Just the two of us

@Tatsuko

Just the two of us

1章-名前


とあるスラム街に、どこにでも居そうな知命の男がいた。

男の名前は、「ウィル・ハーバー」

男は別の町から来て、とある「目的」で奴隷を探している。


「使える奴隷揃ってるよ〜」

「今なら20%オフでお買い得だよ〜」


正直、男はこんな所に来たくはなかった。

何故なら、奴隷にも人権は認められるべきで、それぞれに自由があるからだ。

しかし男はそんなことは考えてはいられなかった。

歩いているうちに、細い路地の隙間に、薄暗い下に続く階段があった。

階段をおりてくと、看板が見える。

看板には「奴隷専門店」と。

男は奥に進んでいく。

檻に入れられた奴隷が興味深そうにこちらを見ている。

心が苦しくなった。早く出ようと思い、男は足早に歩いていった。

すると、あるものが目に留まる。

値札だ。しかしやけに高い。

見てみると、ひとつの檻の中に12歳くらいの少年と少女がいた。

「なぜこんなに高いんだ?」

男は店の人間に聞いた。

「こいつらは特殊でね、物を生み出せるんだ。」

物を…?にわかに信じがたいことだが、本当のようだ。積み木で遊んでいる。与えた訳では無いらしい。

この2人は「目的」に最適な奴隷なので、買うことにした。

買おうとすると、2人は檻の中にいる誰かと話していた。

見てみると、同い年くらいの少女だった。

「ふたりとも…買われちゃうの?…」

どうやら3人で仲良くしてたらしい。

心が痛んだ。

「なあ、この女の子もくれないか。」

「そいつか?別にいいけどロクに働くことも出来ないし使えないぞ?」

「いいんだ」

「そうかい…ほら、お前も出てこい。」

男は3人の子供を連れて家に帰った。

「私の名前はウィル。ウィル・ハーバーだ。」

「ようこそ我が家へ、自分の家だと思って好きにしてくれればいい、ただしちょっとばかり仕事をしてもらう」

「仕事…?上手じゃなきゃ叩かれる…?」

「………そんなことはしないさ」

男はとても心が痛んだ。子供たちにとって、「労働のできない奴隷は叩かれるのが当たり前」という認識があるのが辛かった。

「君たち2人は物を生み出せるんだね?」

「(2人頷く)」

「えっと、君の方は…」

「あ、わ、私は……」

「いや、いいんだ、すまない」


「よし、2人にはこれを作って欲しい」

(設計図を拡げる)

「………お城…?」

「……ああ…そう、お城………だ」

「なんで?」

「私は戦争で妻を失った。妻が生前、お城に住んでみたいと言ったので、妻と一緒に考えて描いたんだ。それを作って欲しい…出来るか……?」

「うん…!」

「本当にありがとう。せっかくだし君たちに名前を付けたいんだが」

「「「名前…!(目きらきら)」」」

「私の名前つけて!」

「じゃあ君はクレアだ」

「クレア…!!!!うふふ…クレア…クレア…」


「僕も!」

「んー…君はディミオルだ」

「わぁ……!!ディミオル…!!」


「わ、私は……」

「君は…べルシオだ」

「べルシオ……素敵な名前…」


「ありがとう!なんだか不思議な感じ!」

「僕も!ちょっと変な感じするけど嬉しい!」

「私にこんな素敵な名前…嬉しい…」

男はとても喜んだ。名前をつけるだけでここまで喜ばれるとは思っていなかった。

逆に今まで名前をつけられてなかったと思うと少し悲しくもなった。

「今日は遅いしもう寝るか、明日から作業を始めるぞ。」

翌日

「おはよう、そろそろ作業を始めたいんだが、出来るか?」

「うん」

「よし、それじゃあこの設計図に従って、お城を作ってくれ。」

「ねえ、この真ん中の…えふ……なんとかって何?」

「………………さ、さあ始めなさい」


2章-戦争


べルシオが本を読んでいた

「お、今日は何の本を読んでるんだ?」

「今日はね、これ」

「『昆虫はすごい』…虫の本か」

「うん、知らないことが沢山書いてあって楽しい」

「本はいいよな、厚さと重みの分だけ知識が書いてある。読んだ分だけ、自分の中にはない世界や知識を与えてくれる。そこに偽りはない、筆者の思う世界の正しさが描かれている。」

べルシオは目を輝かせ、共感の頷きをしていた。

「私は仕事に行ってくるよ、好きなだけここの本を読むといい。」

「うん、ありがとう、いってらっしゃい。」

次に読む本を探していた時、目に留まったのは、戦争の本だった。

「戦争………。」

二十年ほど前に、世界を巻き込んだ戦争が起きた。

べルシオは床に座り、その本を淡々と、しっかりと読み進めた。

酷い話だった。何もかもが焼き尽くされ、愛する人も、友達も、家族も、知人も、隣人までもが殺され、何もかもが失われる、誰も得をしない、何とも悲惨で愚かで辛い話だった。

しかし、この話は小説でもファンタジーでもなく、紛れもない事実であり、人類が歩んできた汚れた歴史であった。

べルシオは泣いた。弔いの意も込めつつ、その本をぎゅっと抱え、泣いた。長い時間泣いた。静かに、泣き叫ぶのではなく、悲しく、ゆっくりと、涙の雫がぽたぽたと落ちる。

泣き疲れて、べルシオは自室で眠った。

眠りにつく時、べルシオは強く祈る。

二度と戦争が起こりませんように。と


3章-平和


クレアが休憩していたので、ディミオルが1人で城を作っていた。

「えーっと、ここが…こうか…」

「ディミオル…!助けてくれ!」

家の外からウィルの声が聞こえた。

「ウィル?!どうしたの?!」

「…なにしてんの」

「ジンジャーエールを箱買いしたら重くて運べないんだ…!」

「えぇ…」

「手伝ってくれ…」

「しょうがないなぁ…」

「ふぅ…ありがとう、飲むか?」

「じゃあ貰っとく」

「ジンジャーエールはいつ飲んでも美味いな」

「次からはもっと計画的にやってね」

「そうだな」

「ぷっ…あはははは」

「なんで笑うんだ」

「いやだって、ジンジャーエール運べな

いから手伝ってくれって面白すぎるでしょ」

「そんな笑うことないだろぉ!」

「平和な人間だな〜って思ってさ」

「……平和、か、ずっとこうだといいな」

「何か言った?」

「なんでもない。さ、作業に戻ろう」

ディミオルはちゃんと聞こえていた。そして何となく察していた。

しかし、あえて触れることはしなかった。

ウィルが傷ついてしまうかもしれないと思ったからだ。


4章-花


クレアが作業の合間、あるものを見つけた。

「写真立てだ…でも、かすれてよく見れない…」

写真立ての横には花瓶が置いてあった。

「この花は…なんだろう…?」

「おークレアか、どうしたんだ?」

「この写真立てと花って何?」

「…それか」

「その写真は私の妻、エヴァだよ。」

「奥さんの…」

「あぁ、優しくて美しかった。とても大好きだった…。」

「……」

クレアは無言でウィルに抱きついた。

クレアは泣いていた。

ウィルも泣いた。

「この花は、私も妻も大好きな『山荷葉』という花だ。」

「サンカヨウ…?」

「そこに霧吹きがあるだろう、それを花に吹きかけて見てごらん。」

クレアは花に水をかけた。

花は白く可愛らしい見た目から、ガラスのように透明になっていき、美しく綺麗な見た目になった。

「わぁ…!綺麗…!」

「妻も、私もこの花が大好きなんだ」

「今度これがたくさん生えている所に行こうか。」

「うん、行きたい。」

クレアは、ウィルがどれだけ辛く苦しい思いをしたか痛感した。そして、ウィルがどれだけエヴァを愛していたかも。


5章-偽りと希望


何かが家に届いたようで、ウィルがはしゃいでいた。そして他3人が集まってきた。

「ギターだ!ギターが届いた!」

「ウィルってギター弾けるの?」

「もちろん、若い時はバンドも組んでたぞ」

「え〜意外!」

「チューニングを合わせて…よし、なんか弾くか」


♪「Yesterday / The Beatles」


ウィルの弾くギターは響き、ウィルの歌声はギターと混ざり合い、綺麗なハーモニーとなり、その空間だけ、空気と音の波が変わっていった。

3人はただ呆然としていた。悪い意味ではなく、感動で言葉も出ず、ただ立ち尽くしていた。

「どうだ、音楽はいいだろう?」

「うん、綺麗だった。」

「そうか、それはよかった。」

ウィルは満足げだった。

「それはそうと、もうそろそろ城も完成するな。」

「うん!あとは外側と屋根をつければ完成だよ!」

「ここまでよく頑張ってくれたな、本当にありがとう。」

「城が完成したら、完成を祝ってパーティでもするか」

「ほんとに〜!やったー!」

3人が喜ぶ姿を見て、ウィルは心が和むと同時に、痛みを感じた。

そして、その日のうちに、城は完成した。


次の日、ウィルが仕事から帰ってきて、4人で豪華な夕飯を食べていた時、ウィルが神妙な面持ちで、「明日、この城をある場所まで運ぶ」と話し始めた。

「どこに?」

「それは内緒だ」

3人はサプライズか何かだろうと、楽しみにしていた。


6章-真実


夕飯後、ウィルが仕事で疲れて、部屋で熟睡していた。

そこに、べルシオが入ってきた。

「ウィル〜…?本借りるよ〜?」

「ありゃ、寝てるの…?」

ウィルの机の上に、かなり分厚い日記が広げられているのが見えた。

昨日の日付のページが開かれていた。


『私は最近思う、本当にこれを実行してもいいのだろうか。子供たちは幸せそうだし、実際私も幸せだ。私の「目的」はこれを壊してもいいものなのか…?』

「目的…?実行…?なんのこと…?」

日付を昔まで戻す。


『突然、電話がかかって来たと思ったら、飛行機の制作依頼だった。設計図を書けとの事だったが、かなり金銭面は良さげだったので受けることにした。』

めくる。


『戦争が始まるらしい、しかも世界を巻き込んだ。誰も得をしないのに何をやってんだか。私も妻も呆れている。』

めくる。


『どうやら私が受けた仕事は、戦争に使う兵器だったらしい。ふざけるな。私はこんなことを望んで仕事をしている訳では無い!』

めくる。日付が大きく変わっていた。


『妻が亡くなった。瓦礫に巻き込まれて。うめき声をあげる暇も無かったのが唯一の救いだろう。私が生き残って、何故エヴァが死ななければならない。私は何もかも諦めた方がいいのかもしれない。もう一度、せめてもう一度エヴァに会いたい。』

めくる。


『幸せの形なんてないと思ってた。私は幸せを知ることなんてないと思ってた。エヴァを失って、エヴァと過ごしてた日々が幸せだったと今はじめて知った。なぜ今知ってしまったのか。もっと前から気づけたはずなのに。』

めくる。


『ああどうしてだ、エヴァ、帰っ⬛︎⬛︎⬛︎くれ、私は君がい⬛︎⬛︎とダメだ。君を失う辛さ⬛︎⬛︎えられない。せめて夢の中だけでいいから出てきてくれ。もう一度、話がしたい。また、城の話をしたい。

2人きりで。』

涙でページが滲んでいる。

めくる。


『遺品を整理していたら、妻と一緒に書いた城の設計図が出てきた。そうか、こうすればこの気持ちも晴れるかもしれない。』

めくる。


『私は、世界を壊す。この城を、最終兵器にする。』

めくる。


『核融合爆弾を作って、この世界を壊そうと思う。愚かな戦争を繰り返す人類なんか、滅びてしまえばいい。ただ、この計画は長い時間がかかる。しっかりと計画を練る。』

日付を今日まで戻す。


『城が完成した。いや、"してしまった"のかもしれない。何も嬉しくない。私はもう、全てを諦めたはずなんだ、あの子達にも情は抱かないと決めたんだ。ただ、あの子達といると、どこか楽しい自分がいる。むしろ、自ら、あの子達といることを望んでいる気がする。クレアが腹減ったと催促するので、夕飯の支度をしなければ。』


べルシオは日記を閉じた。

驚愕した。しかし、怖くはなかった。

すこし、ウィルの気持ちが分かる。

悲しい、辛い、苦しい。そんな感情がウィルの中に渦巻いていたことを実感した。

それと同時に、奥さんを心から愛していたこと、世界を壊したいと願いながらも、3人と過ごす日々を、楽しんでいたこと、ウィルの生きる希望になっていたことが分かった。

そして、ウィルがもう引き下がれなくなっている事も察した。

何故か手の甲に水が一滴落ちた。

涙だ。泣いている。ウィルの気持ちに共感しているのか、この日々が無くなってしまうのが辛いのか、どちらか分からないが、泣いている。複雑な感情だ。


7章-雨


翌日

「さあ、そろそろ行こうか」

ウィル達は支度を済ませ、出かける準備をしていた。

「ベルシオはどこだ?」

「昨日からずっと本読んでるよ」

「そうか……………まあ、強制ではないしな。よし、行くか」

ドアを開けると、光と共に雨が降り注いでいた。

「天気雨…か…」


♪「Just the two of us」


地面を優しく叱りつけるような雨と、それを見守る光が、水光のような光の揺らめきを生み出していた。

雨粒はクリスタルのように輝き、

地面の水溜まりは、そのクリスタルを弾いて、

二度も輝かせる。

それはとても綺麗で、"なんと美しい世界なのだろう。"と思わせるほどだった。


「着いたぞ。」

少し拓けた平地の真ん中に大きめの正方形の石畳のようなものが見えた。

周りを見ると、大きな葉を付けた植物が、地面を覆っていた。

ウィルはどこか悲しそうな顔をした。

「少し遅かったのか…」

ウィルは聞こえないほどの声で呟いた。

そして、真ん中の石畳に城を設置し、ウィルは何かを用意していた。

そして、クレアとディミオルを抱き締め

「本当ごめん、ごめんな」

と言うウィルの目には、涙が浮かんでいた。

2人はよく分からなかった。

そして、2人の肩に手を置いたまま

「エヴァ、もう、あんなことは起きない。人が滅びれば、もう二度と。」

そして、ウィルは祈るように目をつぶった。

「これで、全て終わるんだ…。」


「待って!!!!!」

ベルシオが走って、飛び込むように城に触れた。

そして、一瞬のうちに城は消え去った。

「ウィル、ごめんね。でもウィルを助けたかった。」

「…ベルシオ………!!ああ…!すまない…!!本当に……!!!!」

50を越えた男が、大声で泣き叫んだ。

そして、その男は3人を抱き締めた。

二人は未だに理解が追いついていなかったが、一人の少女は事情を知っていたので、男と一緒に泣いた。

ベルシオの能力は、「物質の変換」

爆弾の物質を「花成ホルモン」という、花を咲かせるホルモンに変えた。

そして、辺りにはサンカヨウが咲き乱れ、雨によって透き通った綺麗な花となっていた。


[完]

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