第21話 幼馴染みと新学期

初詣から1週間が経った。

今日から、3学期が始まる。

僕は、いつも通り朝起きて朝食を作っている。

ガチャっと玄関が開く。

冬華がやって来た。

「あれ?優一、起きてる・・・ご飯作ってる」

「おう、起きてご飯作ってるけど。

食べる?」

「うん・・・私が起こして、ご飯作ってあげたかったのに」

冬華は、朝起きるのが苦手だ。

朝は、僕の方が起きるのが早い。

まあ、必然的に僕が作るほうが効率がいい。

「まあ、そういうなよ。僕の作る朝ごはん嫌い?」

「嫌いじゃないけど・・・ないけど」

「彼女だからって気にするなよ、夜は期待してるから」

「うん!」

最近、冬華は僕の家に入り浸りだ。

まあ、春さんも許可してくれてるのも大きい。

冬華の父 夏生さんも僕ならといっているらしい。

夕飯を、毎日僕のとこで食べているのも、どうやらいいらしく、春さんと夏生さんとしては夫婦水入らずで助かると言われた。

複雑な心境だ。

そのまま、同棲してもいいよとまで言われている。

冬華を体よく追い出そうとしてません?

「それよりも早く食べて学校行こう」

「うん、いただきま~す。

やっぱり、優ちゃんのだし巻き卵美味しい。

あ、味噌汁も」

冬華は、美味しそうに食べていた。

家の出汁は、母さんのこだわりで10数種類の素材でできている。

だから、深みがインスタントや市販の出汁とは物が違う。


やがて、ご飯を食べ終わった僕たちは家を出た。

そして、いつも通り手を繋ぐ。

「えへへ」

冬華が、手を繋ぐと喜んでいた。

「どうかした?」

「だって、高校に入って初めて優一と一緒に登校できるんだもん」

僕は、つられて笑みをこぼす。

たしかに、僕も嬉しかった。

もう、前みたいな寂しい登校は来ないんだと思った。

「優一!」

「なに?冬華」

「勉強見てくれてありがとう。私一人だったら宿題終わらなかったから」

三が日の後の3日間。

僕は、付き切りで冬華の勉強を見た。

彼女の学力は・・・やばかった。

いまは、そこそこ大丈夫だと思う。

これからは、しっかり見ていこうと思った。

「冬華が頑張ったからだよ」

「優一の教え方がよかったの」

「そっか、じゃあ・・・これから成績落ちたら罰ゲームと上がったらご褒美を用意しようかな」

「う~、罰ゲームはやだけどご褒美はほしいから頑張る」

まあ、内容を一切考えていない罰ゲームとご褒美だけどね。

考えておこう。

「学校、あっという間についちゃったね」

「だな、まあ徒歩圏内なのはわかってることだけどな」

学校に近づくにつれ、僕らは注目を集めていた。

僕らは、どちらも有名だからなぁ。

僕は、成績上位・・・まあ見た目陰キャ。

前髪で、目は見えないから。

まあ、わざとそうしている。

昔、遭ったことからあまり人と目を合わせて話すことはできなくなっている。冬華以外は。

片や、冬華はというと。

見た目の幼さで、マスコット的な存在。

まあ、学校の冬華は割とそっけなくて近寄りがたいらしい。

たぶん、僕以外にはがそちらもつきそうだが。

まあ、そんな二人が手を繋いで登校してくれば話題にもなるだろうな。

ちなみに、冬華が徹と付き合っていたことを知る人はいない。

本当に付き合っていたかも怪しいほどに。

「優一。なんだか、恥ずかしいね。

みんな、私たち見てる」

「冬華、たぶんこれからしばらくはこうだと思うぞ」

「昔と比べれば全然だいじょぶなんだけど・・・ちょっと怖い」

「僕も昔とは違うから、大丈夫だ。なにがあっても僕が守るから。なっ」

僕は、冬華の頭を撫でる。

周りから黄色い声が聞こえる。

特に女子からきゃあきゃあという。

男子からは、なんか殺意を向けられてるような。

「お二人さん、そんなとこで二人の世界に入るな」

背後から声をかけられた。

そこには、長身でスポーツ刈りの窪 陽太がいた。

「陽太、イブ以来」

「優一、おはよ。

ほんとにおまえら幼馴染みだったんだな。いや、いまは恋人か」

陽太は、グループチャットにいた一人である。

だから、大体の事情は知ってる。

「優一、私そろそろいくね。

また、放課後にね」

「うん、迎えに行くね」

冬華は、手を振って昇降口に向かって駆けて行った。

「陽太がきたから、いっちゃったじゃん」

「俺の所為じゃねえだろう。

羞恥心で逃げたんだろうが、周り見て言えよ」

僕は、周りを見る。

滅茶滅茶人垣ができていた。

あ、うん。僕も逃げたい。

「わかったようだな、ほら俺らも行こうぜ」

そして、僕らは教室 1年1組へと向かうのだった。

僕らの教室は、旧校舎にあるので割と距離がある。

旧校舎には、1~3年の1組と2組しかクラスがなく、ほかに特別教室がいくつかある。

冬華のクラスは、5組なので新館にある。

新館の方に昇降口があるので帰りは、冬華の教室に寄る方が早い。

「んで、おまえらどんな感じなんだ?」

「幼馴染みに戻ってからは、ご飯作り合って、買い物出かけたり割と普通」

陽太は、苦虫をつぶしたような顔をしていた。

「はいはい、ご馳走様。聞いて損した」

「お、陽太。優一。おはようさん」

ちょうど教室から出てきたガタイの男 久良 宗が僕らに気が付いて声をかけてきた。

そのうしろから、もう一人。

小柄で僕と同じように前髪で目を隠し、後ろ髪も肩先まである間嶋 浩平がでてきた。

「お、二人共おはよう。

うんうん、いい顔してんじゃん。優一」

「二人共、おはよう。

そうかな、ありがとう」

「おまえら、なんで教室から出てきたんだ?」

「いや、空気耐えられん。少し外にいるわ」

そういうと二人は出て行ってしまった。

僕と陽太は、首を傾げて教室に入った。

そして、異様な光景を目にする。

黒板にも、来栖が座っていた席にもびっしりマジックで落書きがされていた。

これは、なかなかに気分が悪くなるな。

「陽太」

「ああ、おれもこれは無理だ」

僕らは、荷物だけ自分の席に置いて教室を出た。

そして、二人の後を追った。

二人は、職員室前にいた。

二人の行動が、読めた。

担任に相談に行ったのだろう。

「ああ、優一。陽太。やっぱり来たか」

「あれは無理」

僕がそういうと3人はうなずいた。

僕らがいることに気づいたのか、担任がやってくる。

「おまえら、どうした?」

「どうしたって、関先生教室のアレ知らないんですか?」

関先生・・・ぽっちゃりとした中年男性である。

割と抜けている。

僕らの顔を見て首を傾げる。

そして、僕らがここにいるということを思考したのか何人かの教師を連れて僕らの教室に向かっていた。

僕ら・・・学年上位成績者4名である。


その後、始業式は中止。

当面の間、休校になった。

まあ、理由は言うまでもなくだろう。

3学期は、別教室での授業などに切り替わっていく。

たぶん、今学期はまともには授業はできないだろう。

来栖の席は、処分された。

もう、彼女が学校に来ることはない。

退学になっているのだから。


そうして、僕らの日常は過ぎていく。

やがて、季節は廻り春へとなる。

去年は、二人で迎えることができなかった季節へと。




第2章 完

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