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 彼らは、午前四時頃に札幌の街中に着いた。しかし、その街はゾンビの巣と化っしており、群がる死霊たちは本能のままに行動し、人肉を求めて彷徨っていた。

 ゾンビの行動は、本能のままに人肉を求める者と、生存していた時の習慣なのか、オフィスビルや、デパート、学校等と、人が集っていた場所に群がっていた。

 彼らゾンビは、歩くことしか出来なかったが、その速度は普通の人間が歩くよりも遅い。また、彼らには知能が存在しなかった。ただ飢えた獣のように、人肉を求めるだけで、唯一、棒きれなどを手にした時は、一歳児程度の扱い方は知っているようであった。 雅たちは、ビルの谷間に車を停め仮眠を取っていた。車の幅が二メートル四十もあるキャンピングカーなので、ビルの隙間は無くなり、ゾンビたちが入り込む隙間は無かった。

 車は前から突っ込んでおり、道路には車の後部が接しているだけだった。また、前方は行き止まり状態なので、彼らは安心して仮眠する事が出来た。

 万が一のことを考えて、雅一人が寝ずに、見張り役をしていた。

 雅は、数時間後に決行する『コンビニ襲撃』の作戦を考えながら、略奪する品物のリストをメモ書きしていた。(保存食、飲料水、武器)

「飲料水は大丈夫やが、保存食って、コンビニじゃ、カップラーメンぐらいか……。武器っいうても、カッターナイフかドライバーぐらい……。これじゃダメだな……。一挙に揃えるとなると、デパートやが、デパートは奴らがウジャウジャ居るやろうし………」

 雅は一人呟きながら、頭を抱えて悩んでいた時、突然「キャー」という叫び声が聞こえた。

 叫び声は、車の後部に設置されている寝室からだった。

「どうした!」

 雅は、後部の寝室へとつながるカーテンを開けた。

 新婚カップルは抱き合っていた。

「あっ、悪い」

 雅は、カーテンを閉めようとすると、彬が「いや、違うんです。こいつが、窓から見えるゾンビに驚いて……」と、慌てて事情を説明した。

「そっか……」

 雅はそう言うとカーテンを閉め、運転席に戻ろうとしたが、妙子の叫び声でみんなが起き上がっていた。

「何や、雅?」

 運転席の上に設置された寝室にいた剛司が問うた。

「いや、何でも無かったわ……」

「そっか……良かった……」

 人一倍恐がりの剛司は、大きく溜め息をして安堵した。その隣にいた登が、二階から降りながら、「雅。そろそろ、時間か?」

「いや、まだ寝ててええぞ」

「そっか……。でも、もう起きとくわ」

 テーブルの有った場所に設置されているベッドで眠っていた光一も起きていたが、直也は、まだ熟睡していた。


 一時間後。

 彼らは、コンビニ襲撃の作戦を念入りに済ませ、いよいよ行動に移ろうとしていた。「直也、起きろよ」

 登が、彼の身体を揺すりながら声をかける。

「う、うーん……」

 身体を伸ばしながら、直也は起きた。

「………」

 まだ、ボーッとしている直也に向かって「出発やぞ」と剛司が言う。

「あっ、はい……」

 直也は、目を擦りながら運転席に移動する。助手席には、光一が乗っていた。中央ドア付近で立っていた雅と剛司は、テーブルを出し、ソファーのセットをしていた。

「光一、どこ行くん?」

 何も知らない直也は、行く場所さえ分からなかった。

「ああ、適当に走ってや」

「適当って……?」

「走りながら、奴らが少ない場所を探すんや」

「少ない場所って……」

「コンビニを襲撃する為やろ」

「ああ。そっか……」

 直也は、ようやく納得し、車のエンジンをかけた。

 そのエンジン音で、車の後ろ側に居たゾンビの群が、車に近づこうとしていた。直也は、バックモニターでゾンビの存在を確認したが、ためらわずにアクセルを踏み込み、車を発進させた。車の後外部では、ゾンビを三匹(三人?)程、ひき殺していた。

「ドン。ドン」と数回、ぶつかる音が聞こえていたが、車内では誰一人驚いた者はいなかった。


 コンビニ襲撃の作戦内容は、次のように決定していた。

 ①ゾンビが少ない店を探す。

 ②車を横付けに出来る店を探す。

 ③襲撃チームは、剛司・雅・光一の三人で、彼らが店内のゾンビを倒す。

 ④運搬チームは、登・彬の二人で、彼らは店内の商品を車に運ぶ。

 ⑤妙子は受け取り役で、運搬チームが運んできた商品を車内に運び込む。

 ⑥運転手の直也は、いつでも車が動かせるようにしておき、見張り役も兼ねる。


 彼ら七人は必死の覚悟で、この作戦を遂行しようとしていた。  

 静まり返った街中を走ると、そこら中にゾンビの姿があった。その数は、百や二百ではない。数えることの出来ないほどの生きた屍たちが、彷徨い続けていた。直也は、車を運転しながら、恐怖と気味悪さとで、背筋に寒気を感じていた。

