第5話
先ほどと同じ部屋に戻ってきて、俺達はパソコンを組み立てるために買った物を並べ始めた。
「ここからパソコンを組み立てるのか」
「私はこれを何回もやったから褒めて欲しい」
「それは本当に偉いと思う」
「何ならこの組み立ては配信でもするかい?」
「僕は顔出ししてないから難しいよ」
「俺は別に良いけど」
「なら配信の間だけ隣の部屋で待ってて貰えるかい?」
「分かったよ」
渚は隣の部屋に行って俺達は配信の準備を始めた。
この会社そこら辺に配信機材が落ちてるから楽なんだよな。
無ければスマホでも良いし。
「誰のチャンネルでやるかい?」
「めんどくさいからここの公式で良いんじゃないか?」
「会社の公式かい?」
「そうだね。会社の公式が一番楽」
俺のスマホには会社の公式のYouTubeのアカウントにログイン出来るようになっている。
確か雅美と赤羽のスマホにも入ってたはず。
何なら俺は自分のチャンネルのアカウントにログイン状態じゃないので、パスワードを打ち込まないと行けない。
「とりあえずサムネ用の写真はパーツを取れば良いか」
「私が後で編集しようかい?」
「多分俺なら何ヶ月も放置しそうだからお願い」
「分かった」
俺は三脚にスマホをセットして配信開始のボタンを押す。
これで映ったかな?てかもう一台スマホあるからそっちから映ってるか確認すれば良いのか。
「よし映ってみたいだな」
「私のスマホでも見れるよ」
「何か思ったより人集まってるけど、みんな暇なのか?」
「こんな時間に配信してる私達も暇なことになるよ」
「まぁとりあえず挨拶だけするか」
「たまに出る、社員の人です」
「配信がめんどい系Vtuberのマサさんです」
「もうVtuberじゃ無いんじゃないかい?」
「完全に顔出し配信の方が、Vtuberの時の配信数を超えたよ」
「マサさん実はここってVtuber事務所なんだよね」
「こんな配信してたら、赤羽が来そうだけど、とりあえずパソコン組み立てていこう」
「チャットに『社員の人とはコラボできるんすね』と来てます」
「社員の人としかコラボしてないの事実で泣けそう」
コラボ相手が居ないよりはコラボするのがめんどくさすぎて、何もやってないけど流石に事務所のVtuberともコラボしたことがないのは印象が良く無いのかも。
「このマザーボードM.2SSD付けるの楽で良いな」
「やっぱりそう思うかい?」
「てかSATAみたいな事しなくて良いから楽」
「マサさんのも今度組み立てるかい?」
「組み立てても良いけど、今ので満足してるんだよな」
そんな事を言いながら俺はマザーボードに各種パーツを取り付けていく。
正直に言ってCPUを乗せるよりもメモリの方が壊れるんじゃないかと思って毎回怖い。
「マサさん、渚さんにスパナ渡してないのかい?」
「この公式は誰にもスパナを渡してないし、収益化もしてないから俺たちはただ働きだぞ」
「私は会社から給料を貰ってるから大丈夫」
「なら俺だけタダ働きか…」
「それで何だけど、渚さんに渡してないから一般メンバーにVtuberが何人もいることになってるよ」
「……なら今スパナ与えるか」
自分のチャンネルでさえ、ここの公式のスパナを持ってないのに、渚に与えるのか。
まぁ良い子そうだし良いけどさ。めんどくさくて全く誰にも与えてなかったけど、とりあえず所属のVtuber全員に渡した方がいいのかな?
やっぱ日本人って平等って好きらしいし、社会主義かな?
「これで渚だけはスパナ持ってる状態だな」
「私ってこんなパソコン組立てるために会社入ったのかな…」
「給料貰えてるなら良いんじゃないか」
「これを仕事にはしたくないよ」
「ワクワクさん今日は何を作るの?」
「今日はね、贋札を作るよ」
「贋札?」
「まず、この紙を用意するよ」
「ワクワクさん、その神は何?」
「全能神だよ」
「俺たち疲れてないか?」
「私はもう何言ってるか分からないよ」
こんな会話を続けていると、もうほぼ全て終わっている。
何気に結構時間経ってるからな。出来なきゃ困る。
後はグラボとキャプチャーボードを取り付ければ終わりかな。
「この配信全くパーツの紹介してないな」
「赤羽さんから、今から行っても良い?ってLINEが来ましたよ」
「別に良いけど、もうすぐ配信終わりそうなんだけど」
「それはなら断っておくかい?」
「明日の事もあるし来てくれた方が良いかな」
パソコンはグラボもキャプチャーボードも終わったのでもう何もやることがなくなった。
Windowsを入れても良いけど11からは、Microsoftのアカウントがないといけないので渚本人にやってもらった方が良いかな。
「組み終わったけど、何時間かかった?」
「二人でやって50分だよ」
「配信にしては短すぎるか」
「公式のアカウントだし良いんじゃないかい?」
「それもそうか」
やめようとした時にドアが開き、赤羽が入ってきた。
何かスーツケースも持ってきてるけど、会社に泊まってそのまま京都に行くのかな?
