六話
僕はすごく怖かった。身体は椅子に縛り付けられて、両手は動かせない。足だけは動かせたけど、ぶらぶらできるだけで何もできない。頭の上で光るランプが隙間風に吹かれてちょっとだけ揺れてる。そのせいで僕の影も床で揺れてた。それをどのくらい眺めてるんだろう――どうしてこんなことになったのか。おかしなことが始まったのはこんなことからだった。
おじさんは言った通り、僕の世話をしてくれた。食べ物を持って来てくれて、トイレにも連れて行ってくれて、お風呂にも入らせてくれた。それはとってもありがたかったけど、一日中物置小屋に隠れてるのは正直退屈で仕方がなかった。だって窓がないから外を眺めることもできないし、おもちゃだってないんだ。あるのは壊れた家具とかがらくただけ。遊ぶものなんてない。だから僕は外へ出てみようと扉を開けようとしたんだけど、なぜか開かなかった。少しだけ開いた隙間からのぞくと、取っ手に紐がぐるぐる巻きにされてるのが見えた。これのせいで開かないんだとわかった。どうしても外に出たかったから、僕は隙間から手を出して、巻かれた紐の結び目を解いた。すると扉はすぐに開いて、僕は外へ出ることができた。
小屋の周りには雑草しかなかったけど、開けた明るい場所に出られただけで何か嬉しかった。落ちてた石を投げてみたり、虫を探してみたり、家にいた時と同じように遊んでた。そうしたらおじさんが走ってやって来て、僕の腕をつかむなり、物置小屋に押し込めた。勝手に出るなとものすごい声で怒ってきた。小屋の周りには建物はないし、人も通らないんだから遊んでもいいんじゃないかって言っても、おじさんは絶対に駄目だって許してくれなかった。もしまた勝手に出たらお仕置きするって言って、プンプンしながら出て行った。僕が退屈でたまらないことをおじさんはわかってくれなかった。仕方ないから、しばらくじっと静かにしてたけど、やっぱり座ってるだけなのは辛い。おじさんに見つからないように遊べば大丈夫かなって思って、僕はまた扉を開けようとした。けど、今度はびくともしなかった。何度も扉を押すと、外側でガチャガチャ金属の音がした。鍵をかけられたんだって思った。紐だと僕が外しちゃうから……。
僕が外へ出られるのは、おじさんが来た時だけ。トイレとお風呂に連れて行ってもらう時だけで、食事は小屋の中。それ以外はがらくたが並ぶ場所で座って過ごすしかなかった。何度か外で遊びたいって頼んでも、おじさんは聞いてくれなかった。女に見つかったら大変だと、そればっかりだった。その女を殺してくれるって言ったおじさんだけど、それはどうなってるのか聞いてみたけど、心配するな、ちゃんと準備をしてるって言うだけで、殺してくれた様子はなかった。それを繰り返し聞かされた僕は、だんだんおじさんのことを信じていいのか、迷い始めてた。
女から隠れてるとは言うものの、毎日小屋の中で座ってなきゃいけないのは、僕にとってやっぱり辛かった。気持ちが何となくイライラし始めた僕は、側のがらくたや壁を蹴って気晴らしをしてた。でもその音をおじさんは聞き付けたみたいで、入って来るとまた僕を怒った。でも外で遊べないからしょうがないじゃないかって言ったら、反抗的だって怖い顔になって、紐で僕を椅子に縛り付けてきた。これで大人しくできるなって、おじさんは満足そうに出て行った――そんなことで、僕は身動きが取れない状態にされてしまった。
おじさんは確かに、僕をここに隠れさせてくれてるけど、トイレとお風呂以外は絶対に外へ出させてくれない。人なんか全然通らない場所なのに。僕をずっとここに閉じ込める気なのかな。それが、おじさんの助け方なのか……? 考えると怪しさがどんどん湧いてくる。女を殺してくれるっていう話も、最初にしてから何日経ってるのか。本当に殺そうとしてるのかさえわかんない。こんなことになるなら、武器はなくても女の側にいたほうがましだった。付いて行けば、殺す機会はいつでも作れたんだから。それに読み書きも習えたし、今よりは好きなことができて自由だった……。女も僕を助けるって言ってたけど、おじさんのやり方とは大違いだな。