 雅、剛司、光一の三人は、工具箱から武器になりそうな物を選んでいた。剛司は、スパナを手にし、光一はジャッキの鉄の棒を手にしていた。雅は、ドラバー二本を腰のベルトの間に納めた。

 彬と妙子は、後部のダブルベッドの所に腰をかけ、震える妙子を彬が励ましていた。

 三十分程過ぎた頃、直也と光一の目に一軒のコンビニが見えた。

「直也。あそこは?」

「うん。奴らの数も少なそうやな」

「雅! あそこは?」光一は、コンビニを指さしながら言った。

 雅は身体を乗り出して、フロントガラスからコンビニを見た。

「・・・三匹程やな」

 コンビニ店内のゾンビの数を確認した雅は、直也の肩を叩いて作戦決行の合図をおくった。

 助手席の光一が、選んでおいた鉄の棒を右手に持ち、後部中央の入り口に向かう。剛司と雅は、ドアの所でスタンバイオッケだった。登と一番後ろに居た彬と妙子も、テーブル席に集まっていた。


 コンビニのガレージで、車の体制を整えた直也は、店のドアを塞ぐ為に、バックで車を動かした。車は左ハンドルなのだが、中央入り口となるドアは、右側に付いていた。 車内では、「ピィ・ピィ・ピィ」と、バックする時の警告音だけが鳴り響く。直也は左右のドアミラーと、バックモニターを見ながら、慎重に車を動かし、雅・剛司・光一らはドアの前で、いつでも出動出来る体制を取っていた。

「オッケや!」

 ドアの窓から外を見ていた剛司が叫ぶ。その声を聞き、直也が車を止めた。

 車の周りには、ゾンビたちが近づいてくる。直也は、恐怖のあまり運転席から後ろ側に移動した。

「じゃ、行こか。剛司」雅が言う。

「よ、よっしゃ」

 雅は車のドアを開けた。ドアは外開き式に成っており、四十五度程度しか開ける事が出来なかった。それでも、人一人が出入りするには十分である。ただ、その僅かな隙間から、ゾンビたちが入ってくる事だけが心配だった。

 雅は車のドアを開け、店のドアを押し開けた。続いて剛司、光一の順に店の中に突入した。三人がいた位置には、登が素早く待機した。

 店内にいた三匹のゾンビ共が、雅たちにゆっくりと近づいてくる。雅は、恐怖心で一杯だったが、一番最初に近づいてきた男のゾンビに攻撃態勢を取った。腰ベルトに差し込んでいた二本のドライバーを左右に持ち、近づくゾンビの右側に回り込みながら、右手のドライバーをゾンビの頭めがけて振り下ろした。ゾンビは頭から血しぶきを出しながら、うめき声とともに倒れた。

 雅が倒したゾンビのすぐ後ろには、女性のゾンビが近づいていた。剛司はそのゾンビをめがけて体当たりし、倒れ込んだゾンビに馬乗りして、右手で持っていたスパナで、頭部を二度、殴りつけた。

 雅と剛司の背後からは、最後の一匹のゾンビが近づいて来ていた。光一は、そのゾンビの真っ正面に立ち、右手に持っていた鉄の棒を上から振り下ろした。鉄の棒は、ゾンビの頭部に命中し、ゾンビはうめき声とともに倒れた。

 その様子を見ていた登が店内に突入し、彬もその後に続いた。

 登は、店内の奥に設置されている冷蔵庫から、飲料水をカゴにほり込んでいく。彬も同じように、カップラーメンをカゴにほり込む。

 店内に突入した五人の警戒心は異常な程、鋭かった。車のエンジン音すら、遠くに感じるほど、彼らの神経は店内にだけ研ぎ澄まされていた。

 雅と剛司は、店内の一番奥にあるドアの所で待機し、ゾンビに警戒した。あえてドアを開けず、もし奴らがいたら出てきた所で殺す作戦を取っていた。

 光一は、登たちの仕事を手伝いながら、車で塞いではいるが、僅かな隙間から忍び込まれる事を用心していた。

 車内では、登たちが運んでくる荷物を妙子が車の中に納めていく。直也は運転席の近くで、ゾンビたちの動きを監視していた。

 車の周りには、ゾンビの群が出来上がっていた。運転席側の窓ガラスを叩く者もいれば、テーブル席の大窓のガラスを叩く者もいた。もちろん、外部のボディーを掻きむしる者や叩く者もいた。

 妙子は、その異常な音に恐怖しながら、必死に荷物を運び込んでいた。

「雅、もうええで! 脱出や!」登が叫ぶ。

「分かった!」

 雅と剛司は、登の合図と共に車に戻っていく。

 あまりにもうまく行きすぎた。簡単すぎた。彼ら七人は油断し出していた。

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