族士族から罵声を浴びせられています。
長年王家のために自分をすり潰してきた宰相や道化師は、苦虫を噛み潰したような表情を浮かべています。
愚か者の為に、400年近くも代々重ねてきた努力が無にされたのです。
アンゼルモ王家の忠臣が許せないのは当然でしょう。
本当は自分の手で殺したいのでしょう。
詫びのために処刑を私に委ねなければいけないのは、とても悔しいでしょう。
その気持ちの中には、実質属国になる事に対する屈辱があるはずです。
「くそ、馬鹿や佞臣に何を言っても無駄か!
逆臣エレナ、悪女の本性を暴いてやる。
俺と決闘しろ!」
「そうですか、そこまで言うのなら決闘を受けてあげましょう。
ですが、愚かで恥知らずな貴男に王侯貴族の常識を教えておいてあげます。
貴族の公子が貴族の令嬢に決闘を申し込む事くらい、恥知らずな事はないのです。
特に現役の騎士が未成年の令嬢に決闘を申し込むなんて、南北両大陸を併せても史上初の恥知らずでしょう」
「「「「「ウォオオオオ」」」」」
闘技場に集まった人々が大歓声をあげています。
見た目が華奢な令嬢である私が、巨体で厳めしい騎士からの決闘に応じたのです。
これから行われる騎士同士の命を賭けた戦いも楽しみなのです。
ですが彼らは大きな勘違いをしています。
私は普通の貴婦人や令嬢ではないのです。
決闘に代理人の騎士を立てたりはしません。
「この者の拘束を解いて剣を渡してあげなさい。
剣は不得意だと言うのなら、好きな武器を与えてあげなさい。
不得意な武器で戦わされたと地獄で言われては、我が家の名誉に傷がつきます」
「はっ!」
本当に決闘に応じてもらえるとは微塵も思っていなかったのでしょう。
啞然とするルイージを無視して、我が家の騎士達がテキパキと用意します。
彼らは私がこの国最強と言われた騎士、ペドロリーノを倒した事を知っていますから、何の心配もしていません。
「何をしているのです、自分で申し込んだ決闘に尻込みするとは、口先だけの佞臣ほど質の悪い者はありませんね」
「な、何をしている?
さっさと代理人を用意しろ?!」
「寝ぼけた事を言わないで。
貴男程度を相手に代理人など必要などありません。
傷つけられた名誉は、この手で回復させます。
さっさとかかって来なさい、女にしか決闘を申し込めない卑怯者」
「おのれ!」
本当に恥知らずです。
少々罵られたからと言って、本当に令嬢に剣を向けて殺そうとしています。
闘技場に集まった人々が息を飲むのが感じられます。
まあそれも当然でしょう。
ルイージは処刑される罪人なので、動き易い主人服です。
一方の私は、恐ろしく動くのに不向きは侯爵令嬢に相応しい正装です。
私は、闘技場に集まった人々にルイージとの力量差を見せつけるように、ルイージの攻撃を軽々とさばき続けました。
力と技の限りを尽くして攻撃してくるルイージを翻弄して、肩で息をするどころか、両膝を地につけて倒れ込むまで受け切ってあげました。
「実力差を思い知りましたか?
貴男が佞臣と言った侯爵家は、令嬢ですらこれほどの努力をしているのです。
それで、貴男やダンテはどれだけの努力をしてきたのです?
恥を知りなさい、恥を!」
私はそう言った後でルイージの首を刎ねました。
処刑した後で、城門に首を晒さなければいけません。
二度手間をはぶくためにも首を刎ねて終わりにしなければいけません。
「次」
私の指示でいよいよ元第1位王子のダンテが引っ立てられてきます。
「やめろ、止めてくれ、俺が悪かった、謝る、謝るから許してくれ。
エレナ、婚約者だったではないか、婚約者を見殺しにして恥ずかしくないのか?
助けろ、助けてくれ、死にたくない、死にたくない!」
ダンテは最後まで見苦しかったです。
その場限りの謝罪を繰り返して助かろうとしました。
吐き気がするほどおぞましいですが、見ない訳にはいきません。
これも王侯貴族の義務です。
「やりなさい」
ギュン!
剣風のうなりと共にダンテの首が地に落ちます。
「「「「「ウィオオオオオ」」」」」
「やったぞ、これでも娘の仇がとれた!」
「妻の無念が晴らされたぞ」
「万歳!」
「エレナ様万歳!」
「マリーニ侯爵万歳!」
闘技場に集まった王都の民、4万人が大歓声をあげています。
個人的な声は、ダンテの被害者家族でしょう。
1日も早く、ここで父上の戴冠を大々的に発表しなければいけません。
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