第33話  もうひとつの影





 瓦礫の上にうつ伏せに倒れていた沢渡が目を覚ましたとき、彼のそばには誰もいなかった。

 激しい倦怠感に全身を包まれていた。何度か寝返りを打ち、ようやく上半身を起こした時、彼は瓦礫と瓦礫の谷間のようなところを歩く若い女の姿を見た。

 橙色に染まった夜明けの景色の中で歩く女の後ろ姿には見覚えがあった。セミロングの黒髪がベージュ色のスーツの背中に垂れ下がっている。顔は見えなかったが、沢渡にはそれが誰かすぐにわかった。

 女は足元に注意しながら用心深く歩んで行った。瓦礫の向こうに消えていく女を沢渡は黙って見送った。





 『影添』を死んだカルト信者の女のものに変えるために『添変え』をおこなっているとき、沢渡の心に激しい迷いが生じた。

 影添を変えることによってその女として生まれ変わり、贖罪に一生を捧げるという決意と、志穂子に会いたい、志穂子を救い出したいという欲求が拮抗した。その対立した思念と感情のせめぎあいに苦しみ、そこから逃げ出そうとした沢渡は無意識のうちに影の分身化現象を引き起こした。

 トカゲは外敵に襲われたとき、身を守るために自ら尻尾を切って逃げる「自切」という習性があるが、沢渡の影にもその自切のような能力が備わっていた。石黒綾美の影から逃れるために無意識のうちに、あるいは意識的に沢渡はそれを使って危機を脱してきたが、影の分身化は敵に襲われて逃げる場合に限らず自らが置かれた状況から逃げ出したいとき全般に渡って引き起こすことができるのだった。

 分身化現象によって分離した沢渡の影は、新たな『影添』を得て生まれ変わるための『添変え』を続けた。本来なら自切されたトカゲの尻尾として、『影添』を失くしたその影は消失してしまうはずだったが、添変えによってカルト信者の女という新しい影添を手に入れることになっため、影として生きながらえることができたのだった。

 一方、自切をした方の沢渡の影は分身化現象が起きる前に『添変え』によってすでに大部分がその女の影添の方へ移動していた。影としての存在は保っているが、その中身はかなり希薄なものとなっていた。仮死状態と言っても過言ではない。そんな影が元の影添のところに居残って安定した状態になるのは非常な困難を伴った。

 だが結局、死にかけていた沢渡の影は56年のあいだ苦楽をともにした肉体を影添にして生きながらえることに成功した。志穂子への執着心や志穂子を助け出さなければならないという使命感がそうさせたのだった。

 沢渡の影は新しい人生を歩もうとした影と、以前のままでいようとする影の2つに分裂した。前者はカルト信者の女という新しい影添を手に入れ、後者はこれまでどおりの沢渡の肉体を影添にしてそこへ居残った――

 『添変え』と影の分身化現象とが同時に起き、従来の肉体を影添として復活した沢渡は女が生き返り、立ち去っていく後ろ姿を見てすべてを悟った。しかしそんなもう一人の自分に対して何らかの関わりを持とういう気にはならなかった。

 重荷が降りた――新しい影添を得たもう一人の自分の後ろ姿を見て、沢渡はそんなふうに感じただけだった。

 何かが沢渡の中で変わりつつあった。





 一週間かけて沢渡は荒廃した梅座の街から隣の街に抜け出した。

 その際、被災者を救出する自衛隊員や救助活動を取材する報道関係者、警戒にあたっている警察官などに何回か出会ったが、影型を変えて若返ったり、『消し染め』を使って相手の記憶から自分の存在を削除したりなどして彼らの注意や関心から逃れた。そのとき警官や自衛隊員の影を覗いた沢渡は、自分が皆戸区警察署の庁舎崩壊に関わり、梅座で大規模な破壊活動をおこなったテロリストとして追われていることを知った。

