第3話 『再会』 その3
初出勤は、来週の月曜日となりました。
ぼくは、それまでに、調べ事をしようと思ったのです。
葵さんの本名は、橘 葵、です。
ご自宅は、遥かに離れた、海の反対側の、千葉県にあったらしいです。
院長先生は、今回、そうした情報の開示をしてくれました。
病院側が調べた所では、その場所は、戦後の開発で様変わりしていて、マンションなどが建ち並ぶ場所になっておりました。
昔からの住民も、もはや見当たらず、その家族や親族も、みな、散逸していて、見つからなかったそうです。
そこは、東京湾を見下ろす小高い丘の上でした。
でも、それは、ぼくに衝撃を与えました。
なんと、そこは、ぼくが生まれた町の、直ぐ近くの町で、かつては、ぼくらの遊び場にもなっていた場所なのです。
いわゆる、関東ローム層、とか言われる、富士山などの火山灰が積み重なって出来ていました。
雨が降ると、丘の斜面がぬるぬるになり、手製の橇で滑り降りたりして、遊べるのです。
当時、丘の上には、幾らかの住宅が有ったような記憶があります。母と、ありさんにあげるお菓子を持って、散歩に上がった記憶もありまして、たしかに、自分の住むぺらぺらな壁でつながる長屋ではなく、独立した優雅な、大きなお家がいくつか建っていたような、かすかな記憶もあります。
ぼくが、中学生くらいまでは、まだ、その丘はありましたが、高校生時代くらいには、すっかりと削り取られて、でかい、マンションなどが建ち並びました。
葵さんのご自宅も、その頃までは、もしかしたら、あったのかもしれません。
因みに、その近くの森には、かつては、鵜の鳥が住んでいました。
朝、鳥たちは、大挙して固まって海に飛んでゆき、夕方になると、への字型の編隊となって森に帰ってくるのでした。
しかし、猛烈な開発の波には勝てず、高速道路が走り抜けるようにもなり、その鳥たちも、やがて、居なくなりました。
もっと、南の方に引っ越したらしい、という、話もありましたが、はっきりはしません。
森にあるお寺には、その由来書きと、鵜の鳥の像が、いまも、あります。
⌒(ё)⌒
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