第15話 お母さん

「あれまー、アンタのごどだがら、部屋は汚ねべど思ってだっだ!なんだべ、おどごでもでぎだか?」


お母さんが来た。私は東京駅まで迎えに行き、そこから電車を乗り継ぎ、最寄り駅から20分歩き、アパートへ着いた。

私は昔から部屋を片付けるのが苦手だった。つまり、昔から汚部屋に住んでいたのである。

だからお母さんは私の部屋は汚いと思っていた。しかし、いざ来てみたら、見違えるような部屋に驚きを隠せなかった。

「んでねよ。おどごなんてまだ、誰もいねじゃ。あんまり汚ぇがら、オラ1人で頑張って掃除したのっす」


(やっぱりお母さんと話してると訛りが出てくる…)


「ひゃー、んだってが!オラびっくりしたじゃ。これだればいづ嫁さ行っても大丈夫だな」

お母さんはそう言うと、小ぶりのキャリーケースの中から、お見合い写真を出した。

「おめ、まだ売れね小説書いでるんだべ?それよりも、いいあんべ年なんだがら、そろそろ結婚でも考えだら?ホレ、お見合い写真ば、持って来たがら見で見ろ」

「おら、まだ結婚する気ねでば」

と、言いながら、チラリとお見合い写真を見た。


(ん?なかなかの良い男…。いや、まだダメだ!私には小説がある!)


「ホレ、ながながのびだんしだべ。銀行さ勤めでらど。まずめでしごどっぷりも評判がえーどよ。おめよりも3つ年下だど。わげほうがえーんだ」

「オラ、まだ結婚すねし見合いもすね。東京でもう人肌脱いでみるまで、うぢさば帰らねよ」

「なーに、売れねのわがったべじゃ。まだかぐってが」

「んだ。うれでねけども、まだあきらめね」

「ふーん、おめもがんこだな」

お母さんは諦めたようで、お見合い写真をしまった。

「ところで明日のふぐおがこうへいは、何時がらなんだべ?」

「明日の3時がらだ」

「浅草さはいづいぐ?」

「んだな。今いつづ(1時)か?お昼過ぎだばりだから、今がらご飯食べながらいぐが」

「いいよ。んでこのままいぐべ」

私とお母さんは、また最寄り駅まで行き、電車に乗った。

ここから浅草までは1時間くらいかかる。お母さんは少し疲れたのか、電車の中で眠っていた。


「ほーあれがスカイツリーだが!ぜんぶたげなー(ずいぶん高いな)!」

浅草雷門からスカイツリーを見上げ、お母さんはあまりの高さに驚き、少し目眩をおこした。

「大丈夫だが?」

「ん、大丈夫だ。ちょっとびっくりしただげだ。すかす(しかし)、すんげひとだなや」

「オラも始めで来たけど、今日は平日だがらまだいいほうでねの?」

「やっぱり都会はちげーんだな。すかす、この立派な提灯。すんげーな。コレ見だだけでも価値があるべ」

雷門をくぐり抜け、仲見世通りを歩く。両脇から沢山の出店から声が聞こえた。まずは小さな串刺しのきびたんごを食べてみる。粉がむせて咳き込んだ。

「本場の雷おこしだじゃ」

そう言って、雷おこしも買った。

次はまんじゅう。ノーマルのこしあんを頼み食べてみた。

「油で揚げるまんじゅう、始めで食ったじゃ。ながながうめな」


「お母さん、何がほしの?」

立ち食いをし終わって、歩きながら聞いてみた。

「じづわよ、あげー(赤い)下着っこ欲すくてよ。健康長寿にいいって聞いで、ソレめあでよ」

「あー、あがい下着は巣鴨だ。そっちが元祖だ」

「ありゃー!んだってが!」


ガッカリしたお母さんは

「オラ、疲れたで」

と言ったので、食べるだけ食べて、このままアパートに帰った。

お母さんはアパートに着くと、すぐに和室に寝転び、イビキをかいて寝てしまった。


赤い下着は私が通販で頼み、後日送ることにした。

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