第44話 幼馴染みと僕の両親

よく二年も放置した車が動いたなと思った。

施設で管理してもらっていたらしく、問題なく動いたそうだ。

僕は、車に近づく。

「父さん、母さん。久し振り、お帰りなさい」

「「ただいま。優一」」

二人の声が揃う。

車は、窓が全開だったようだ。

運転席に乗る無精ひげでガタイの良い黒髪長髪の男性 木倉 はじめ。

助手席に座る黒髪長髪の女性 木倉 優子。

僕の両親だ。懐かしい。

「優ちゃんは何を買ってきたの?」

「あ~、説明が難しいから家に行かない?

冬華も春さんもいまいるから」

「あら、春ちゃんもいるの?」

『いるわよ』

あ、スマホ通話切り忘れてた。

「春ちゃんの声だ。いまからいくね」

「とりあえず、切りますね」

僕は、通話を切る。

よく見れば、家まではもう目と鼻の先の距離だった。

母さんは、車を降りてきた。

「はじめさん、車庫入れよろしくね」

「おう、先に中行っててくれ」

「じゃあ、行きましょう。優一」

「ああ」

僕と母さんは、家路に着く。

母さんは、笑っていた。

「随分大きくなったね、はじめさんと同じくらいかしら」

母さんは、僕の頭を撫でる。

結構無理して腕を上している気がする。

それでも、冬華よりは身長があるからそこまでではなさそうだが。

玄関前までくると、ちょうど父さんもやってきた。

「なんだ、結局同じタイミングになったか」

「そうみたいだね」

僕らは、三人で玄関を開けて中に入る。

「「「ただいま」」」

三人の声が揃った。

「「おかえりなさい」」

そして、冬華と春さんの声が揃って聞こえた。

「あ、起こしちゃった」

と冬華の声が聞こえた。

ああ、そりゃあ起こしちゃうよな。

「起こしちゃう?え、どういうこと?

え、優一もしかして」

口に手を当てている母さん。

あ、これは勘違いしてる。

「今朝、仔猫を拾ったんだよ」

「な~んだ、帰ってきたらお婆ちゃんになったのかと思っちゃったじゃない」

そういって、母さんは笑っていた。

僕らは、リビングへと向かう。

「春ちゃんだ、久し振り」

「優子ちゃん、おかえりなさい」

「えへへ、ただいま」

母さんは、とびっきりの笑顔を春さんに向けていた。

「おっす、春!」

「はじめくんもおかえりなさい」

「おう、ただいま」

父さんは、ダイニングの椅子に腰を下ろした。

母さんは、春さんの横のソファに腰を掛けた。

「はじめさん、優子さん。お帰りなさい」

「「ただいま、冬華ちゃん」」

「冬華ちゃん、春ちゃんそっくりになったね。

姉妹っていてもいいくらい・・・春ちゃん羨ましい」

「あはは、優子ちゃんも充分若いよ。

帰って来たんだし、スキンケアしようね」

「は~い、向こうじゃできなかったから」

母さんたちは少女のような笑みを浮かべていた。

冬華と同い年っていても信じてしまいそうなのは分かる。

「あ、ごめん。優一もお帰りなさい」

「ただいま、冬華」

「えへへ」

僕は、買ってきた物をダイニングテーブルに開ける。

「一応、軽く摘まめる物は買ってきたんだけど・・・人数増えて足りないかも」

「あ~、じゃあなんか頼むか。

なんかジャンクフードが喰いたい」

僕は、スマホを出す。

ピザ、ハンバーガー、カレー、中華・・・大体行けるか。

「何食べたい?」

「任せた!」

「父さんらしいね」

僕は、ピザを頼むことにした。

「L2枚くらいでいい?」

「おう、選ぶの面倒いからクォーター系で頼むわ」

「はいはい、じゃあサイドメニューは?」

「任せた!」

「はいはい」

ポテトとナゲットとサラダかなぁ。

「優ちゃん、グラタンよろしく」

「母さんと冬華は?」

「わたしもグラタン」

と母さんが言う。

冬華は、少し悩む。

「えっと、甘い物・・・」

「はぁい、それで頼むね」

僕は、スマホでピザ屋に注文をした。

スマホをポケットに戻す。

「優一、サンキュー」

父さんは、自分のスマホを弄っていた。

たぶん、夏生さんかな。

「優一、思ってる通りだぞ。夏生にメッセージしてる」

「あ、やっぱり」

「優子さん、俺。今日は、夏生と隣で呑んでくるわ。春もいいか?」

「はじめさん、いいよ。積もる話もあるだろうし」

「はじめくん、夏生さんをよろしくね」

「優一はこっちにいろよ。

冬華ちゃんと仔猫の世話してみろ。

いつか役に立つ。子育て以外にもな」

父さんは、たぶん僕の進路に気づいている。

僕が、介護士になろうと思っていることを。

まだ、冬華には言っていない。

冬華は、進路どうするんだろう。

「お、夏生もうすぐ帰って来るらしいぞ」

「あら、もうそんな時間なのね」

「夏生にはこっちに来るように言っとくな」

父さんの行動力すごいな。

動いてないと死んじゃう並みなんだけど。

回遊魚かなにかなのか。

「お茶、うまっ」

父さんの脇には、お茶のペットボトルが3本転がっていた。

え、もう4本目。

「じゃあ、わたしお湯沸かすね。

春ちゃん、ペットボトルカイロ用だよね?」

「うん、さすが優子ちゃん。

はじめくんも飲んでくれてありがとう」

「いや、俺は喉乾いてただけだ」

父さんは、ニカっと笑っていた。

この人、無意識にしてるのか。

「はじめさんと優一ってそっくりだよね」

「え、僕こんな行動力ないけど」

「そこじゃないよ、無意識に優しいことするとこ」

と冬華が言う。

僕と父さんは、顔を見合わせて笑う。

冬華がそういうのならそうなんだろうな。

ピンポンとチャイムが鳴る。

僕が動こうとしたら、座ってる父さんが僕の前にいた。

早い!!どういう速度?

「お、夏生・・・お、ピザじゃん」

「ちょうど着いたら配達員が来たから受け取っといた」

「サンキュー、あがれあがれ」

そうして、夏生さんも合流した。

久し振りに両家が揃った。

全員でリビングのテーブルを囲む。

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