「会社に泊まるのか?」
そう言うと赤羽は首を振る。
何か嫌な予感がしてきた…
「俺の家に泊まる気か?」
「え?マサさんの家に赤羽さんが泊まるのかい?」
「頷いてるって事は泊まろうとしてるんだろうな」
「色々問題があると思うよ」
「これでダメって言っても来るんでしょ?」
また頷いてる。この人本当に凄いな。
ここでダメって言っても本当に赤羽は家に来るし、何ならこの状況も配信してるし、色々疲れてきた。
「とりあえず配信終わらそう」
「そうした方が良いと思うよ」
俺は配信をとりあえず切った。
そして渚が入ってきた。
本当に50分?1時間程度隣の部屋に居たんだろうか。
確か隣も会議室だったような…
部屋余ったら会議室にしてない?
終わってるわな。この会社
「僕、配信見てたけど赤羽さん…凄いね」
「それも何回も泊まりに来てるからもう炎上も何もしないって分かってるのが怖い」
「…泊めて」
「明日も一緒に行動するからまぁいいか」
「マサさん、赤羽さんに対してだけ甘くないかい?」
「甘いと言うか、この人何回言っても言うこと聞かないからな、諦めてんだ」
「僕もめんどくさい性格してると思うけど、それ以上だね」
もはやそれはほぼ悪口なのでは?
渚と今日初めて会ったし、動画も見たことないから、性格が本当に悪いのかは知らないけど。
「てかさ、明日の予定何も聞かされてないんだけど」
「…社員旅行の下見」
「何で俺と赤羽なんだろうか」
「去年は私が一人で行ったよ」
「去年は雅美で今年は俺と赤羽。人選ミスってないかな?」
「僕は社員旅行とか行った事ないよ」
「この会社は部署ごとで行くから所属Vtuberは呼ばれない事多いよな」
「何なら旅行会社通さずにやるから下見行かないといけないよね」
旅行会社に任せておけば確かに下見に行かなくても良いのに何で完全に自分たちで電話して予約しなきゃいけないんだろうか
「マサさんは社員旅行に行ってるよね」
「どっかしらの部署に呼ばれてるから行ってるよ」
「僕も呼ばれたら行きたいな」
「てか毎回思ってたけど、何で俺も呼ばれてんだろ」
何故か部署から呼ばれて一緒に社員旅行に行ったし、何なら一回だけ登山の配信した事もあった。
「てかさ、赤羽はまた仕事終わったのか?」
「……」頷いている
「下見の人は早上がり出来たはずだよ」
「僕達には早上がりとか関係ないけどね」
「そりゃ俺と渚は会社員ではないからな」
「このパソコン、ヤマトの人、明日来るから明日発送で良いかい?」
「うん、僕はそれで良いよ」
「俺はやること終わったし、赤羽も一緒に帰るか?」
「……」
「食べて帰るのは良いけど中華以外で」
「何でこの人達って会話成り立ってるのかい?」
「違う事があったら首振るから、それで何となく分かると思う」
「それが出来ないよ」
言うて、何年か一緒にいれば分かると思うけど、最初は俺も赤羽が何を思っているか全く分からなかったし、今よりも最初に会った時の方が喋ってた気がする。
今なんて全く喋らなくなった。
「それじゃあ、何か買って帰るけどそれで良い?」
「……」頷く
「マサさんって一人暮らしかい?」
「こっちに出てきてから一人暮らしだな」
「赤羽さんも一人暮らしかい?」
「…一人暮らしだよ」
「赤羽の部屋ってあんまり荷物ないよな」
「赤羽さんの家に行ったんですか?」
「一回だけ行った事あるよ」
打ち合わせがあった時に、何故か赤羽の家に行った。
赤羽の部屋にあるのは生活に最低限の物しか無くて、ちゃんと生活出来てるのか心配になった気がする。
でも人の事は言えるほどまともな生活を送っている自信はない。
社会不適合者じゃなければ、Vtuberになんてなってないしな。
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