きれいに見える色だけど
CHOPI
きれいに見える色だけど
思いっきりボールを投げた。真っ白な服を着た彼女の背中にあたってはじけ飛んだそのボール、中からはキレイなタンポポ色のインクがこぼれた。同時にキラキラとした光や、散りばめられた星々が舞い踊る。ボールが当たった彼女は、少しだけびっくりした顔をして、その後嬉しそうに、だけどどこか眉を寄せて笑った。
******
「一緒にやると、すっごく楽しいね!」
そう、目の前の彼女に言うと、その子は少しだけびっくりした顔をして、その後嬉しそうに、だけどどこか眉を寄せて笑った。
「そうだね」
私が感じたことをそのまま伝えたんだけど。それに対して彼女の眉が少しだけ寄った気がしたのは何故だろう。何か気に障るようなことを言ってしまっただろうか。
クラスの中でいつも一人、彼女は静かにゲームをしていた。ふと目に入ったその画面は自分も最近始めた物だったから思い切って声をかけた。
「よかったら一緒にやらない?」
そういえば彼女は少しだけ固まって、『いいよ』と答えた。だから、それ以降、たまに休み時間に時間を合わせて一緒にゲームをやる仲になった。
「楽しい」「面白い」「また一緒にやろう」……毎回楽しくてテンション高く伝えるそれらの私の言葉に対して、彼女はいつも「うん」「そうだね」「いいよ」……と静かに答えるだけだった。
******
元気な彼女はたくさんのボールを、ぽんぽんと簡単にたくさん投げてくる。それらのボールは私にあたってはじけて、キレイな色やキラキラとした光がはじけ飛ぶ。真っ白な私の洋服は、それらの色をたくさん浴びて、たくさん吸って……
******
「今日も一緒に……」
彼女に声をかけられたけど、それを遮ってしまう。
「ごめん、今日は一人になりたい」
彼女は目をぱちくりさせて、『え、あ、うん。わかった』と若干棒読みだった。青天の霹靂、だったようだ。ごめんなさい、と思いつつ、だけどどうしても私にはひとりになる時間が必要で。私は人の言葉を浴びつつけると、どんどん心のキャンバスが汚れていく感じがするのだ。どんなにいい言葉でもそれは同じで、気が付けば心のキャンバスは、それはもうぐちゃぐちゃになる。いろんな色が交じり合って、最初はきれいな色で溢れていたはずなのに、重ねすぎた色はいつのまにか何色とは一言で呼べない程ぐちゃぐちゃになって。そのキャンバスをきれいに白にリセットする。その方法が私にとってはゲームの時間、なんだ。
******
彼女から返ってきた、ほとんどはじめてに近いボールは、私にあたってはじけ飛んだ。中から出てきたのは、少しだけトーンが低めの色だった。だから少しびっくりしたけど、投げてきた彼女が、ボールを投げた後頭を下げたような気がしたから。
それ以来、私も少し気を付けて、ボールを投げるペースを考えるようになった。
******
私にとって「心地いい」ものが、あなたにとっても「心地いい」とは限らない。
ゆっくり、少しずつ、丁寧に。
そうすればちゃんと、心から笑い合える距離になるから。
******
今でも二人、たまにゲームをすることがある。だけどその時の会話は、前のように私の一方通行ではなくなった。ちゃんと『会話』になったそれは、絶対前よりはるかに楽しくて。
今日も私は彼女に声をかけてみる。
「今日はー?一緒にゲーム、どう?」
きれいに見える色だけど CHOPI @CHOPI
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
同じコレクションの次の小説
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます