第33話 幼馴染みと絶望の日1 幸せな朝

春休みも昨日までで終わり、今日からまた学校が始まる。

2年生としての始まりの日だ。

僕の隣には、冬華が眠っていた。

時刻は、まだ6時と早い時間である。

僕は、冬華の髪を撫でる。

幸せだな。

彼女は、最近というか同棲を始めたあの日から毎晩こうして一緒に寝ている。

冬華の匂いが心地よくて僕は拒む理由はなかった。

父さんたちが、GWに帰ってくるのを春さんたちも嬉しそうにしてくれた。

元々、お互いの両親は幼馴染みだったし大学まで共に歩んだという。

僕らと同等かそれ以上の繋がりがあるんだとわかる。

「優一、おはよう・・・くすぐったいよ」

「おはよう、冬華」

僕は、撫でるのをやめる。

もっとしてほしそうにする彼女。

そっと、僕は冬華の唇に短い口づけをした。

「えへへ」と彼女が笑う。

すっかり、僕らの習慣になったスキンシップ。

「じゃあ、ご飯食べて学校行く準備しようか」

「うん」

「あ、冬華は準備先にしなよ。僕が作るから」

「いいの?」

「冬華のほうが、準備時間かかるだろ」

僕は、キッチンへと向かう。

料理といっても実はそんなに時間はかからない。

作り置きを最近いくつか作ってあるのでお皿に映して温めるだけで何品かは用意できる。

作るとしたら味噌汁くらいかな。

僕は、冷蔵庫から豆腐と油揚げを出して味噌汁を作り始めた。

そういえば、今日午後からは純恋ちゃんの入学式か。

高校は、徹が通っていた西高に通うらしい。

たぶん、距離的に考えても僕らが帰って来たころには学校にむかっているだろうな。

西高は、ここからバスでも30分かかる距離にある。

片や、僕らの通う東高は徒歩で15分もかからない。

割と寝坊しても間に合う。

まあ、8時30分までに登校すればいいわけだから。

この時間に起きて家事をしてもお釣りがくるぐらいだ。

ただ、今日はクラス分けが張り出されるので早く行きたい。

僕は、プレートに作り置きのおかずを少量ずつ載せてレンジにかける。

ご飯と味噌汁をトレーに載せ、ダイニングテーブルの上に並べていく。

レンジが止まったのを確認すると取り出し、それもダイニングテーブルに置く。

あとは、箸をダイニングテーブルに用意する。

「あとは・・・ああ、飲み物飲み物」

僕は、冷蔵庫から赤いラバーキャップのフィルターインボトルを出して赤いマグカップに注ぐ。それとガムシロップピッチャーにガムシロップを入れて冬華の席に置いておく。

僕は、冷蔵庫から青いラバーキャップのフィルターインボトルを出す。

これは、ここ数日で凝りだした水出しのコーヒーだ。

水出しだからさっぱりしているので飲みやすい。

それを青いマグカップに注いで僕の席 すっかり冬華の席の隣に置く。

「優一、ありがとう。今日も美味しそう」

「じゃあ、冬華は先に食べててくれ。僕も着替えてくるから」

冬華は、ブレザーの制服を着ていた。

グレーを基調としたブレザーで、赤いネクタイをしている。

「冬華。今日も似合ってるね」

「えへへ、ありがとう」

僕は、自室に戻る。

僕もブレザーだ。

うちの学校は、男女共にブレザーである。

男女で違うのは、ズボンとスカートの違いとネクタイの色が紺か赤かの違いである。

ワイシャツがパリッとしている。

冬華が昨日アイロンをかけてくれたのに気付いた。

「さすが、冬華。細やかな気遣いだ」

僕は、独り言を言っていた。

着替え終わった僕は、階下に降りていく。

「冬華、アイロンありがとうな」

「うん、せっかくだからと思ってやっといたんだ」

僕は、席に着いてご飯を食べ始める。

冬華は、食べ終わったらしくキッチンへと向かった。

「優一、食べ終わったら食器そのままにしといて。

片付けはしとくから」

「じゃあ、洗濯は俺がしようか?」

「うん、お願い。優一の洗濯物入れたら回すだけだよ」

その後、それぞれに家事を済ませていく。

協力すれば、すぐ終わって時間を見れば8時にあと少しってくらいの時間だった。

「冬華、そろそろいくか?」

「あ、もうそんな時間なんだね。

あれ?ママからメッセージ来てた」

「春さん、なんだって?」

「えっと、お昼一緒に食べようって」

「いいね、じゃあ帰ったら向こうの家に行こうか」

「うん、そうメッセージ打っとくね」

冬華がメッセージを打ち終わったあと、家を出た。

いつも通り彼女は僕の左腕に腕を絡めてきた。

「やっと、優一と一緒に登校できるよ」

「そうだったな、3学期はほとんどリモートだったし」

「寂しかった気がする」

「気がする?」

「だって、春休みはずっと一緒にいたからもうわかんないんだもん」

確かに、春休み以前をなんだか思い出せない。

春休みは、嬉しいことが多すぎてわからなくなってるなぁ。

「あ、確かに僕もわからなくなってる」

「でしょ、毎日がこんなに幸せだとわからなくなるよ」

二人して、笑みを浮かべた。

ああ、幸せだな。

この瞬間がずっと続いてほしいな。

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