小屋の壁の隙間から夕焼けの赤い光が差し込んでくる。そろそろおじさんが夕食を持って来る頃だ――おじさんは、本当に僕のことを助ける気があるのかな。確かに、小屋に閉じ込めておけば女には見つからないかもしれない。でもいつまで隠れてればいい? 死ぬまで? 僕には時間がないんだ。死ぬまでこんなところにいたくは――そう思った時、僕の頭にふと嫌なことが浮かんだ。
僕が死んだら、この身体は金に変わるらしい。それを目当てに女は僕を助けると言いながら連れ出した……だとしたら、おじさんはどうなんだ? 女と同じように助けると言って、僕を物置小屋に閉じ込めて、今は椅子にまで縛り付けてる。絶対に外へ出ないように……。女と、似てないか? いや、女よりも強引で徹底してるような。もしかしておじさんも、助けるとか言ってお金が目当てなんじゃ……? このまま僕を死ぬまで小屋に閉じ込め続けて、お金を手に入れようとしてるんじゃないのか?
そう思うと僕の中では納得することが多かった。人気のない空き地の物置小屋に隠れさせたこと、僕を外には出さず、鍵をかけて閉じ込めたこと、女を殺す気がなさそうなこと、でも世話だけはちゃんとしてくれること――おじさんは、僕が金に変わって死ぬのを待つつもりなんだ。その金を独り占めするために、だから人気のない場所に連れて来て、誰にも気付かれず、連れ去られないよう、それと僕に逃げられないように小屋に閉じ込めたってわけだ。
「……僕は、馬鹿だ……」
おじさんの本当の目的に気付くと、自分の馬鹿さにがっかりした。優しそうな顔に簡単に騙されるなんて。でも嘆いてる場合じゃない。こんなところで時間を無駄にするわけにはいかないんだ。逃げなきゃ……どうにかして早く……!
だけど、椅子に縛り付けられてちゃ逃げたくても逃げられない。紐は固く縛ってあるし、両手も動かせない。何度も解こうとしてみたけど、ただ疲れるだけだった。これはおじさんしか解けない……。そうすると逃げられる機会は、この紐が解かれた時だけってことになる。
おじさんが紐を解いてくれるのは、トイレとお風呂、それと食事の時だけだ。でもおじさんが僕から離れることはない。トイレとお風呂に行く時も、必ず僕の手をギュッとつかんでくる。そして終わるまで目を離さない。食事の時はさすがに手はつかんでこないけど、僕が食べるのをじっと見てくる。……うーん、逃げる隙がない。でも絶対に逃げなきゃ。どこかに必ず隙があるはずだ。よく思い出せ。おじさんの動きを――
「……あ、あの時なら……」
食事を運んで来た時の動き――おじさんは小屋に入ると、まず盆に載った料理を脇のタンスの上に置く。次に僕を縛る紐を解いて、それから料理を盆ごと僕に渡してくる。この、紐を解いてから料理を取るまでの、ほんの短い間だけど、おじさんは僕に一瞬だけ背を向けるんだ。本当に一瞬だけ……逃げるならこの時だ。背を向けた時に突き飛ばせば、おじさんは驚いてすぐに僕を捕まえられないだろう。その隙に走って外へ出れば、ここから逃げられるかも――これしかないと僕は決心して、もうすぐ来るはずのおじさんをドキドキしながら待った。そして、その数分後――
外に人の気配を感じて顔を上げると、ガチャガチャと鍵を開ける音がして、すぐに扉が開いた。
「晩飯の時間だ」
おじさんはいつものように盆に載った料理を持って入って来る。そしてそれをひとまず脇のタンスの上に置いた――大丈夫。同じ動きだ。
「今日もちゃんと大人しくしてたか?」
「う、うん……」
無視すると怒られそうだから、とりあえず返事はしとく。おじさんは僕の後ろへ回り込むと、固く縛った紐を解く。緩んだ紐が床にぱらぱらと落ちてく。それと同時に僕の身体の自由が戻った――よし、紐はなくなった。後は……。
おじさんは僕の横を通って、料理のほうへ向かった。目の前には隙しかない大きな背中がある――ここだ!
