第3話 衝動PART II。
〝ちょっと遅くなるから 先に部屋で待ってて〟
太一からのLI○Eだ。
実はもう鞄から、部屋の鍵を取り出していたりする。
慶は今、母親の所に居る。明日は太一と二人だけで旅行に行く。「恋愛をする前に育児をしろ」なんていう世間の目を気にするあまり恋人らしい事ができないでいた咲良と太一が、久しぶりにカップルとして、時間を共有する事ができるのだ。
以前太一に「中々遊べなくてごめんね」と言った事がある。すると太一は「月一でも、忙しいのに俺と会ってくれる事実が嬉しい」と言ってくれた。その言葉が本当に嬉しかった。でも、世間の目云々もそうだけど、やっぱり自分は慶が一番大切で、どうしても自分の恋愛は後回しになってしまう——そんな旨を咲良が太一に伝えると「じゃあさ、育児とか生活とかさ。それも恋愛の一部にしよう」と太一は言った。咲良は、そんな太一に自分は甘え過ぎてると感じている。
だから、今回の旅行は太一の為に、咲良が提案したものだ。だが「たまには二人きりになりたい」という、咲良の強い本音がもたらしたものでもある。
そんなバランスで二人は、繋がっていた。
——さーて太一が帰るまで何しようかなー? 明日はいっぱいラブラブできると良いなー。いや、もちろん今夜も。
咲良はドアを開けて、太一の部屋に入る。玄関は狭い。だが戸の奥にあるのは、なんとも贅沢な空間だ。一人暮らしだというのに、無駄に広い部屋である。
しかし、すっきりとしては、いなかった。
ゴミなどが散乱しているわけではない。だが居間の真ん中に置かれたダイニングテーブルの上が、ぐちゃぐちゃだ。
テレビのリモコン、まだ中身のあるワイン、分厚い漫画雑誌、何故か使われず包装されたままのスマホ用ケーブル、鍵などが付いていないキーホルダー。使えるのか使えないのかわからない単三電池や、コンビニのポイントで交換したであろう箱に入ったままの茶碗など、ありとあらゆる物で賑わっている。
部屋の隅には洗濯はしたのだろうがそのままかごに入れられ放置された衣類があり、背の低い小さなテーブルの上にもライターだとか、爪切りだとか、耳かきだとか、そういう物達が載っている。
——何故こんな部屋に、私を呼んだ?
咲良が、衝動に駆られる。
——普段からテキトーにしてるから私の部屋で余計なコトするのよ。だから私は、悪くない。ふふ、うふふふふ。
今この部屋に、咲良の衝動を止める者はいない。
咲良はダイニングテーブルを見下ろし、微笑んだ。
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