第10話 幼馴染みと過去

「僕は、あの日。

冬華が僕のところにきてくれて嬉しかったんだ」

「そっか、そんな前から続いてたんだ。

知らなかったのは私だけなんだね。

付き合いだして、確かに徹と遊んだことあんまりなかったな」

「遊んだこと・・・ない?」

僕は、冬華の言葉であることを思った。

ああ、そうかそういうことかと。


卒業式のあの日。

僕が徹を見限った理由。

本当はこの日。僕が、冬華に告白するはずだった。

それを割り込んだのが、徹だった。

徹には、前もって言ったのにだ。

いや、違うな。

前もって言ってしまったから。

僕らの前で見せていた徹は偽りだったんだと今ならわかる。

僕らは、二人して騙されたんだ。

あいつに。

騙されたことに気づかないまま。

鈍感になっていた。

幼い頃に徹に助けられたことで信じてしまったんだろうな。


「僕は、徹に裏切られたんだ。

僕が先に冬華の事が好きだったのに。

あの日、僕が先に冬華に告白するはずだったのに」

「え、優ちゃん」

あ、言葉にしていたみたいだ。

僕は、とても恥ずかしくなった。

「・・・ここ数日で、気づいたんだけど。

あいつは、僕から冬華を奪って僕が苦しむのが見たかったんだろうね」

でも、それができなくなったから捨てたんだろう。徹。

卒業式のあの日。

徹との縁を切った。

連絡先もアプリから消して。

学校も違うから好都合だった。

もう、会わなくて済むって。

あの時は、好きな人の幸せを願って。

僕がいると冬華はダメだと思って疎遠にしてたのに。

ホント、ひどすぎる。

「そっか、だから私はほっとかれたんだ・・・遠回りしてたんだね。

私たち。徹くんがいなければ、私は優ちゃんとずっと入れられたのに」

冬華が、泣きそうな顔になる。

僕は、もう彼女の泣き顔なんて見ていたくなかった。

冬華には笑っていてほしいから。

気が付いたら、冬華を抱きしめていた。

僕に、胸に彼女は顔を埋めていた。

「いまからだって遅くないよ。ぼくらはずっとそばにいられるから。

離れていた時間をわすれるくらいね」

今日の僕は・・・昨日から僕の舌は冬華に甘い言葉ばかり告げている。

「うん」と小さな声が聞こえた気がした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る