「今日はあったかいスープと――」
「やああ!」
おじさんが盆をつかんだ瞬間に僕は背中へ体当たりした。
「おわっ……」
僕に押されたおじさんの身体はタンスに派手に当たって料理の皿をひっくり返した。さぞ驚いた顔になってるだろうけど、そんなものを見てる暇はない。僕はおじさんがタンスにのしかかってるのを横目に、走って外へ逃げた。
「こっ、この、ガキが!」
後ろから今までにないほどの怒鳴り声が聞こえた。それに恐怖を感じながら僕はさらに速く駆けた。はっきり憶えてないけど、確かこの道を行けば建物がたくさんあるほうへ行けるはずだ。とりあえずそっちへ逃げて、隠れられる場所でも見つけないと。おじさんがいつまで追って来るかわかんないし。じゃないと安心して歩けない。
夢中で逃げて、僕はまた街中に戻ってきた。日が暮れかけた街はうっすら赤くて暗い。人の数も前見たほどたくさんはいなくて、皆自分の家に帰る途中なのかもしれない。建物を見ても、何かを売ってたりする店は少ない。商品を片付けて窓や扉を閉めてる。明日のためにもう休む準備をしてるようだ。僕もちょっと休みたいな。お腹も減ったし……でも、おじさんの料理は絶対に、二度と食べたりしない。閉じ込められながら生きるぐらいなら、僕は自分で食べ物を見つけてやる。
「食べ物の前に、まずは隠れ場所を探さないとな」
街中をうろつき続けたら、いつおじさんに見つかってもおかしくない。様子を見ながら、それから食べ物を探そう。それとついでに武器も手に入るといいんだけど――後ろからおじさんが追って来ないか、注意しながら歩いてた時だった。
「ジュリオ!」
ギクッとして僕は声のほうへ振り向いた。この名前で呼ぶやつは一人しか知らない――恐る恐る見ると、数人の人影の間を抜けて、女が走って来る姿があった。
「よかった! 無事だったのね」
笑顔で手を振ってこっちにやって来る――忘れてた。この女もいたんだった。
「ずっと街を捜し回ってて正解だった。もしかしたら街を出ちゃったんじゃないかって思ったから。……あの男に、何かされなかった?」
目の前まで来るなり、女は僕の心配をし始めた。……何でだ? 僕は誘拐されたって嘘をついたのに、怒ってないのか?
「……僕のこと、怒らないの?」
「え? ……ああ、嘘言って私を悪者にしたこと? それはまあ、少しは怒ってるけど、ジュリオが無事戻って来てくれたなら、もうどうでもいいわ」
女はにこりと笑った。僕に会えて、そんなに嬉しいのか? 殺してやるって言ってるのに……ああ、そうか。こいつもお金目当てだったんだっけ。それなら嬉しいはずだ。
「それで、あの男はどうしたの? 何で独りでいたの?」
「おじさんは……向こうに、いるよ」
「向こうって? どこ?」
「あっち……」
僕は後ろの道を指差した。これに女はつられて道の奥へ目をやった――助けるなんて嘘ついて……もう騙されないぞ。
「どこに……あっ、ジュリオ!」
僕は横の細い道へ駆け出した。突然のことに女の足は出遅れる。
「待ちなさい! 逃げないで!」
女が追って来る。僕は追い付かれないよう道を曲がったり、茂みを通り抜けたりして女を引き離した。助ける気もないのに、捕まってやるもんか。女もどうせおじさんみたいに変わるんだ。優しく心配するふりなんか僕にはもう通用しない。武器を手に入れたら、その時は大人しく捕まってやる。でもそれまでは絶対に捕まらないんだ!
