ぐちゃぐちゃ×3

呂兎来 弥欷助(呂彪 弥欷助)

第1話

「もんじゃ食べに行こうよ」

 卒業して以来に会った友人が、昼食を提案してきた。

「え、もんじゃって私食べたことないなぁ……お好み焼きの方がよくない?」

「食べたことないの? いい機会じゃん! どっちも食べられるお店にすればよくない? 私がもんじゃ頼むから、ちょっと食べてみて!」


 目を輝かせ早口で言った友人に圧倒され、私は彼女について行くことになった。


 楽しそうな彼女を見つつ、一口くらいならいいかと、食べず嫌いに挑戦する気持ちになる。


 大通りを一本入ったところで『もんじゃ焼き』と書かれた店があった。彼女は見るなりイソイソと入って行く。

「大丈夫、お好み焼きもあるから!」

 私の不安を読んだかのように、明るく彼女は言った。


 お好み焼き屋と変わらぬ店内。私がキョロキョロとしていると、

「二名で」

 と、彼女が店員さんに対応していた。


 テーブルに案内され置かれたメニューに目を通す。

「もんじゃも色々あるんだね……」

 メニューを見ながら呟く。

「頼んでみる?」

「いや、私は『海鮮スペシャル』にする」

「だよね」

 にっこりと返答すると、彼女も笑顔を返してくれた。

 その笑顔で彼女は、先ほど席に案内してくれた店員さんを呼び注文をしてくれる。


 他愛のない会話中、注文したものが届く。

 待ってました! と彼女は具材の入った物を手に取り、

「初めに土手を作ってね」

 と、手際よく私に披露していく。

「グツグツしてきたら……」

 海鮮スペシャルを混ぜながら横目でチラリとしか見ない私に気にせず、熱い視線がもんじゃに注がれている。

「よーく混ぜる」


 いよいよ──。




「ダメだ!」

 握っていたボールペンを紙の上でグルグルと動かす。


 まさにぐちゃぐちゃ。


 没だ。


「あ~! 締切まで一日を切ったのに!」

 今回、寄稿する短編集のテーマが『ぐちゃぐちゃ』なのだ。


「『ぐちゃぐちゃ』ってどんなだよ! あ~、私の心だ!」

 この心境を物語にするには、時間が足りない。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

ぐちゃぐちゃ×3 呂兎来 弥欷助(呂彪 弥欷助) @mikiske-n

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