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雅たち五人が店内に入ってから半時間が過ぎた頃、駐車場に出てきていたゾンビ共も、雅たちの後を追うように店内に逆戻りしていた。
店内には無数のゾンビ共が、軽トラックのエンジン音につられて動き回っていた。
雅たちは、目当ての物を全て手に入れ、店外に出ようとしていた。
一方、キャンピングカーの彬と妙子は、ゾンビの群れに脅えていた。
「遅いな……。やっぱり、あいつら逃げたのかな?」
「でも……店の中に入ったきりだから、どこにも逃げられないと思うわよ」
「だよな……」
彬と妙子の不安は、『ガシャン』『ガシャン』という音と同時に消え去った。
雅たちが乗った軽トラックが、勢いよく店から飛び出して来たのだ。
荷台の上から、雅・剛司・直也・登の四人が、ゾンビ目がけて火炎瓶を投げつけていた。
「光一! 彬たちの方に走ってくれ!」
雅の叫び声と同時に、軽トラックはスピードを増した。
キャンピングカーの手前10メートル付近で、軽トラックは左折し、荷台からは雅と直也が木材をほり投げ、登と剛司は、その木材目がけてガソリンをかけていく。
木材はキャンピングカーと店の間に、横一列に並べられていた。
「よし、後はあの木材を燃やすだけや」と雅。
「じゃ、投げるで」
と、言うと同時に、剛司は火炎瓶を木材目がけて投げつけた。それにつられて、直也、登、雅の三人も、火炎瓶を投げる。
火炎瓶は木材付近で割れ、ガソリンを含んだ木材は火柱を立てて燃え出す。
この光景をキャンピングカーの中から見ていた彬と妙子は、嬉しさのあまり抱き合って喜んだ。
「やった! あの人らはやっぱり助けに来てくれたんや!」
「よかった! よかったね、彬!」
「ああ!」
店内から外に出てきていたゾンビたちは、火柱付近で顔を手で庇うようにして、その場から先には進めなくなっていた。
キャンピングカーに群がっていたゾンビたちは、雅たちの方に向かってゆっくりと歩きだしていた。
「20匹程やな。二人一組で、蹴散らすで!」
雅の号令と同時に、軽トラックはキャンピングカーに向かって走り出す。
近づくゾンビに向かって、雅と登がガソリンをぶっかけると、剛司と直也は、ライターと殺虫剤を使ってバーナーのようにしてゾンビを焼いていく。
ガソリンをかけられたゾンビ共は、一瞬にして火だるまとなる。
「剛司、登! 後を頼むで!」
そう言うと、雅と直也が荷台から飛び降りた。
雅と直也の役目は、両方の車にロープ取り付ける作業だった。
直也は、軽トラックの後ろ側にロープを括り付け、キャンピングカーの後ろ側に回った雅も同じようにロープを取り付ける。
仕事が済んだ二人は、キャンピングカーに乗り込もうとする。しかし、車のドアにはロックがかかっていた。
「おい! 開けろ!」と直也。
慌てて、彬が横のドアロックを解除する。
直也と雅がキャンピングカーに乗り込むと、彬と妙子は最高の笑顔で二人を迎えた。
「よかった! 助かりました」と彬。
「まだ、助かるかどうか分からへんぞ」
直也はそう言いながら、運転席に移動していく。
剛司たちの方では、ゾンビ退治も終わり、剛司と登は荷台から下り、火柱の向こう側にいるゾンビの襲撃に備えた。
『プップー、プップー』というクラクションを合図に、光一と直也が車を動かし出す。 直也はギアーをバックに入れ、アクセルを吹かす。光一も、ローギアーでアクセルを踏み込む。しかし、キャンピングカーは動かない。
「あかんわ、雅! 動かへん」
「ほんまに?」
「うん……」
「しゃあない。俺らが外から押すわ。彬、一緒に頼む」
「は、はい」
雅と彬は、外に出るためにドアを開けた。その瞬間、ゾンビが雅に襲いかかってきた。
「うわ!」
雅に襲いかかったゾンビは、凄い力で彼の腕を掴んだ。雅は、その手を振り払おうと必死になるが、ゾンビの力は意外に強く、振り払うことが出来ない。
彬は、襲われている雅を救い出そうと、ゾンビの顔を数回蹴るが、ゾンビは雅から離れなかった。
「彬! 俺の腰にあるドライバーで、こいつの頭をやってくれ!」
「は、はい!」