 とりあえず沢渡は自分の若い頃の影型を使って警察や自衛隊の目をくらましていたが、いつまでもその手が通用するとも思えなかった。沢渡は「見当たり捜査官」という監視カメラに頼らずに人間の肉眼と記憶と判断力に基づいて指名手配犯を見つけ出す捜査官のことがテレビのニュース番組で取り上げられているのを見たことがあった。そういう技術を持った相手だと単に容姿を若返らせただけではその目を誤魔化すことはできないかもしれない。それに監視カメラの性能も日進月歩だと聞く。若返りだけでは変わらない顔や身体の特徴、動作の癖などを読み取って同一人物だと判別するような監視カメラがすでに開発されて要所要所に配備されているかもしれない。

 そもそも身に着けている衣服がガーレンの影合わせのために石黒綾美の自宅へ行ったときからずっと変わっておらず、濃紺のジャンパー、茶色いカッターシャツ、灰色のスラックスという服装のままだったのである。服装だけでこちらの素性を看破されてしまいそうだった。

 そのため沢渡は梅座から抜け出したあと、往来の激しい大通りの道端に停車していた大手宅配業者の箱バンを見つけると、荷台の前で荷物の確認をしていた若い配達員の男の背後へ、気づかれないように近寄った。

 沢渡は回帰して自らの影をヤモリの形に変えると、そのヤモリの口から真っ黒い舌を伸ばし、配達員の影に触れた。舌が男の影の輪郭に沿って一周し、ナノレベルの細かさで型取りをおこなうと、沢渡はそうやって作った型を自分の方に引き寄せた。

 中に貼った紙が破れ、不格好にひしゃげた金魚すくいののような黒い枠を足元に引き寄せた沢渡は、その枠の内側を自らの影で満たしていった。枠の内側が影で完全に満たされると同時に、沢渡の肉体はその配達員と同じものに変化した。

 影合わせによって配達員の男の容姿を手に入れた沢渡はタクシーを拾うと、どこか大きな衣料品店のある場所まで行ってくれるように運転手に伝えた。運転手は大手衣料品店が入居しているショッピングセンターへ沢渡を運んだ。

 タクシーから降りる時、沢渡は自らの影を運転手の影に挿入した。顔貌を配達員のものに変えていた沢渡は、挿入した影の先端でその影型を作った。そして小さな黒い紙人形のようなその影型を灰色に変色させると、タクシーの運転手の影の中に落とし込んだ。

 運転手の影の中で沢渡がなりすました配達員の姿は灰色に染められ、認識不可能な曖昧模糊とした記憶に変化した。沢渡の『消し染め』によってタクシーの運転手はさっきまで自分の車に乗せていた乗客の存在を忘却してしまい、沢渡は料金を払わずにタクシーから降車した。あとでタクシーの運行記録やドライブレコーダーから沢渡の乗り逃げが発覚するだろうが、沢渡はそれまでにまた別の影型を使って他の人間になりすましておくつもりだった。

 タクシーから降りて衣料品店に入った沢渡はできるだけ若く見え、自分の体のサイズに合った衣服を選ぶと店内の試着室で着替えを済ませた。そして店員や他の客や私服警備員に『消し染め』を使い、誰にも咎められずにそのまま店を出た。

 警察の追跡から逃れるためそうやって沢渡は顔貌や身なりを何度も変えながらネットカフェやマンガ喫茶、ビジネスホテルなどを転々としていた。そのために必要なカネには事欠かなかった。『傀儡』と『消し染め』を使えば人様のカネを簡単に奪い、騙し取ることができる。カネ以外にも必要なものはすべてそれらを使って工面した。

 それは沢渡が置かれている境遇からすればやむを得ない面もあったが、そういった違法行為や非道徳的な所業に対する精神的ハードルが以前と比べて明らかに低くなっていることを沢渡自身がはっきりと意識していた。サイコパスにでもなったような気分だった。恐らく梅座で添変えをおこなっている時に、沢渡本来の内面的なものの大半が楠川由美香の影添の方へ移行したせいだろう。性格が変わってしまったのだ。

