第3話

『久しぶり

 雅治まさはる君のパーティー、来るん?』


 突然のことだった。

 仕事帰りに立ち寄ったコンビニで、手に持った缶ビールを思わず落としてしまった。店員からの白い目を避けるように会計を済ませ、足早に店を後にする。

 おぼつかない足取りでアパートの階段を登り、震える手で玄関を開ける。倒れ込むようにソファーに腰掛け、改めてスマホを確認する。

 そこには確かに、桂木和水かつらぎなごみからのメールが届いていた。


『久しぶり

 仕事が調整出来たら行こうと思う

 和水は』


 そこまで打ったところで、手が止まる。

 自然と打ち込んだはずの“和水”と言う文字から、とてつもなく不自然な印象を受ける。8年と言う時間は、僕が彼女の呼び方を迷わせるのに十分過ぎた。


『久しぶり

 仕事が調整出来たら行こうと思う

 みんな来るみたいやね』


 送信ボタンを押す指が震える。

 大丈夫、きっと帰ってくる。大きく息を吐き、指先に力を込めた。


『そっか

 仕事調整つくといいね

 みんなも楽しみにしとるよ』


 僕の覚悟なんて知らないとばかりに、彼女からの返信がさらりと表示される。

 みんなも?君はどう思っているの?

 そんなことを聞けるはずもなく、当たり障りのない返事を返す。


『楽しそうやね

 行けるよう努力します』


 可愛いクマのスタンプが返ってくるのを確認し、スマホをテーブルに置く。代わりに、隅に陣取った水色の招待状を手に取った。何度も読んだはずの案内に目を通し、ペンを握る。迷いを振り払うように、出席という文字に勢いよく丸をつけた。


 名前、住所、祝いの言葉と一通り書き終え、ふと冷静になる。和水は今になってなぜ、連絡をよこしたのだろう。いや、そもそも彼女は来るのだろうか?

 次々と浮かんでくるモヤモヤを、もう書いてしまったからと言う理由で強引に押しやる。


 この時はまだ、彼女が僕に連絡をよこした本当の理由や2人の結末なんて、全く想像できていなかった。

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