第5話 リシアのチュートリアル1

「ここが、第一階層か?見た目は零階層と変わんないな」


長い階段を登った先、そこには先程と変わらない洞窟のような景色が広がっていた。注意して辺りを見回すが、モンスターは居ないようだった。



・モンスターは居ないな。ヨシ!

・ここでもチュートリアルやるって言ってなかった?

・スキルのチュートリアルやる言うてたな



「ああ、だからきっとさっきの執事がここにいると思うんだが……」

「あ!やっと来たんだぁ!」

「っ!?」


コメント欄に目を落としながら話していると、突如前方から少女の声が聞こえた。そこには、いつの間に現れたのか、これまたファンタジーな世界から飛び出してきたかのようなメイド服を着たピンク髪の少女がいた。


「誰だ、あんた!」

「初めまして!私『愛人形メイドール』ことリシアと言います!以後お見知りおきを」


リシア、そう名乗ったメイド姿の少女は恭しく俺にお辞儀をする。



・メイドきちゃあぁぁぁぁ!

・メイドちゃんうおおおおぉ!

・フレンチメイドだあああ!

・短いスカートがはしたないぞ!

・足がエッチだああ!



視聴者は変態しか居ないのか?気持ちは分かるが、それを前面に出すのはどうかと思うのだ。いやしかし、俺も初めてメイドを、しかもめちゃくちゃ美少女のメイドを見れて内心ではときめいている。けれど、この子も黒幕に従う者の1人なのだろう。


「さて、中村様。まずはスキルのチュートリアルと参りましょう!えーっと、『魔法』と『危機感知』と『恐怖緩和』ですね」


少女は何やら考える素振りを見せながら話を進めている。やはりこの少女が、今回のチュートリアルをたんとうするのだろう。


「じゃあ、『恐怖緩和』からいきましょうか。これはパッシブスキルですね。常に通常より恐怖を感じにくくなっています。ただ、勇敢になるのではなく、恐怖に対して鈍くなるだけですので勘違いしないで下さいねー」


『恐怖緩和』はその名前の通りの効果を持っているのか。ビビりな俺はやっぱり取っておいて正解だったな。


「次に『危機感知』ですねー。これは自分に対する殺意、敵意、害意なんかを察知することができます。こんな風に」

「っ!?」


そう言って彼女が俺を見た途端、言葉にできない感覚に襲われた。確かに、何かを感じたのだ。危険を感じた。彼女が俺を殺そうとしたように感じたのだ。


なるほど、これはやっぱり有用どころか必須級のスキルだな。これがあれば、モンスターが潜んでいても対応出来そうだ。


「はい、じゃあ最後に『魔法』ですね。ちなみに、こうやればこの魔法が出るとかはありません。重要なのは明確なイメージとそれを再現するに見合った魔力量です」


つまりは、決まった魔法は無いということか?初心者はまずこの魔法を覚えろ!とか、この魔法が使えたら一流とか。そういう指標も無く、人それぞれ個性が出るってことなんだな。


「なぁ、魔力って俺にもあるのか?」


俺はれっきとした地球人だ。当然、魔力とかいうものを感じたことは無い。そんな俺に魔法が打てるのだろうか?


「スキルを取得した時点であなたの体はそれに適応されています。まあ、要は改造されてるんですね。なので魔力もあるはずですよ。量には個人差がありますが」


魔力はあるのか。でも、それを感じとれないし、上手く扱えるかは分からない。魔力の扱い方というものを教えてもらえないだろうか。聞いてみよう。


「なぁ、魔力ってどうやって使うんだ?」

「あー、難しい質問ですねぇ。私たちって生まれつき魔力を持っている訳ですよ。つまりは息をするように扱えるんです。だからそれを説明するのは無理ですね〜」

「そうか……」


なんとかして、自分で覚えるしかないのか……はぁ、こんなことなら投擲術にした方がマシだったかもしれないな。


「まあ、ノーヒントっていうのもアレですね。分かりました!私がお手本を見せましょう!」

「おお!お願いします!」


・美少女の魔法きちゃあああ!

・どんな魔法使うんやろー

・ファイアーボールとかじゃね?知らんけど

・あんまり派手なのは使ってくれなそう



そんな俺を見兼ねたのか、リシアは願ってもない提案をしてくれた。ありがたい。

コメント欄の反応は上々。俺も実は期待していたりする。何せ魔法だ。男のロマンだ。厨二病を患った人間なら誰しもが魔法の詠唱をやったことがあるだろう。みんな、ごめんな。俺まだ30じゃないけど魔法使いになるよ。


「じゃあ、いきますよー?まずはしっかりイメージしましょう。そして手を使うのも良いですね。そこから魔法が飛び出してくるイメージを。口に出すと更にイメージが上手くいきやすいですよ」


そうアドバイスをくれながら、リシアは壁に右の手のひらを向ける。


「こんな感じですかね?『炎弾よ出よ!』」


そう唱えると、手のひらからサッカーボール程のサイズの火の玉が壁に向かって飛んで行った。火の玉は壁に当たると貫通したり爆発するなんてことも無く霧散した。


「おお!」



・ファイアーボールだあああ!

・男のロマンだあああ!

・魔法SUGEEEEEEE!!

・うおおおおおおお!!

・いーなぁ俺も使ってみてぇ

・童貞のまま30歳になればできるで

・そんなん楽勝やん

・悲しいこと言うなよ……



この時ばかりは、俺もコメント欄も一緒になって興奮していた。なんせ、本当にファンタジーがここにあるのだ。CGでも合成でもない。本物の魔法が。





_________


お読みいただきありがとうございます。どうも、作者です

フレンチメイドは邪道だと思います

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る