彬は、雅の腰ベルトに吊されているドライバーを手にすると、ゾンビの頭を目がけて飛びついた。
ドライバーがゾンビの頭に刺さると、血しぶきを上げ、ゾンビはそのまま彬が覆い被さるようにして仰向けに倒れ込んだ。
「助かったわ、彬ちゃん」
「いえ……」
と、言って彬が立ち上がった時、彬のペンダントがゾンビの手に引っかかって取れていた。その事を彬自身は気づいていなかった。
ホッと胸を撫で下ろした雅は、すぐさま車の前に回り込み、彬と二人で車を押し出した。直也もクラクションを鳴らし、光一と共に車のアクセルを踏み込むと、キャンピングカーはゆっくりと動き出し、溝に落ちていたタイヤが元に戻った。
「やった! 抜け出したぞ!」
直也が大声で叫んだ。
光一も車がスムーズに動き出したことで、それに気づいた。
「剛司! いけたみたいやぞ!」
「ああ! 光一もそれ捨てて、早よこいや!」
「おう!」
剛司と登が、キャンピングカーを目指して走り出すと、光一も軽トラックから降り、その後に続いた。
キャンピングカーに乗り込んだ七人は、駐車場の風景を見ながら、ゆっくりとその場を離れ出す。
「い~や、やばかったよな。軽の方、ガソリンが底をつきかけてたから、こいつが動けヘン時はどないしょうと、マジで焦ったで」
助手席に乗っていた光一が、微笑み混じりで言うと、今度は剛司が言った。
「ホンマやな。火炎瓶を作るためにガソリンをかなり採ったからな」
「けど、雅の発想は奇想天外やで」と登。
「ホンマに……。元暴走族の俺でも、あんなアイデアはでえへんもんな」と光一。
車内ではそんな会話をしながら、先ほどの脱出劇で盛り上がっている時、彬一人の様子がおかしかった。
「どないしたんや、彬ちゃん?」
心配そうに雅が声を掛ける。
「いえ……。………」
「どないかしたんか?」
「いえ……。あの……ペ、ペンダントが……」
「ペンダント? それがどないしたん?」
「あっ、はい……。いえ、無くなっているんです……」
彬はそう言いながら、自分の胸元をまさぐっている。
「………」
雅が無言でいると、剛司が言った。
「別にええがな。命の方が大事やろ」
「……そうなんですが……あ、あれは……コイツとの思い出の品で……」
彬は顎で妙子を指す。
「彬……いいじゃない別に」
「いや、あれだけはダメや……。あれは、お前が初めて俺にくれたもんやからな」
「でも……」
車内のみんなは、彬の次の一言を予感していた。
「あの……戻ってくれませんか」
彬の遠慮気味のその一言で、剛司がキレた。
「お前アホか! ペンダントごときで、命張れるか!」
「分かってます! でも、あれは俺にとって一番大切なもんなんです!」
「アホかお前! 命よりも大切なもんあるけ!」
剛司の怒りはだんだん増してきていたが、彬も必死で食い下がる。妙子も彬を必死で止めようとするが、彬の意思は変わらなかった。
「俺、一人でも行きますから……」
「一人って、お前……」
剛司も開いた口がふさがらなかった。
「一人でも行きますから、車止めてください」
彬がそう言った瞬間、雅が彬の胸ぐらを掴み自分の方に引き寄せた。
「俺たちは遊んでんじゃねえぞ。あの化け物共を甘く見るな」
雅の形相に、彬は少したじろぎながら、それでも自分の意志を強調した。
「分かってますよ。でも、アレだけは、絶対に必要なんです……」
車内に沈黙が流れた。その沈黙を雅の一言が破った。
「直也、戻ってくれ」
雅たち一行は、再び先ほどの場所へ向かっていた。彬のペンダントを取りに行くために……。
駐車場が一望できる場所まで来ると、車は静かに停車した。
その風景は、ゾッとするほどだった。駐車場の敷地内にはゾンビがあっちこっちを歩き回っており、数十分前までは燃え上がっていた材木も、今では消えていた。
「マジで行くんか、雅?」と直也。
「ああ……」
それだけの会話で、車内には緊張が走った。
直也は意を決したように、アクセルを踏み込んだ。キャンピングカーは、ゾンビたちの群れの中に突っ込んでいく。
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