第9話 『再会』 その9
おばあちゃん、と、お呼びするのは、あまりに失礼なようでした。
お姉さん、では、さらに失礼かもしれませんが、イメージからしたら、60歳代と言われても、おかしくない、実に若々しい方です。
一応、まず、概略を、お話ししました。
橘葵さんの名前はまだ、出していませんが、新しい職場での幽霊現象のことを、頼まれて、調べていると、申しました。
怪しまれるかな、とは、思っていましたが、そこは、遠藤くんもいましたし、思いの外、あっさりと聞いていただきました。
さすが、貫禄です。
『それでも、なかなか、もう、馴染みの人は、みな、それこそ、あっちにいっちゃったからね、お客さんはあまりなくてね。だから、こっちから、お客さんに行くんですよ。積極的に。』
『はあ。なるほどお。』
『だから、あなた方みたいな若い方が来るのは、大歓迎なの。それに、なかなか、それは、最近になく、興味深いお話しね。すごく、面白い。』
『いやあ。若いと言われても、65歳過ぎてますが。』
『若いわよ。子供みたいなものね。』
『恐れ入ります。』
『ほほほ。で、どのあたりを、まず、お聞きになりたい?』
『それです。まだ、ねんどやまがあった時代です。じつは、その幽霊の人は、資料からすると、あの、ねんどやまの丘あたりに、住んでいたらしいのです。橘さんと言います。調べたところ、いまは、もう、マンションが建っていて、ないのですが、この昔の地図にある、この名前がない、おうちなのではないかと、おもったのですが。このお家の方のお名前をご存じでしょうか?』
『ああ。幽霊屋敷さんね。』
おばさまは、あっさりと言ったのです。
『幽霊屋敷さんなんて、もちろん、ウソ。ただの、空き家ですよ。あそこは、お察しのとおり、橘さんのお屋敷でした。ま、お屋敷というには、ちょっとちいさいけれど。こちらの家は、じつは、別荘だったみたいね。それが、いつの間にか、本宅になったわけ。』
『おわ。やはり、橘さんですか。葵さんて、ご存じですか。』
『まあ、まあ。どこから、葵さんが飛び出てきましたか。びっくりね。橘さんは、所謂、元、士族だったんだそうですが、あたくしのおばあさまがおっしゃっていたところによると、元々、信濃あたりの方だったらしいけれど、御維新後、しばらくして、東京で事業を始めて、まあ、いまで言えば、商社みたいな。けっこう、長くうまく行ったんだけどね、震災でやられちゃってね、結局、廃業してね、つまり、関東大震災ね。大正12年。ご存じ?』
行き掛かり上、ここは、ぼくが、答えるしかありません。
『知ってはいますが、もちろん、いませんでした。ぼくの父は、もし、まだ生きていれば、105歳あたりなので、子供時代でしたが。』
『まあ、まあ、お父様は、年上ですね。お母様は?』
『母は、大正の末の生まれでした。』
『あらまあ。それにしては、お若いわね。』
『まあ、遅い子供でしたから。』
『ふうん。そのあたり、興味津々ね。お近くに、住んでいらっしゃたのでしょう。あとで、聞かせてね。なにか、話が合うところがあるかも。あたくしも、大震災は知りません。で、橘さんは、その後は、没落しちゃったみたいなのね。東京の資産は売り払ったけど、それでも、手持ちの資産はまだいくらかは有ったみたいで、細々ながら、なにか、よくわからないけど、なんとかしながら、最低限、こちらのお屋敷とか、体裁は維持はしていたとか。その、葵さんという方は、太平洋戦争が始まるより前にいらっしゃいましたような。とても、美しい方だった。じつは、あたくし、子供のころ、会ったことがありますの。』
『なんと。』
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