第8話 リシアの質問コーナー
「質問コーナー?」
こちらとしては、黒幕には聞きたいことが山ほどあるから願ってもいないことだ。しかし、そちら側の考えが分からない。わざわざ手の内を晒すようなことを答える訳では無いのだろう。
「ええ。視聴者の皆さんもこの迷宮や私たちについて知りたいでしょう?ですから、私が答えます!コメントにも下さいねー」
・リシアたんのスリーサイズ!
・メイドールって言ってたけど人形なん?
・彼氏はいますか!?
・どうやって迷宮を創った?
・モンスターの素材は外に持ち出せる?
途端に、コメントは凄まじく加速した。おーおー、目に追えないぞ。そういえば、リシアにはコメントが見えているのだろうか?
コメント欄を止め、適当に少し流し読みしていく。俺が気になっていることもいくつか書いてあるな。この迷宮が全何層から成っているのかとかは俺も気になるというか知りたいことだ。
「はいはい、ひとつずつ答えていきますよー。中村様からはなにか無いですか?」
「この迷宮はなんなんだ?あと、お前らは何者なんだ?」
この2つが、俺が今最も聞きたいことだ。少なくとも、この世界の人間とは思えない。宇宙人と言われた方が納得できるだろう。
「この迷宮はですね、私たちが居た世界で創ったものを少し弄って創ったものですね。向こうでは最上階までたどり着けば神になれると言われていたんですよ?そんなことは無いんですけどね」
「つまり、あんたらは異世界の住人って訳か」
「うーん、まあそんなところです。あ、そうそう。言い忘れていました。この迷宮の名称なのですが『
煮え切らない答えとともに、どうでもいい情報を追加するリシア。迷宮の名前は確かに大事かもしれないが、今ではないだろう。
リシアは異世界人。それが分かっただけ儲けものか。だが、たとえ異世界の人だったとしてもこんな馬鹿げたことが可能なのか?明らかに人としてできることを超えている気がするが。
「私たちは主様も含めて全員人では無いですね。その正体は……まあ、ご想像におまかせします」
「なら次の質問だ。この迷宮は全部で何層まであるんだ。そして、俺はいつここから出られるんだ」
迷宮から出る。それが俺の最終的な目標だ。こんな場所で一生を過ごす訳にはいかない。まだゲームだってやり足りないのだから。
「何層までかは言えません。それを言ったらつまらないと主様が仰っていたので。いつ出れるのかについてなのですが、ある御方が待てなそうなんですよね」
「ある御方?」
「ええ。主様の一人です。執事の主ですね。その御方はいつも娯楽を求めているのですよ。待つのも苦手なので、あなたが十層を踏破したら出してあげましょう」
「本当か!?」
「ええ、本当です。しかし、外に出すだけです。探索は行ってもらいますよ。探索時は配信もされます」
それでも構わない。いつもの日常に戻り、そこに迷宮探索が加わるだけならな。だが、そもそもなぜ配信をする必要があるんだ?
カメラも見えないからこちらとしては配信されている気はしないのだが。
「中村様が十層を踏破したと同時に、この塔も皆様が入れるようにしますかね。あとは管理しやすいように受付も創りましょう」
「そんなことが可能なのか?」
建物を瞬時に変形させる。リシアが言っているのは大体そんな感じのことだ。まさに神の所業とも言えることが出来るのか?
もしかしたら、俺を拉致した黒幕はとんでもない奴なのかもしれない。いや、異世界人と言うだけでとんでもないやつなんだが、それ以上に得体の知れないやつの可能性がある。
「ええ、可能ですよ。もっとも、それができるのは主様の内の一人ですがね」
流石に全員が扱えるという事では無いようだ。それぞれ固有の能力を持っていると考えるのが自然か。
「なら、次の質問だ。あんたらの目的はなんだ?なぜ、俺だけを拉致する必要があった」
「ふむ、まず目的に関しては言えません。あなただけを拉致した理由ですが、注目を集中させるためです」
「注目を集中させる?」
「ええ。長くなりますが説明しましょう!まず、ここに誰でも入れるようにしてしまえば、色んな思惑が飛び交い、迷宮探索所ではなくなってしまいます。無能な政治家達に出入りを制限されてしまう可能性もありますしね。そればかりはこちらもどうしようもありません。ですので、無理やり誰かを中に入れるという方法を取らせて頂きました!さらに配信することで、このように注目はうなぎ登り!視聴者も沢山ですね!こうすることで、私のチュートリアルが一回で済みます!わざわざ誰かが来る度にルールを説明することはありませんね!……スキルの説明はする必要がありそうですが。まあ、それぐらいは後で動画でも撮りましょうか。さらに、一人に絞ることで、私たちもやりやすいのです!人の管理って大変なんですよ?」
「そ、そうか」
まくし立てるように喋りだすリシアに気圧されてしまう。だが、知りたいことは知れた。要は、利用するために俺はここに拉致されたのだろう。癪だが、こいつらに逆らうことは出来ない。現状、リシアにすら勝てそうな気配がないからだ。
さっき、俺の暴発した魔法を難なく弾いたことなんかからそれは伺える。とりあえず、俺は黒幕の思惑通りに動くしかなさそうなのだ。
「さて、ここらで質問コーナーは終わりにしましょうか。では最後にこちら!」
そう言って、足下の何かをリシアは抱え上げた。それは、スライムだった。一体何をする気なんだ?
「こちらのスライム。ここの一層に生息しているのですが……なんと!この子達の体はこの世界には無いものだけで構成されています!どうです?欲しくないですか?特にこの毒。これがあれば、難病を治せるかもしれませんね?」
・あ
・政治家の欲を煽ってやがる……
・策士だ……策士がいるぞ!
・これは国も動かざるを得なくなってくるぞ
「では、役目も終わったので私はこれで」
「おい、ちょっと!」
とんでもない事を言い残して、リシアは消えてしまった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます