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 彼ら七人は、たらふく水を飲んだ。特に、雅・直也・登の三人は、酒があまり飲めない為、久しぶりに水分を補給した気分だった。逆に、缶ビールの本数が少なくなってきていた為、剛司・光一の楽しみは減ってきていた。

 妙子は、料理をするにしても材料が少ない為、カップラーメンの中に、きざんで炒めた野菜をいれて、みんなに配った。それでもみんなにとっては、久しぶりにホッとする食事だった。

 彼らは札幌郊外の道路に車を停めていた。ゾンビと呼ばれる生きた屍たちの姿は無かった。食事の上手さはそのせいかも知れなかった。

 エンジンを止めて、ガソリンの節約もしていた。残り少ないガソリンの事を考えると、彼らには次なる試練が待っていたからだ。

「次は、ガソリンやな」雅が言う。

「フッー。やっかい事は、まだまだ続くか・・・」溜め息混じりに、登が言う。

 食事を終えた剛司が「次は、直也も動けよ」と命令口調で言うと、直也は不安顔で「うん」と短く答えた。

「じゃ、次は俺が運転するわ」と光一。

「いや、俺がするわ」と登。

「登はええって、俺がするから」と、今度は剛司。

 皆、それぞれが一番安全と思われる場所を確保したかった。


 スタンド襲撃作戦は立てられた。今回も雅のアイデアであった。

 作戦内容は次の通りである。


 ①ゾンビの数が少ないスタンドを探す。

 ②予備のために、ポリタンクにガソリンを入れる。

 ③バッテリーの予備を確保する。

 ④武器になる物を探し出す。

    

 そして、各自の担当が決められた。

 直也は、車とポリタンクにガソリンを入れる係りとなり、その補助役に剛司が選ばれた。車の運転は光一で、ポリタンクや武器を探す係りは、雅・登・彬と決まった。妙子は、車の中で待機である。以上の担当は、あみだくじで決められた。



 彼らは、スタンド探しをしていた。ガソリンが少なく、彼らには時間が無かった。出発して半時間は過ぎ、いよいよ窮地に追い込まれた気分だった。三軒のスタンドは発見していたが、ゾンビの数が多すぎて諦めるしかなかった。

「剛司。もう、やばいで……」光一は、助手席の剛司に声をかける。

「ぜんぜんあかん?」

「多分……」

 光一と剛司の危機感は、周りに居るゾンビの数を見てより一層強まっていた。普通の場合だと人が歩く場所ではない所を走っているのに、ゾンビたちの数は増えていく一方だった。

 テーブル席に座る他のメンバーたちも、窓から見えるゾンビの数が増えているのに気づいていた。

「化け物どもの数が増えている見たいやな……」

 窓の外を見ながら、登が呟く様に言った。

「生存者って、どれぐらいおるんやろ」

 同じように窓の外を見ていた彬が言った。

「恐いわ……。私たち、これからどうなるの……」

 顔をしかめながら、不安そうに妙子が言う。

「生き延びるのさ、どんな事があっても」

 窓の外を見ながら、雅がキッパリといった。


 十分ほど走っていると、小さなスタンドを発見した。そこにはゾンビの姿も無く、彼ら七人にとっては絶好の場所だった。

 光一と剛司は、その場所で給油することを決めた。

 予定通り、探索班の雅・登・彬の三人がドアの所で待機した。雅は、コンビニ襲撃の時と同じ様に腰ベルトに二本のドライバーを差し込み。彬は鉄の棒を用意し、登がスパナとカッターナイフを用意していた。

 光一は、大型車を大きく旋回させながら、うまく給油口の所で車を止めた。車が止まると同時に、雅・彬・登の順に車から飛び出し、レジのある部屋に向かって走り出した。その後に続いて直也も車から降り、給油ホースの所に走っり、助手席の剛司も同じ行動をとった。車内には、運転席の光一とテーブル席の妙子だけとなった。

 雅は右手にドライバーを持ち、警戒しながらゆっくりと部屋の扉を開け、中に進入して行く。すぐ後ろには彬がいた。

 登は、ジャッキが設置されている工場の方に向かっていた。

 直也は、恐怖を振り払いながら必死で給油をし、その隣では辺りを警戒する剛司がいた。

 光一と妙子の二人も、車の窓から警戒を怠らず、辺りにゾンビのいない事を確認していた。

 部屋に入り込んだ雅と彬の二人は、ゾンビがいない事を確認してから、ポリタンクを探し始めた。しかし八月末という季節柄、ポリタンクを見つけることが出来なかった。「ここには無いですね、雅さん」

「ああ……登の方に行ってみるか」

「はい」

 二人はその場を諦め、登が行った工場の方に向かった。

 一方、登は、古いポリタンクを二つ見つけ、今は武器を探していた。

「武器、武器と……」

 登は、呟きながら武器に成るような物を探していた。彼は徐々に警戒心を失い始めていた。

 車に残っていた光一と妙子が、訝しげに窓の外を睨み付けた。その先にはのっそりと歩く人影が見えたのだ。

「あれ、奴らじゃないですか?」

「ああ、多分……」

 車に向かってゆっくりと近づく人影は、間違いなく生きた屍だった。顔は青白く、目が虚ろで、歩く動作は子供より遅い。そして何よりも、身体が腐敗していた。光一は助手席側の窓から顔を出し、給油を続ける直也と剛司に声をかけた。

「剛司! 奴らが来た!」

「えっ? どこに?」

「こっち側から」

 光一は運転席側を指さす。それを見た剛司は、その様子を見るために反対側に走った。

「ほ、ほんまや・・・」

 剛司は、慌てて直也の所に戻り「直也! 早よせい!」と言い、次に雅たちの方に向かって叫んだ。 

「雅! 奴らが来た!」

 その声を聞いた三人は、慌てて車に戻ろうとした。

 ガタという物音と当時に、工場の隅から人影が現れた。その不気味な人影の口には、真っ赤な血がこびり付いていた。それは今、食事を済ませたばかりだという様子だった。「うわ!」

 いきなり現れたゾンビに驚いた登は、物に足を取られ尻もちをついた。登とゾンビの距離は、僅か五メートルほどだった。恐怖と焦りが同時に来て、登は尻もちを付いたまま、後ずさりしか出来なかった。その状況を見た雅と彬は、登を助ける為に駆け出す。「登! 早く起きろ!」

 雅が怒鳴りながら駆け寄るが、登は起き上がる事が出来ず、近づくゾンビから逃れる為に後ずさるしかなかった。

「くっそ!」登は舌打ちしながら、体制を整えることが出来ない自分に腹が立っていた。

 車に近づくゾンビの数が増えていた。どこから現れたのか想像もつかなかったが、確かにゾンビたちは増えていた。光一は、メーターパネルを見た。ガソリンは四分の三まで入っていた。

 近づくゾンビを見張りながら、剛司は直也を急かせる。直也も恐怖のあまり給油ホースを投げ出して、その場から立ち去りたかったが、責任を果たすために必死で給油を続けた。

 スタンドの作業服を着た男のゾンビは、今まさに、登を捕らえようとしていた。ゾンビは中腰になり、右腕を大きく伸ばした。それを振り払う様に、登は両足をバタつかせる。

「お前らにやられてたまるか!」

 登の必死の抵抗を物ともしないゾンビは、ついに登のズボンの裾を掴んだ。登の前身に冷たい物が走った。ゾンビの怪力が登の足を掴み、自分の方に引き寄せる。登は、何か無いかと辺りを手探りで探し始める。

「どけ、登!」

 雅が叫ぶと同時に、登はその場で寝そべった。その上を雅の右足が通り過ぎ、雅の蹴りがゾンビの顔面を捕らえていた。

 直也は、給油が終わりホッとした瞬間だった。車の横からゾンビが現れた。そのゾンビは、光一・妙子・剛司が気づかぬ内に近づいていた。

 慌てた直也は、給油口から外していたホースをゾンビに向けた。恐怖の為に力が入ったのか、ホースの先からガソリンが噴き出した。

 雅の蹴りを顔面に受けたゾンビは、大きく吹っ飛んだ。その隙に登を助け起こし、登たち三人は車の方に駆けだした。吹っ飛んだゾンビは壁に強打したが、何ともないように起き上がってきた。

 直也にガソリンをかけられたゾンビは、怯むことなく近づいて来る。直也はホースを投げ出し、車に入ろうとした。

 車の中央ドアの所で剛司が煙草に火を付けながら、車内に声をかけた。

「光一、車を動かしてくれ!」

 直也が車内に駆け込むのと、雅たち三人が乗り込むのとがほぼ同時であった。剛司は最後に乗り込んだ。ドアが開いた状態で車が動き出す。

 剛司は、開いたドアから身体を乗り出すと、ガソリンをかけられたゾンビに向かって煙草を投げ捨てた。

 ボーッという音と同時に、ゾンビは一瞬にして火だるまになる。

 雅たちの車は、火の中でもだえるゾンビを後目に、その場から走り去っていた。

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