切り刻まれた花 2
「温室の花が切り刻まれていた⁉」
(そんな事件、記憶にないわ‼)
三日後、例のごとくアレクシスとともに登城し、侍女の控室に入ったクラリスは、ブリュエットからの報告に思わず大声をあげてしまった。
「しー! 声が大きいわ!」
すかさずブリュエットに注意されて、クラリスは両手で口を押える。
「切り刻まれていたってどういうこと?」
声を落として訊ねると、ブリュエットはクラリスとブリュエット以外誰もいない控室に注意深く視線を這わせて言った。
「昨日のことよ。昨日は暖かかったから、空気を入れ替えるために日中だけ温室の窓を少し開けていたの。それを閉めるために夕方に温室に向かったら、温室の鍵が中からあけられていて、花をめでる会に出す予定の花と予備の花が全部切り落とされていたのよ」
クラリスは昨日は休みだった。休みの間にそんなことがあったなんてと驚いていると、ブリュエットが悔しそうに唇をかむ。
「絶対に第二妃様の仕業だと思うのよ。だって第二妃様以外、そんなことをして得をする人なんていないもの。なのに王妃様はことを荒立てたくないからって、事件のことは内緒にするって言うの」
「そんな……」
「でね、わたくし悔しくって! 王妃様はこのまま様子見するつもりみたいだけど、また侵入されて残った花が被害にあったら大変でしょ? だからね、わたくし考えたの」
こそこそとブリュエットが内緒話をするようにクラリスの耳に口を近づける。
「交代で温室の番をするのよ。日中はもちろん、夜もね!」
「温室に寝泊まりするってこと?」
「そうそう。毎日はつらいけど交代ならいけるんじゃない? どう?」
クラリスは一瞬考えたが、残った花を守るためにこれ以上の名案はないだろう。
フェリシテが大事にしないと言ったので、温室の周りに警備を敷くこともできない。ならば自分たちで守るしかないのだ。
「いいと思うわ」
「クラリスならそう言うと思ったわ! レオニー夫人はさすがに子供がいるから無理だけど、昨日出勤していたほかの子からは了承を得たし、あとで誰がいつ寝ずの番をするかスケジュールを決めましょ!」
「王妃様に内緒でいいの?」
「だって、お伝えしたら危ないからやめなさいって言われると思うもの」
確かにフェリシテならそう言うだろう。止められては身動きが取れなくなるので、秘密にして行動した方がいい。
フェリシテの侍女たちはフェリシテのことが大好きだ。フェリシテがいいと言っても、納得がいかないのである。
(王妃様が大切に育てた花を切り刻むなんて、ひどすぎるわ!)
花をめでる会のためだけではない。フェリシテは花が好きで、我が子のように大切に育てていたのだ。フェリシテが育てた花は国王も気に入っていて、時折分けてほしいと言いに来ることもあるほどなのである。
「じゃあ、続きは休憩時間に話し合いましょ。残った花の中で、展示する花を選ばなきゃいけないし」
不幸中の幸いは、鉢植えを七つほど王妃の部屋に運んでいたことだろう。展示の目玉である虹色の薔薇をはじめ、特に綺麗に咲いている薔薇や蘭は無事だ。
でも、もし花をフェリシテの部屋に避難していなかったらと思うとゾッとする。
(残った花は、絶対に守り切らないと!)
フェリシテの今日のスケジュールを確認しながら、クラリスは使命感に燃えていた。
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