 だがそんな精神状態であっても志穂子に会いたいという沢渡の気持ちに変化はなかった。志穂子が今どこでどうしているのか、無事なのかどうか。もし無事なら必ず救い出すつもりだった。

 もし無事でなければ報復ということになる。

 石黒綾美を殺すのだ。





 逃亡者としての生活が一ヶ月以上に及んだ頃だった。

 その日泊まっていたビジネスホテルで沢渡は、「梅座スカイゲート」という45階建ての超高層ビルの展望台で中年女性が不審な死に方をしたというニュースを聞いた。

「亡くなったのは兵庫県川石市に住む女性、石黒綾美さんです。石黒さんは今日の午前、梅座スカイゲートの展望台にいたところ、突然意識を失って倒れました」

 ベッドに寝そべりスマホをいじっていた沢渡は、点けっぱなしにしていたテレビから聞こえてくる音声を耳にして飛び起きた。

「その後、石黒さんは救急病院に搬送されましたがまもなく死亡が確認されました。警察は石黒さんの死因に不審な点があるとして慎重に調査をおこなっているとのことです」

 ニュース映像には石黒綾美という女性の顔写真は映っていなかったが、おそらく間違いないだろう。

 石黒綾美が死んだ――

 信じられなかった。男性二人を殺し、本田康彦になりすまして志穂子を籠絡し、皆戸区の警察署を破壊し、梅座の街を地獄に変えた魔物のような女の最期としてはあまりにあっけなかった。

 不審死だということは、何者かが石黒綾美を手に掛けた可能性もあるということになる。あの女の命をいとも簡単に奪うとはいったいどんなやつなのか。もっと詳しい情報を得ようとした沢渡は他のテレビ局でこのニュースが報じられていないか調べてみたが、どの局のニュースも似たりよったりの内容だった。ネットのニュースサイトも概ね似たようなもので、電子掲示板のニュース関連のスレッドを探してみたが、大きなニュースでもなく、また事が起きてから時間があまり経っていないため、このニュースに関するスレッドは立っていなかった。

 石黒綾美の死の経緯が気になったのはもちろんだが、沢渡にとって最も関心があるのは志穂子のことだった。

 志穂子の携帯電話に出た石黒綾美と話をした時、彼女は志穂子を夫の純也が持っていた別荘に閉じ込めていると言っていた。あれから一ヶ月以上が経っている。志穂子が無事かどうかは疑問だが、石黒綾美が死んだのが本当なら沢渡が志穂子を救い出すことを阻むものは何も無いはずだ。

 逸る気持ちが抑えられない。無事なら早く志穂子に会いたい。また仮に無事だとしても石黒綾美が死んだことで、むしろ監禁されている志穂子にかえって身の危険が及ぶような状況になっているかもしれない。いずれにせよ、一刻も早く志穂子を助け出さなければならない。

 とはいえ、自分は表立って志穂子を探して救出することができない身の上だった。皆戸区の警察署や梅座の街を破壊したテロリストという汚名を着せられた逃亡者なのだ。純也の別荘から志穂子を外に連れ出すことはできないし、純也の別荘がどこにあるかさえ知らなかった。かと言ってこのまま手をこまねいているわけにもいかない。

 思い悩むうちに沢渡はあることに気づいた。要は志穂子が無事に救出されたら良いのだ。必ずしも自分が動かなければならないというわけではない。

 あの男ならなんとかしてくれるかもしれない。彼が生きていればの話だが――





 皆戸区警察署捜査一課の刑事、室伏勝敏は肋骨が折れた激痛に耐えながらも石黒綾美を制圧するため、拳銃の弾倉が空になるまで彼女に銃弾を浴びせた。だがそのあと骨折したことから生じる耐え難い苦痛で失神した。

 それから何が起きたかはよく覚えていない。両足に激痛が走り、目が覚めたがすぐにまた失神した。そして気がつくと野戦病院のようなところのベッドで寝かされていた。看護師から梅座で高層ビルが何棟も倒れる大災害が起き、その災害に巻き込まれた自分が九死に一生を得たことを知らされた。ただし両足は切り落とされた状態だった。倒壊したビルの瓦礫に足が挟まれ、救助のためにやむなく切断されたのだった。

 肉体的にも精神的にも警官として働くことはあきらめざるを得ないだろうと思った。石黒綾美が梅座スカイゲートで死んだという知らせを部下から聞いたときも、彼のその意志に変化はなかった。一連の悪夢のような出来事は彼の中で悪夢として終わろうとしていた。

 しかしその知らせを聞いた翌日、室伏の携帯電話に思いもかけない人物から連絡があった。非通知でかかってきたが、留守電に入っていたメッセージに室伏は驚いた。

「沢渡です。以前いただいた名刺にあなたのケータイの電話番号が記されていました。その番号を覚えていたのでこちらに連絡させてもらった次第です。お電話いただけないでしょうか」

 警察が沢渡を皆戸区警察署や梅座の街を破壊したテロリストとして扱う方針を決めたことは知っていた。警官を辞めるつもりだった室伏にとってはそれも悪夢の一部として終わるはずだったが、思いもかけずその沢渡から連絡が来たのである。

 室伏はしばらく考えた後、留守電に吹き込まれていた電話番号に電話をかけた。電話に出た沢渡は、以前と違って落ち着いているような、あるいはどこか投げやりで開き直っているような雰囲気が感じられ、一瞬別人かと思ったが、声は間違いなく沢渡本人のものだった。

「実はお願いがあって連絡させてもらいました」

 前置きを話すのが面倒なのか、長々と話している間に逆探知されて捕まるのを避けようというつもりなのか、沢渡は単刀直入に言った。

「志穂子を助けてやってください。彼女は石黒綾美の夫、石黒純也が持っていた別荘に監禁されています」

 話したいことや尋ねたいことは山のようにあった。だがそれらをすべて飲み込み、室伏は言った。

「わかりました。できる限りのことはします。それから沢渡さん」

 沢渡が通話を終えようとする気配を察して室伏は急いで言葉を差し込んだ。

「石黒綾美が死んだのはご存知ですか」

「知っています」

 電話は切れた。緊張感から解放され、室伏は大きな溜息を吐いた。

 室伏が沢渡を質問攻めにしなかったのは彼を刺激して沈黙や拒絶に追い込むのをおそれたこともあるが、どれほど現実離れしたことでも、とりあえずそれを現実として受け入れ、複雑な連立方程式のような謎を解明するという室伏独特の思考形態がそうさせたのだった。非現実的な事象「X」を現実と仮定し、その「X」を「Y」や「Z」に代入して連立方程式を解くという室伏独特の考え方だった。

 とりあえず沢渡そのものを受け入れ、彼の言説を事実として仮定し、それらを踏まえて行動する――事実と仮定した「X」を「Y」や「Z」に代入するのだ。それこそ自分が見た途方もない悪夢の正体を明らかにし、そこから醒めるただ一つの方法だろう。室伏はそう信じていた。





 沢渡が室伏に連絡を入れてから5日後、志穂子が救出されたことを沢渡は全国的に有名なインターネットのニュースサイトで知った。

 そのサイトに掲載された記事によると、皆戸区警察署や梅座の街を破壊した容疑者として追われている男の妻が京都府内において監禁された状態で発見されたとのことだった。ただし容疑者の男とその妻の名前や救出された場所の市町村名など、具体的なことは一切記されていない。警察当局は捜査に支障が生じることや関係者のプライバシーへの配慮から詳細は明らかにできないと言っている――記事の内容はこのようなものだった。

 志穂子は警察によって保護され、現在は警察病院に入院しているらしい。ニュースサイトの記事は志穂子が肉体的にも精神的にも衰弱してはいるものの、命に別状はないということを報じていた。身も心も健康な状態に戻るまで志穂子は病院で治療を受けることになるのだろう。

