第5話 飲み、呑み。
「————って事があったんだよ」
ここは会社の近くの居酒屋だ。咲良と付き合う前は週一で通っていたものだが、今日はかなり久しぶりだ。今太一の目の前にいる同僚、
「お前、全然良いじゃん! 俺の彼女なんて汚ねえぜ、汚ねえ」
「汚ない?」
「風呂入る時にな? 床にバスタオルとか置くんだよ。俺が『洗った体それで拭くのか』っつったら、なんて言ったと思う? 『床も掃除してるから汚くない』とか言っててさ。いや、それでも汚ねえだろ? どう思う?」
「ええー? まぁ、汚ないかもな? でも可愛いじゃん」
「いやいや、一緒に使う風呂の中で
「うわぁ、それはやだな」
「だろ? だからお前の彼女なんて全然マシ! マジで羨ましー」
そう言って健吾が手元のジョッキを
「そこなんだよなー。俺、さっきの話、不満とかで言ったんじゃないんだ。俺には出来すぎた女だなぁって思ってさ。俺、甘えすぎてない?」
串に刺さった鳥のもも肉を齧って抜き取り、口をもぐもぐさせながら、太一が言う。
「はぁ? 甘えられるんなら、どんどん甘えろよ? 俺ら男はいつまで経ってもガキ、それが奴ら女の言い分。なら甘えさせるのが奴らの責任なんだよ。うん、そうだ。男を甘やかすのが奴らの義務だ。女の身から出たサビ」
健吾が箸で口に運ぶのは、焼いたホッケの開きだ。
「身から出たサビって、そんな使い方する言葉だっけ?」
「あ? 知るかよ。要するに、女も好きで甘えさせて来んだから、あんま気にする事じゃねーよ」
太一は健吾の前にある、ホッケの載った平たい皿を見る。
食べ方が下手くそで、剥がされた背骨が所々で折れており、身の下の皮が破けてる所も有れば、細かくほぐされすぎた身が散らばってる所もある。小骨の多いふちにもまだ身が残ってる部分もあり、ぐちゃぐちゃだった。
「お前ら二人でいる時、メシ作るのって彼女のほう?」
太一が訊く。
「おう。なんでも作ってくれるぜ? こういう魚も捌けるしな?」
「お前、甘やかされてんなー」
「だろ? それでいーのいーの」
「……それで、良いのかもな」
太一はジョッキの余りを飲み干すと、ビールのおかわりを注文するのだった。
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