第20話 幼馴染みと初詣

冬華が帰って来たのは、それから3時間ほどしてからだった。

「優ちゃ~ん」

疲れた声で戻って来た冬華は、晴れ着を着ていた。

僕の思考が止まる。

青を基調とした晴れ着は、冬華にとても似合っていた。

いや、確か春着というんだったかな。

昔、母さんに聞いたことがある気がする。

春着には、ところどころに花の柄が施されていた。

髪型も変わっていて、いつもの長い髪を三つ編み状にしてからお団子にしていた。

「優ちゃん、そんなに見つめられると恥ずかしい」

冬華は、頬を赤らめていた。

僕は、すっかり彼女に見惚れていた。

「綺麗で見惚れてた」

冬華は、目を丸くして驚いてから八重歯を剝き出しにしながらニカッと笑った。

「えへへ、ありがとう」

僕は、ダイニングの椅子を引き冬華に座れるようにする。

「あ、それだよ。そば食べれないか」

「うえん、優ちゃんのそば食べたかったのに」

「また今度作ってやるから、豪華な奴」

「うん、楽しみにしてるね」

冬華の表情は、百面相していた。

悲しそうな顔したり、嬉しそうな顔したり忙しそうだ。


その後、紅白を見たりしていたらだいぶいい時間になっていた。

「じゃあ、いこうか」

「うん、いこう」

僕らは、玄関を出て手を繋いで神社へと向かった。

神社は、この間お祓いをしてもらった商店街の先にあるあの神社である。

冬華は、慣れない足元でゆっくりと歩を進めていた。

僕もそれに合わせて歩いていく。

やがて、商店街のアーケードが見えてくる。

いつもならこの時間は街灯だけで煌々とした明かりはないのだが今日だけは違っていた。

昼間と変わらないくらいに賑わっている。

神社へ向かうたくさんの人。

商店街は、出店が列を作っていた。

「わ~、今年もすごいね」

僕は、去年も冬華と来ていた。

去年だけじゃなく毎年。

幼い頃、もうそれは物心がついたころからずっと。

春着を着たのは、今年が初めてだった気がする。

「あれ?ねえ、冬華」

「なに?優ちゃん」

「どうして、今年は春着着てくれたの?」

「ママが、もう高校生なんだから来たらって。

優ちゃん、着たら褒めてくれるよって」

冬華は、ちょっと頬を赤らめながらそう言った。

愛らしい。

「そっか。じゃあ、もっと褒めないとね」

「そうだよ、褒めて褒めて。ほらほら」

「横っ腹やめて。弱いの知ってるでしょ」

冬華は、手を繋いだまま僕の横っ腹に肘でツンツンと突いてきた。

もうすっかり冬華だ。

僕の好きだった冬華がそこにはいた。

「今日の冬華は、とっても可愛いね。

いつもは流してるのに、そうして髪型を変えてるとドキってしちゃうよ。

それに、着物姿だと綺麗って言葉が出てくるよ」

僕の語彙力さぁ。

もっと、なにかあるよね。

だめだ、テンパって頭真っ白になってきちゃったよ。

「優ちゃん、可愛い」

「可愛いって」

僕は不満を漏らす。

可愛いって言われては、あまり喜べない。

「あ、可愛いって言われたくないの?

そうなんだ・・・ふぅ~ん。

女の子が可愛いっていうのは大好きな人にしか思わない感情なんだよ」

「え、そういわれると嬉しいけど」

でも、腑に堕ちはしない。

まあ、それが男心という物・・・だよね?

「優ちゃん、帰りになんか買って帰ろ」

「ああ、いいよ」

「たぶん、今日は夜更かししてても怒られないから」

僕らは、ゆっくり神社へ向かっている。

だいぶ、列ができているがもう鳥居が見えている。

境内は、人だらけ。

お参りには、まだまだかかりそうだった。

でも、冬華と二人ならどんなに長い時間も長くは感じないかもしれない。

幸せだな。また、冬華とこうして過ごせて。

遠くで花火が上がる。

0時になったようだ。

「「あけましておめでとう」」

僕らは、同時に挨拶をしていた。

「優ちゃん、また今年もよろしく。

今度は、ずっとそばにいて」

「冬華、こちらこそ今年もよろしく。

ああ、これから何があってもずっとそばにいるよ。

なんか、プロポーズみたいになっちゃったな」

「えへへ、そうだね」

二人して、頬を染めていた。

お互いに顔を見れなかった。

心臓が早鐘を衝く。

僕は、冬華とだったらずっとそばにいたい。

もう、誰にも渡さない。

なにがあっても冬華を離さない。

「冬華・・・あのさ、本気にしてもいいから」

冬華は、目を丸くしてる。

でも、すぐに真剣な顔をして。

「わたしも、ずっと優ちゃん・・・ううん、優一のそばにずっといるから」

いま、幼馴染みからしっかり恋人に変わった瞬間なのかもしれない。

愛称がで呼び合う方が親密な気がするけど、名前で呼ばれると凄く嬉しくなった。

さらに、愛おしくなった。

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