 志穂子が無事だと知った沢渡は安堵した。

 今まで志穂子の安否がはっきりしなかったことで不安定だった気持ちが一気に落ち着いた。同時に自分が志穂子をいかに危険な目に遭わせていたか、どれほどつらい思いをさせていたかを再認識して、全身が激しく震えた。震えながら何度も志穂子に対する謝罪の言葉をうわ言のように繰り返した。

 室伏が警察に対してどのように働きかけたのかはわからなかった。居場所や行動を追尾されるのを恐れて、沢渡は室伏に連絡したときに使った携帯電話を捨てていたのである。そのため志穂子が救出されたときの状況や志穂子の健康状態について室伏から連絡が来ることは無かった。

 こちらから室伏に連絡して確認をしようかと思ったが、室伏が沢渡との接点だと知った警察は室伏を厳重な監視下においているはずだ。したがって室伏と接触するのは避けたほうがいいだろう。

 その一方で志穂子に会いたいという気持ちが募った。自分と彼女の間に生じた亀裂を埋めることは困難だということは承知している。その亀裂は夫婦にありがちなものとは言え、当事者にとっては深く、大きい。おまけに自分は濡れ衣とは言え、テロリストの汚名まで被っている。それでも志穂子に会いたかった。

 志穂子への思慕を抱えながら、沢渡は逃亡生活を続けた。





 年が明け、1月になった。

 梅座の復興は順調に進んでいた。倒壊した高層ビルはすべて解体・撤去がおこなわれ、そのほとんどが総合的な都市計画に基づいて装いも新たに建て直されることになった。高層ビル以外の中小規模のビルや建物はそれぞれ損壊の程度に応じて修繕や建て替えがおこなわれた。

 2月になるといくつかの高層ビルの基礎工事が開始され、3月にはその半数が足場の組み立て作業を始めた。無傷で残ったビルや店舗には安全を確認した上で営業が許可され、微々たるものではあったが梅座に活気が戻って来た。

 その一方で被災者の救助活動は続いていた。依然として多数の行方不明者が存在し、街の半分近くは瓦礫に覆われていた。街の復興と災害救助活動が同時進行していたのである。

 3月の下旬にさしかかる頃、逃亡生活を続けていた沢渡はインターネットの電子掲示板で志穂子が病院を退院し、沢渡の自宅のマンションに戻って来ていることを知った。

 たまたま覗いたその電子掲示板で沢渡は、警察関係者と称する匿名の利用者の書き込みを見た。皆戸区や梅座でテロを引き起こした男の妻だった女が警察によって保護され、病院に入院していたが、体調が回復したため今年の3月初めごろに警察病院を退院したという書き込みだった。書き込みの主は、自分は直接その案件に関わっていないので詳しいことはわからないが、退院したその女が、夫といっしょに住んでいたマンションへ戻って来ているとも言っていた。

 その電子掲示板はネット民が普段口にはできないことや一部の人間しか知らないことを匿名で書き込むアナーキーなサイトだった。そこに書かれていることは玉石混交であり、ディープな裏事情を克明に語っているものもあればガセネタや与太話もある。それゆえ沢渡はその警察関係者の話に飛びついたわけではなかったが、強く興味を引かれた。

 作り話とか妄想の範疇に入るような話だという気はした。警察関係者というのも疑わしい。志穂子が退院後、以前沢渡と一緒に住んでいたマンションに戻って来るというのは不自然だ。彼女は自分に三行半を突きつけて去って行ったのだ。退院して帰る場所といえば実家にいる兄夫婦のところの方が自然だろう。

 仮に本当の話だとしても警察が仕掛けた罠だという可能性がある。電子掲示板の利用者を装い、沢渡に妻の居場所をそれとなく教えて彼を誘い出し、パクるつもりなのかもしれない。マスコミを通じて大々的に報じればかえって沢渡に警戒心を抱かせるので、SNSを使って餌を撒いたのだろう。

 嘘でも罠でもよかった。志穂子が救出されたということを知ってから4ヶ月という月日が経っていた。

 沢渡は冒険をしてみようと思い立った。




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