木の陰に隠れて、僕は女が来ないか眺めた。空の夕焼けは黒く変わって、もう辺りは真っ暗になろうとしてる。歩く人もいなくなって、建物から漏れる明かりがどうにか道を照らしてる。目を凝らしても、耳を澄ましても、僕を捜す人影も気配もない――女は、僕を見失ってくれたみたいだ。よし、大丈夫そうだ。
道に出て、とりあえず僕は歩き出す。暗いし、ここがどこだかわかんないけど、安心して隠れられる場所を早く見つけないと――
「どこ行くんだ、ボク」
声と同時に僕の腕は後ろからつかまれて、その正体をわかりつつも、驚きに弾かれるように顔を振り向けた。そこには思った通り、怖い顔で見下ろしてくるおじさんがいた――い、いつの間に追い付かれて……!
「逃げて女に見つかったらどうする。手間かけさせるな。戻るぞ」
苛立った声で言うと、おじさんは僕の腕を強く引っ張って連れて行こうとする。……あんな小屋、戻るわけにいかない――僕は腕を引っ張り返して逆らった。
「……おい、さっさと歩け」
「嫌だ……戻らない……」
「何言ってる。助けてやるって――」
「嘘だ! おじさんも、お金が欲しいだけなんでしょ?」
「おいおい、それはあの女だ。おじさんはボクのことがただ心配なだけだ」
「じゃあ何で小屋にずっと閉じ込めるのさ。紐で縛って……」
「それは、女に見つからないように、隠れてないと――」
「違う。僕が逃げないようにでしょ? じゃないとお金が手に入らないから――」
そう言った途端、おじさんの目はつり上がって僕を見た。
「ごちゃごちゃうるせえ! 無駄口叩いてないで早く歩け!」
強引に腕を引っ張るおじさんに、僕は足を突っ張らせて抵抗した。
「やめろ、放せ……!」
「ほら、行くぞ! ……ったく、しょうがねえ」
嫌がる僕を、おじさんは抱き抱えようと手を伸ばしてきた。こっちに来るな――その手を先につかんだ僕は、毛むくじゃらのごつい腕に思いっきり噛み付いてやった。
「いてええっ! やめろクソガキが!」
直後、僕の頭はゴンッと殴られ、その衝撃とめまいで地面に倒れてしまった。
「子供だからって優しくすりゃ……付け上がりやがって」
僕が噛んだ腕をさすりながら、おじさんが怖い顔で近付いて来る――駄目だ、捕まっちゃう!
「……誰か、助けて! この人、悪い人なんだ!」
頭の痛みをこらえて僕は叫んだ。暗くなった辺りに人影は見えない。でもこうでもしないと、またあの小屋に閉じ込められちゃう……!
「黙れ! 騒ぐならもう一発食らわすぞ!」
おじさんが拳を握って振り上げた。その怖さに僕はすぐに目を瞑った。殴られる――
「うわっ――」
と思ったら、おじさんは変な声を上げて、バタバタと物音を出した。その異変に僕は恐る恐る目を開けてみる。
「お前……まだ捕まってなかったのか!」
「誘拐犯と誤解するほど、この街の役人は馬鹿じゃないってことよ」
目の前では、馬乗りになった女がおじさんを地面に押さえ込んでた。すると女の目がこっちを見る。
「……殴られたみたいね。大丈夫?」
「う、うん……」
思わず返事をしてしまった。まさかこの女に助けられるなんて……。
「今のうちに逃げなさい。こいつは私がどうにかするから」
僕を逃がしていいのか? と変な心配をしながら、そう言うんだったら早く逃げようと僕は立ち上がった。……う、殴られた頭がズキズキする。
「へっ、そんな細腕で、俺をどうにかできると思ってんのか!」
「暴れるんじゃないわよ! 子供に手を上げるなんて、最低なやつね」
「言うこと聞かないんじゃ、しつけるしかないだろ。金目当ての人間に言われたかねえよ」
「それはあなたでしょ。私はそんな目でジュリオを見てない」
「平然と嘘をつくとはな……邪魔なんだよ、どけ!」
暴れるおじさんと、それを押さえる女が言い合ってるけど、僕は構わずにその場を逃げ出した。もう痛いのも、捕まるのも、閉じ込められるのも嫌だ。
「――きゃあ!」
走り出した瞬間、後ろから女の悲鳴が聞こえて、僕は思わず立ち止まった。振り返って見てみれば、さっきまで押さえ込んでたはずの女が、逆に馬乗りになったおじさんに押さえ込まれてた。
「言っただろ。俺をどうにかできるのかって。やっぱり無理だったな」
「くっ……放して!」
「放すわけねえだろ。お前は邪魔者なんだ。少し眠ってろ」
おじさんの両手が女の首をつかんだ。……まさか、首を絞めるのか?
