【徹】Episode4 卒業式

巧兄が死んで6年が経った。


もう、巧兄を知るのは俺と駿兄だけだ。


他の人間には、元より記憶はない。


中学の卒業式。


俺は、少し面白いことを考えていた。


今日、優一が冬華に告白をすることを前々から聞いていた。


この二人とは、今日を境に会うことはないだろう。


元々、俺はこいつらが嫌いだ。


だから、最後にこいつらの仲を壊してやろうと思った。


優一が冬華を飛び出したのは、放課後に中庭。


それは、知っている。


俺は、それを利用してあいつが来る前に冬華と接触した。


「冬華、俺はお前のことが好きなんだ。


俺と付き合ってくれないか」


俺は、心にもないことを告げる。


心底、冬華のことが嫌いだ。


それに、まったく好みではない。


胸なんか小さくてクソまじめで。


こんな奴が好きなのは優一くらいだろう。


現に、冬華もまたすごく嫌そうな顔をしていた。


まあ、それでも冬華は「うん」と言わざる負えないだろう。


俺は、背後に優一がいることをしていた。


こいつらは、いまも6年前のことを引きずっている。


「・・・はい」


長い沈黙の後に、冬華はそう口にしていた。


そして、背後では優一が走り出すのが見えた。


よし、これでこいつらの仲は壊れた。


楽しいな、幸せを壊すのは。


「じゃあ、冬華。また、連絡するからな」


は、もうしねえよ。


もう、壊れたおもちゃに用はないしな。


優一も冬華もこれで終わりだ。


高校からは、もっと面白そうなことをしよう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る