第10話 『再会』 その10


 『それは、わたくしが、6歳のころでした。わたくしは、独身を通しましたので。ま、いろいろは、ありましたが。葵さんは、大家に生まれた方ですから、没落後とはいえ、いえ、なおさら、なかなか、難しいとことがあったのでしょう。その頃の葵さんは、後から思えば、ちょうど、18歳くらいです。一番、美しい時期でした。それは、初夏の晴れた日で、わたくしが、あのお屋敷とかあたりを、さ迷っていた、ま、迷子になっていたのですが、そのときに、お会いしたのです。お付きのかたがいらっしゃいました。その方が、わたくしを見つけて、やがて、探しにきた母に引き渡してくれたように思います。葵さんは、ひとことも話しませんでした。なんだか、すごく、沈んだ表情だったような。これも、後から聞きましたが、そのころ、葵さんは、決められていた金持ちのせがれの許婚さんに嫁ぐように父親から迫られていたそうです。でも、葵さんには、好きなひとがいたらしいと、言われます。その、たぶん、直ぐああと、葵さんは、夜中に港から海に飛び込みしました。幸い、夜釣りにきていた漁師さんに救われたのですが、その後、どちらかの施設に入れられたとか。ちょうど、たしか、盧溝橋事件があった頃です。』


 遠藤くんが言いました。


 『なんだか、ぴったり、話が合うんじゃないかい?』


 

        🔫

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