「う、うう……」
女が苦しそうな声を漏らす。僕はその光景をじっと見つめてた――何なんだろう、この気持ち。今のうちに逃げるべきなのに、足が動かない。だからって助ける気もないけど、このままじゃ女が死んじゃうとも思ってる。おじさんに殺されちゃうことが、僕は嫌だと感じてるのか……?
その時、女の手が腰から短剣を引き抜いて、おじさんに向かって切り付けた。でもすぐに気付いたおじさんは反射的にその手を叩き落とした。短剣は地面を滑って女の手が届かないところに落ちた。
「物騒な物は必要ないだろ。どうせまともに扱えないんだ」
おじさんは緩んだ両手に再び力を入れて、女の首を絞め始めた。さっきよりも苦しそうに女の顔が歪んでる。……苦しんで当然なんだ。母ちゃんと父ちゃんだって苦しんで死んだんだ。それを感じながら死ねばいい。そう思うのに、やっぱり気持ちがもやもやする。このまま逃げちゃっていいのか。女を死なせていいのか……僕の心は、駄目だって言ってる気がする。でも何で、何でこんなに……。
苦しそうな女の顔がこっちを向いた。離れた地面に落ちた短剣に手を伸ばすけど、どう見ても届かない。それでも必死に伸ばしながら、目だけは僕のほうを見てた。そして声の出ない口が何かを言った。
〝たすけて たすけて〟
そう動いたように見えた。……僕に、助けを求めてる? 母ちゃんと父ちゃんを殺した人殺しのくせに? 今さら何言ってんだ。身勝手すぎる――そう思ったのは一瞬だった。次には駆け出して、僕は落ちてる短剣を拾って二人のほうへ向かった。
「ん、逃げずにまだいたのか。そこで大人しく待って――」
「やああああ!」
おじさんの言葉が終わらないうちに僕はその顔目がけて短剣を振った。
「うっ、おあ……!」
おじさんは声を上げてのけぞった。短剣がどこに当たったのかわかんないけど、おじさんの顔からは血が流れ落ちてた。人を、切ってしまった――そう思うと急に怖く感じた。
「どい、てよ!」
息ができるようになった女が、のけぞるおじさんを下から押し退ける。顔を押さえたままのおじさんは何の抵抗もなく地面に倒れ込んだ。
「……ジュリオ、ありがとう。行こう!」
立ち上がった女は僕から短剣を取り、腰にしまうと、僕の手を引いて走り出した。
「ふざけ、やがって! 何も、見えねえ……どこだ……!」
おじさんはふらふらしながら立ち上がったけど、僕達のほうとは逆を向いてすぐに追いかけてくる様子はなかった。
「ジュリオ、ちゃんと前を向いて走って」
言われて僕はおじさんから、前を行く女の顔に目をやった。その横顔は真剣で必死だった。今は逃げることだけ考えなきゃ――女のその顔は、僕に素直にそう思わせた。
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