第6話 リシアのチュートリアル2
リシアのお手本を見た後、俺も試してみることになった。正直、まだ魔力を感じることすら出来ないから、成功するとは思ってないんだけどな。
「さあ、やってみましょう!」
「あ、ああ」
俺は壁に向けて手のひらを出す。そして、先程の魔法を思い出し、自分が撃つ姿をイメージする。よし、後は言葉にしてそれをトリガーにする。
「『炎弾よ出よ!』」
すると、手のひらに何かが集まっていくのを感じた。それはやがて形を成し、炎の玉となり、壁に向かって飛んでいった。炎の玉はリシアがやった時と同じように壁に当たって霧散した。
「う、撃てた……」
その事実を呑み込むまでに数十秒かかった。本当にまさか撃てるとは思っていなかったのだから、この反応も仕方のないことだと思う。
「わーお。まさか撃てるなんて思いませんでしたよ。意外と素質があるのかもですね」
「魔法に限度は無いのか?」
それは二つの意味を込めて言った言葉だった。一つは回数制限。一日に撃てる回数が決まっていたとしたら、切り札として慎重に扱わなきゃならない。さらに言えば、他の遠距離攻撃の手段を用意する必要がある。
もう一つはイメージの再現の限度。例えばの話しだが、対象を体内から破裂させる。そんな反則じみた魔法が撃てるのなら、間違いなくこのスキルはチートだ。しかし、さすがに限度があるだろう。それが、イメージの再現の限度だ。どんな事でもできる訳ではなく、例えば生命創造や蘇生なんかの命に直接関わるものはできないとふんでいる。
しかし、リシアの答えは俺の想像とは違った。
「限度?魔法に限界はありませんよ。なんでも再現することが可能です。魔力さえ足りていれば、生命の創造すらできますよ。まぁ、生命を創造する為には、材料が必要になりますが」
「材料?」
「おっと、さすがにそれについては言えませんよ」
さすがにそんな重要な情報教えてくれはしないか。まあいい。生命の創造に興味なんてない。魔法がどこまでできるのか知りたかっただけだ。魔力さえあれば、なんでも再現可能か。問題は、イメージを再現するのにどれほどの魔力を使うのか分からないことだな。
例えば、魔力で剣を作り、任意のタイミングでそれを飛ばせるような魔法。こんなことが出来れば、常に相手を牽制できる。
そんな想像をしたときだった。
体の中から何かが失われる感覚がした。それは、ついさっきも感じたものだ。
「おっと」
何かが超高速でリシアへと飛んでいき、リシアがそれを弾いた。
ガギィン!と金属どうしがぶつかり合うような音がした。
弾かれた何かは洞窟の壁に突き刺さっていた。それは、剣の形をした光る何かだ。
まさか、今ので魔法が発動してしまったのか?
・リシアちゃんの動きも、剣が飛んでいくのも見えんかったが
・おまえぇ!リシアたんに何しとんじゃあ!
「いや、待ってくれ。違うんだ。意図して攻撃した訳では無いんだよ」
この流れは少しまずい。視聴者の皆は黒幕の一味とはいえ、可憐な姿をしたリシアを気に入っている。そんな彼女を無言で攻撃したとなれば、俺への心象も悪くなってしまう。それだけは避けたい。なんとか誤解をとかなくては。
「ふーむ。中村様は魔法の制御がまだできてないみたいですねー。ただ、魔力量は大したものですね。制御は、魔法を使っていればそのうち出来るようになるでしょう。それまでは無闇にイメージしたりしないようにですよー」
「ああ。すまない。悪気があったわけじゃないんだ。ただ、想像したら発動しちゃって」
「分かってますよー。でも、私が敵ってこと忘れてません?」
そうなんだよな。いくら親切にしてくれたと言っても、彼女は黒幕に従う者だ。要は敵なのだ。なんだけども、彼女の接しやすさとかから、どうも敵だとは割り切れないんだよな。
「ふむ。少し馴れ馴れしくしすぎましたかね?でも、これが私の素なのでどうしようもないですね!」
そう言ってリシアは笑った。
これでスキルのチュートリアルは終わりだ。彼女ともお別れだろう。しかしなぜ、黒幕たちはチュートリアルとか言って俺に親切にするのだろうか?いや、そもそもそいつらの目的すら分かっていない。この塔らしいものを、八王子に一瞬で出現させ、全く関係ない所にいた俺をワープさせて拉致した。しかも、拉致するやつは抽選で選んだとかいう。全く訳の分からない連中だ。
「なぁ、あんた達は何がしたいんだ?」
「質問は後で受け付けますよ。まだ私のチュートリアルは終わっていません」
「え?だってスキルのチュートリアルはもう終わっただろう?」
「そうですね。ですが、あなたがここを探索するにあたって、知っておいて貰いたいことがまだあるんですよ」
何故そこまで親切にする?彼らからすれば俺はただの標的だろ?それとも、なにかの実験のために拉致したとでも言うのか?実験の検証結果を出したいから、死んでもらっては困るってか?
そんな質問をしても、今は流されるだけだろう。後で受け入れると言っていたな。なら、その時にすればいいか。
俺は、リシアの話をよく聞くことにした。どっちにしろ、生き残るためにアドバイスしてくれるのなら、それはありがたいことだ。
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