第4話

 上司に休暇を申し出ると快く了承してくれた。ジャケットも準備したし、パーティーに馴染む程よくラフな着こなしもネットで調べた。人生で初めて訪れたアクセサリーショップでは、店員に勧められるままに、ファッションリングなるものも購入した。


 愛媛まではあっという間だった。電車からバスに乗り換え、幾つもの橋を越える。4時間半の旅路も、趣味である写真撮影のおかげで少しも苦にならなかった。


 予約したホテルに荷物を預け、会場となるレストランへと向かう。見覚えのある道や建物に少しの安心感を感じながら、友人達との再会に思いを馳せる。

 ビルのテナント看板を確認し、エレベーターに乗り込む。先ほどまでの安心感は影を潜め、当時との温度差への不安が頭をよぎる。


「あれ?もしかして、太一たいち?」


 エレベーターの扉が開いてすぐの所に設けられた、簡易的な受付。そこには、当時と変わらない温かさを向ける友人たちの姿があった。


 パーティーは、新郎新婦の挨拶やビンゴゲーム、海外挙式のムービー上映などでとても盛り上がった。友人達との馬鹿騒ぎは、8年と言う時間を全く感じさせないものでもあった。

 何より、幸せそうに笑う雅治まさはるを見て、結婚ってこんなに幸せなことなのかと感心してしまった自分がいた。


「太一は、今彼女とかおるん?」


 自然な流れで振られた話題に、思わず僕は固まった。これまで付き合っていると言える関係になったのは、大学時代に1人だけ。その子とも3ヶ月ほどで終わりを迎えた。もちろん、今付き合っている人なんていない。


「まぁ太一モテそうやし、彼女くらいおるんやろ」


 僕の返事を待たず、友人が話を進める。否定すると面倒なことになりそうで、「まあね」とだけ返事をした。そのぎこちなさが功を奏したのか、ヒューという定番の煽りの後、話題は次のものへと流れて行った。


 楽しい時間はあっという間に過ぎ、一次会はお開きとなる。友人達は当然とばかりに二次会の店を予約し、肩を組んで歩き出す。

 トイレを理由にその流れを抜け出し、終始視界の端に捉えていたはずの彼女を探す。


「太一、二次会行けるん?」


 本日の主役である雅治が、トイレ前にいた僕に声を掛けてきた。


「みんな変わってなかったやろ

 太一が変に意識しとっただけや」


 笑顔で話す雅治に、僕も笑顔で頷く。

 その時、丁度トイレから誰かが出てくるのが見えた。

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