第9話 探索開始

「とんでもないことを言い残していったな」


リシアが最後に言い残した言葉。あれはおそらく、政治家なんかの国の運営に関わっている人達への言葉だろう。見る人が見れば、あのスライムはまさに宝の山だったわけだ。更には、現状で迷宮は八王子にしかない。


ということは、もしスライム……いや、それだけじゃない。他のモンスターから有用な素材が採れた場合は、日本は貿易において一気に優位となるわけだ。


コメント欄なんかでも、今のリシアの言葉がニュースに取り上げられたとか、国会が今後の迷宮の扱いについて検討しているとか、首相が緊急記者会見を開く予定だとか、様々な情報が飛び交っている。


「外は大騒ぎだな。俺も十層まで早く行かなきゃ圧を掛けられそうだ」


俺が十層を踏破すれば、この迷宮は他の人も入れるようになるとリシアは言っていた。なら、政府が急かそうとしてくるのも有り得るだろう。まあ、なんと言われようと俺は自分のペースで行かせてもらうが。



・作戦いのちだいじにで行こう

・ゆっくりでええんやで

・いや、世界に革命が起きるかもしれんのだぞ?さっさと十層へ行け

・早速で草



おいおい、早過ぎないか?まだこれから探索するぞーってところだぜ?どうせこういうやつは自分と金のこと以外はどうでもいいと思っている屑だ。話を聞く必要も無い。


「はいはい。それじゃあ早速、探索に出向きますかねぇ」


いつでも戦えるように剣を右手に持ち、俺は適当な方向に向かって歩き始めた。ここから、俺の壮大な冒険譚が始まるのだ。



・そっちは来た方や!

・逆逆ゥ!

・方向音痴なのか己は!

・戻ってる!

・ふざけてんのか!



…………



・無言で翻るなw

・無かったことにしようとしても無駄やぞ

・草


うるせぇ!俺は方向音痴なんだよ!こんな場所を地図もなしに一人で歩いたら迷うに決まっとるわ!


「よーし気を取り直して……お、あんなところにスライムが」


ぷよぷよと変形しながら移動しているのは見紛うことなき、先程俺と激戦を繰り広げたスライムくんだった。スライムくんは俺に横顔(そもそも顔なんて見当たらないが)を見せつけながら俺の前を通り過ぎ、通路の奥へと進んで行った。


「そういえば、この階にはスライムしか居ないんだったか」


リシアがそんなことを言っていた気がする。つまり、二層以降は別のモンスターがいるということか。


ここで肩慣らしをしなさいという黒幕の意図を感じるな。もはや弱すぎて倒すことに苦しみを感じてしまうモンスターしかいない層なんて、ある意味苦行だぞ。

ああ、早く二層に行きたい。


そんなこんなで探索時々スライム狩りを繰り返すこといくばくか。気づけばお腹がなり、体が空腹を訴えていた。



・もう七時か

・あれから五時間も経ったのか

・ご飯作らなきゃ

・コンビニ行かなきゃ

・ご飯まだかなー



「もうそんな時間なのか。俺もそろそろ飯にするか」


たしかショップにいろいろあったはず。と、ステータスを開いたところで俺は絶望した。


「Gが48しかない……」



・草

・絶対足らんくて草

・あーあ、スライム君を倒さないから

・やらなきゃ死ぬぞ

・死因、金欠



死因金欠とか冗談じゃんねえ!一生ネットミームとして晒されるぞ!一応ショップを除いたが、一番安いのがカレー一人前で100Gだった。他だと、鍋一人前が1000G。カツサンドが200G。アンドーナツが150Gなどだ。ともかく、カレーより安価なものはない。そもそも何でカレーが一番安いんだよ。


「くそ!こんなんじゃ、たけやりも買えねえ!」


スライム狩りじゃああああああああ!!


「おらあ!」


べちょ!

+2exp+2G


「「「おらあ!」」」


べべべちょちょちょ!!!

+6exp+6G


カット!



——————————————


「はあ、はあ……」


_________________________________________


中村唯斗 ▼ショップを開く

EXP 0/200

所持金  100G

スキル

魔法

危機感知

恐怖緩和


視聴人数 ▼コメントを開く

285190人

_________________________________________



やっとだ……やっと100Gに到達した……

長かった……かれこれ3時間は歩き回ったか?おかげで二層への階段も見つかった訳だが。


「飯だあああ!!」


ステータス画面を開いてショップからカレーをポチる。さて、腹ごしらえといこう!カレーは好物だ!


「……ああ、そういう事ね」


俺の目の前に現れたものを見て、なぜカレーの値段が安かったのかを理解した。



・だから安かったのか

・ご丁寧に道具も揃ってる

・普通に考えて割安じゃね?

・カレーなら作るの簡単だしな



目の前に現れたのは、カレーではなく、カレーの材料たち。人参に玉ねぎに牛肉、水に米にルーに鍋が二つ。あと木材。


「火は魔法で付けろと」



・大丈夫?料理できる?

・いや、さすがに出来ないわけ……

・り、料理なんて誰でもできるよなぁ!?

・ギクッ

・料理出来ない奴2人おるなあ



「ああ、いるよな。アニメとかでも。ダークマター作るやつ」


俺はまず玉ねぎを切り、既に切られていた牛肉と共に鍋で炒める。



・あーいるよな

・完璧美少女とかによくある設定

・ほんとに謎だよなあれ

・レシピ通りに作ればそれなりのはできるゾ

・ところで唯斗くん好き嫌いはダメよ?

・人参退けてて草



コメントで何か言ってくるやつがいるが、構わずに鍋に水を入れる。ルーを入れます。ゆっくり掻き混ぜます。蓋をします……はい


「知ってた」



・えええ?

・なんで?

・セミのぬけがら入れた?

・草



蓋を開けると、俺の目の前には変色して禍々しいオーラを放つカレーのルーがあった。俺は絶望的なまでに料理ができない。ご飯はちゃんと炊けるし、包丁で材料を切ることだって問題ない。だと言うのに、鍋やフライパンを使うと何故か暗黒物質になる。それが俺クオリティだ。


「ご飯炊きまーす」


炊きました。


「人参切りまーす」


切りました。ご飯に乗っけます。


「いただきます」


今日の夕飯、人参ご飯

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