第36話 幼馴染みと消えない傷

第36話 幼馴染みと消えない傷


僕らは、そのあとすぐに自宅へと戻った。

家族でもない僕らでは病室にいくことも会うことも叶わない。

僕らは、改めて陽太の話を聞くことにした。

彼には、事の詳細を頼んでおいた。

春さんも同席している。

僕を真ん中にしてリビングのソファに腰を下ろしていた。

僕の右に冬華、左に春さんである。

優一「すまん、いま場所を動くからその間に詳細を打っておいてくれ」

陽太『了解だ。ただ、かなり長くなりそうだな。』

陽太『気長に打たせてもらう』

陽太『まずは、13時・・・いや口論があったのがその少し前からか』

陽太『両親揃ってきていたらしい』

陽太『それに食って掛かっていたらしい』

僕は一瞬顔を上げる。

「相手の人まで来ていたのか。入学式だから親がこれてもおかしくないか」

「うん」

冬華が、悲しい顔をしている。

でも、まだこれは途中なんだよな。

陽太『と、それと朝言おうとしたことなんだが』

陽太『この子、クズ男が死んだこと知らなかったのか?』

陽太『口論の前だったかな、早い時間に来て2年生やら先生に聞きまわってたらしい』

「優ちゃん、ちょっと待って。

純恋ちゃんとあれって接点あったの?」

「文通をしてたとはきいてましたけど。

元々、仲はそんなに良くなかったと記憶してるんですが」

僕の記憶では、たしかに仲が悪かった記憶がある。

冬華の顔を見る。

「私も優一と同じ意見だよ。

それに、私たちが虐められてた頃には引っ越していた気がするんだけど」

春さんも首を傾げる。

僕らにもよくわからない。

陽太『んで、イブの事件を先生がしゃべったらしい』

陽太『その後、両親と屋上まで行って口論になり』

陽太『転落』

陽太『母親とその子が落ちたらしい』

陽太『父親は捕まったらしい』

陽太『もみ合ってたのは母親とその子らしいな』

陽太『父親は止めもしなかったらしい』

陽太『なぜ、屋上に行ったのかもわからん』

陽太『屋上に連れて行ったのはそのためだったのかもしれないし』

陽太『とりあえず、こんな感じだ』

陽太『お前らは、何も悪くない。気を落とすな。』

陽太『じゃあ、またな』

そこで、メッセージは終わっていた。

僕は、その後に『ありがとう』と送っておいた。

「僕らにできることは・・・ないかな」

「うん、純恋ちゃんの無事を祈るしかないよね」

その願いは、届くことはなかった。

夕方のニュースで、彼女の死を知った。


その日の夜。

僕らは、いつものようにベッドで寄り添っていた。

「優一、大丈夫?」

「冬華、ごめんな。心配かけて」

「ううん、優一が優しいのは知ってるから。

だから、助けられなかったことに後悔してるんだよね」

冬華は、僕の顔を自分の胸に押し付けた。

柔らかい。

「冬華、そんなことしたら抑えられなくなる」

「いいよ、優一の好きにしていいよ」

僕は、その日。

冬華を求めた。

悲しみと罪悪感を埋める様に。



第3章 完

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る