狙われたクラリス 3
かたり、と物音が聞こえた気がした。
(どこか、窓が開いているのかしら?)
物音で目を覚ましたクラリスは、窓の隙間から風が入り込んだのだろうかと寝起きのぼんやりした頭で考えながら、むくりと上体を起こした。
暗い室内に目を凝らしつつ、ベッドから起き出そうとしたクラリスは、ベッドの帳に手をかけたところで動きを止めた。
部屋の中に、誰かがいる気がしたのだ。
(エレンじゃ、ない?)
なんとなくだが、帳の外にいる人間は、気配を絶つように息を殺しているような気がする。もちろんクラリスは騎士でもなく、ましてや特別な訓練を受けた手練れでもないからただの気のせいである可能性も高いが、未来で殺された瞬間が脳裏をよぎって、自然と体が強張った。
このまま帳の外へ出るのは危険かもしれない。
だが、いつまでもベッドの中にいるのも危ないと思う。
クラリスはちらりとベッドサイドに置いてあるベルに視線を向けた。
あれを鳴らせば、誰かが来る。
大きく鳴らせば、何事かと伯爵家が雇っている護衛も駆けつけるだろう。
クラリスはごくりと唾を飲み込んで、そーっとベルを手に取ると、力いっぱいベルを鳴らした。
その瞬間、帳の外にいた気配が動いたのがわかって、慌ててベッドから飛び出す。
クラリスが飛び出した瞬間、反対方向の帳が刃物で切り裂かれた。
「誰か来て――‼」
やはり、刺客だったのだ。
暗がりに、背の高い男のシルエットが浮かび上がる
クラリスはベルを大きくならしながら叫ぶ。
バタバタと使用人が走って来る足音が聞こえた。
クラリスがホッと息をついたのも束の間、ちっと舌打ちした男が手に持った短剣を投げつけて来る。
「いっ――」
腕に、鋭い痛みが走った。
相手が投げた短剣がクラリスの左腕を切り裂いて壁に突き刺さる。
咄嗟にクラリスが身を引かなければ、おそらく胸に突き刺さっていただろう。
これ以上はここにいるのは危険と判断したのか、男が窓に向かって駆けだした。
壁から短剣を抜き取って、その柄で窓ガラスをたたき割った男は、そのまま窓から飛び降りる。
ぽたぽたと血がしたたり落ちる腕を抑えて、クラリスは「怪しい男が庭に逃げたわ‼」と割れた窓から叫んだ。
庭には夜の番をしている護衛が数名いるはずだ。
クラリスの叫び声を聞いたのか、護衛の声がしてバタバタと足音が聞こえた。
それとほぼ同時に、部屋に使用人たちが駆け込んでくる。
「奥様‼」
一番に部屋に駆けこんできたのはエレンだった。
急いで部屋の明かりをつけたエレンは、割れた窓ガラスに眉をひそめたあとでクラリスの怪我に気づいて悲鳴を上げた。
「だ、誰か‼ 誰かお医者様を――‼」
真っ青になったエレンと使用人たちが慌ただしく動きはじめたのを見たクラリスは、これでひとまずは安心だろうかとそっと息を吐きだした。
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